第16章 ナツ VS 東雲ハコネ
俺は応接間から出た。
目の前にいるのは、小学生にセーラー服を着させたような子供だ。確か、俺と同じ歳? という事は、コイツ16歳なのかよ。でも、日本刀を持っているので戦えるのか?
とりあえず、俺はハコネに話をふる。
「なあ、新宿詳しいんだろ? なんか、面白い所あるか?」
ハコネは小声でボソッと呟いた。
「こっち来て……」
なんだ、コイツは愛想ゼロだな。冬子の前ではニコニコしていたのに……。まあ、俺は案内してもえればいいだけだ。俺はハコネの後をテクテクと歩く。でも、冬子の妹みたいなものだな。
少しはコミュニケーションとっておくか。
「なあ、冬子が失敗した話とかない? 小さい事に小便もらしとか? アハハ、なんでもいいけどさ、なんかある?」
「………」
ハコネは返事さえもしない。玄関まで行くと、庭の方でまで移動をした。
俺は庭を見て、驚いて声が出てしまう。
「すげー、江戸時代のサムライの庭みたいだ。竹の水が流れるやつもあるし、池には鯉もいるし金持ちだなぁ。冬子は楽な人生でいいなー」
「………」
ハコネは無視である、もしかして人見知りとか?
それより、俺は庭の鯉が気になり、しゃがんで池の鯉をみようとする。おっー、スゲー、一杯いるぞ。一匹いくらするんだろう? そこで、鯉をよく見ようと池を覗き込む。すると、とんでもないモノが池に映っていた。そう、日本刀を振り上げたハコネの姿があったのだ。
俺は瞬間的にジャンプをして、ハコネの斬撃をかわした。
「ふう、危なかったぜ……。テメー、何すんだよボケ」
「それはこっちのセリフや。おどれは誰のおっぱい揉んでいるんじゃ、ボケ。冬子ちゃんをバカしているんか? 殺すで、ほんまに……」
「ハハハ、別に殺すほどのことか? 冬子の胸を揉むのは初めてじゃないし、別にいいだろ?」
ハコネは鬼のような形相で、刀を構える。
「もうええわ、おどれはココで死ねや」
そう言うと、日本刀を斜めから振り下ろしてきた。俺はバク宙をして、ハコネの攻撃をかわす。ためらいなく、殺意のある斬撃で、しかも速い。
ハコネがこちらを睨む。
「おどれ、口だけとちゃうな?」
「まあ、落ち着けよ」
しかし、ハコネは話を聞こうとはせずに、刀を顔に向かって突いてきた。
くそ、速い……。コイツ、かなり強いんじゃね? 俺はボクサーのように、腰と首を使って、最小限の動きでかわした。ハコネは攻撃が当たらないと判断して、攻撃を変えてきた。素早く、身体を半回転させて、右から切り込んできた。
ヤバッ、これはよけられん。俺は上段回し蹴りで、ハコネの刀を受け止めた。庭に金属音が響いた。
日本刀とブーツがぶつかり合ったのだ。
「おい、チビ女……。マジで、いい加減にしておけよ」
「おどれ、靴に鉄板でも仕込んでおるんか? 外国人は卑怯な奴ばかりやな。さっさと、日本から出ていかんかい」
「おいおい、後ろから、切りかかる方が卑怯だろ? お前は何様のつもりだよ」
「おどれこそ、この家でデカいツラしおって、調子にのったらあかんで」
そして、互いに離れて距離を取った。
マジで切れそうだぜ。この俺様も我慢の限界ってモノがあるのだ。
「冬子の妹って言うから、こちらからは攻撃しなかったけど、あんまり舐めんなよ。いい加減にしないと殺すぞ」
「おう、殺せるものなら、殺してみいや、このボケ」
「ああ、分かったよ。後悔するなよ、チビ女」
優しくてしてやれば調子のりやがってよ。しばらくは病院暮らしをしてもらうぜ。ハコネは日本刀を構えて、抜刀の構えをした。俺はハコネに右後ろ回し蹴りをぶち込んだ。
結論から言うと、俺の蹴りを止められた。だけど、ハコネではない。俺とハコネの間に第三者が入って、喧嘩を仲裁したのであった。その人物は茶髪で、ジーンズに軍服を羽織った女性だった。年齢は20代後半くらいだろう。
俺の右モモを左手で抱えて、右手に持ったサバイバルナイフで、ハコネの日本刀を受けとめた。くそ、2人の攻撃を同時に止めやがった。この女は一体何者だ?
そして、女は口を開いた。
「ハコネお嬢様、ナツ様、2人ともココには引いてください」
ハコネがその言葉に反論する。
「サナエちゃん、だってコイツが悪いんだよ。冬子ちゃんをバカにしたりするからさ、だから止めないでよ。だって、冬子ちゃんの為だよ」
どうやら、ハコネとは顔見知りであり、仲もよさそうな関係だ。名前はサナエというみたいだ。
サナエはニコリと表情を見せた。
「冬子お嬢様の為という事でしたら、この件を知らせてもよろしいでしょうか? ご友人と喧嘩されてと知ったら、ひどく悲しむと思われますけど……。それでも、よろしいでしょうか?」
「嫌だ、嫌だ、サナエちゃん、それは止めてや。冬子ちゃんに嫌われたくないんよ」
「では、この件は内密しますので、刀を収めてください。ナツ様もそれでいいですね?」
なるほど、この件は無かったことにするのか……。俺もこの家に世話になっている以上は、事件を大きくしない方がいいな。
俺はサナエの条件を飲んだ。
「ああ、俺も冬子には言わないよ。約束する」
すると、ハコネは日本刀を鞘に納めた。それから、こちらに指をさしてきた。
「おい、次に冬子ちゃんに恥をかかせたら、この東雲ハコネが許さへんからな」
そう言って、ハコネは立ち去って行った。
そして、サナエは深く頭を下げてきた。
「ナツ様、大変失礼しました。ハコネお嬢様も悪気はないのですが、冬子お嬢様の事が好きで、嫉妬しているだけなのです。どうか、気を悪くしないでください」
「もう、いいよ。ところで、アンタ誰だ?」
「これは申し遅れました。私は天王洲家の赤坂組の若頭をしております、名前は赤坂サナエと申します。天王洲家には古くから使えており、お世話係も兼任しております。何か困った事があったら、何でも申してください」
サナエは頭をペコペコと下げる。腰は低いが、この女は相当強いのが分かる。俺が回し蹴りを放つ前に、太ももを掴んで勢いを殺しやがった。おそらく、何十人も殺してきている。
そういう、オーラがある程度は分かるのだ。まあ、仲間なら心強いな。それより、新宿の案内役はどうしよう?
俺はサナエにお願いしようと思った。
「サナエちゃん、いやサナエさん頼みが……」
サナエはクスクスと手を口に当てて笑い出す。
「ナツ様、好きなように呼んで頂いて構いません。みんなは、サナエちゃんと呼んでおります」
「じゃあ、サナエちゃんで……。ところで、新宿の賭場を紹介してよ。ヤクザだから、そういう場所は詳しいでしょ?」
「それでしたら、網代組の賭場がよろしいかと思います。日本のレトロな賭場がありますので、オススメでございます。ナツ様、少々お待ちください」
サナエちゃんはそう言うと、その場を離れた。




