第15章 天王洲本家へ
しかし、ナツは窓の外を見て、何かを思いついたらしい。
「冬子、次の曲がり角を曲がったら、俺は助手席からおりる」
「おいおい、1人で逃げる気じゃないだろうな?」
「まあ、任せろ。とりあえず、冬子がおとりになって、このコンテナ前まで引き付けてくれ。じゃあ、また後で」
ナツは一体に何をする気だろう?
しかし、もうこのままだと時間の問題であり、考えている暇ない。それに、このトラックが怪しいと気がついたのはナツのおかげだ。私はナツを信じる事にした。
それにデスドローンがあるって事は、関東移民学生連合会ナンバー2のワン・マーメイが近くにいるはずだ。そいつを捕まえれば、父さんの仇であるワン・シャンリンの居場所が分かるはず。やるしかない。
私はドリフト走行で、左折すると大きな通りに出た。それと同時に、ナツが助手席から飛び出した。ああ、あのまま逃げそうで怖い。
私はナツの指示通りに、デスドローンを引き付けて、元のコンテナがある場所まで移動したのであった。ふと、コンテナの天井部分を見ると、ナツがいつのまにか立っていた。
そして、手には何か網らしきものを持っていた。投網? ナツはそれをデスドローンに向かって、ぶん投げたのであった。
すると、プロペラ部分に引っかかり、操縦不能になったデスドローンは海に向かって落ちていった。海に落ちて、3秒後に爆発して、水柱が高く上がった。
あんなのに接触したら、跡形もなく消えていたはずだ。ふう、なんとか助かった。しかし、いつのまにか4tトラックは消えていた。くそ、また一から出直しだ。
その頃、4tトラックは品川エリアから脱出していた。荷台の中では、ワン・マーメイは姉であるワン・シャンリンと電話をしていた。
「姉さん、品川エリアからは脱出したよ」
「敵はどうした?」
「デスドローンが一機やられた。それと、東洋人の正体が分かった。天王洲文太の孫娘だ。名前は天王洲冬子で、賞金稼ぎをしている女だ」
ワン・マーメイは次の指示をあおいだ。
「姉さん、どうする?」
「まあ、いずれ殺し合いになるな。しかし、天王洲会は邪魔だな。内部分裂でもしてほしいものだな。まあ、それはこちらで何とかする。それと、もう一人の西洋人は?」
「名前は分からない。でも、デスドローンを潰したのはソイツだよ。赤毛で頭悪そうな顔をしていたから、私は嫌いなタイプだ。殺してもいい?」
ワン・シャンリンはため息をつく。
「まあ、落ち着け。目的を見失うな。とりあえず、安全な場所まで移動しろ」
「了解」
こうして、ワン姉妹との初接触は終わったのだ。まあ、初回は引き分けって所である。
私は天王洲の本家にハコスカを走らせた。門には鉄板が仕込まれており、拳銃くらいでは壊れることはない。よく、旅館のようだと言われるが、ここはヤクザの事務所兼住宅である。そう、私の育った家である。
門が開くと、若い衆たちが頭をさげてくる。
「お嬢、おかえりー」
「お嬢、元気ですか?」
「お嬢、また美人になりましたね」
まあ、顔は強面の連中ばかりだが、幼いころから知っている顔なので怖くはない。
私はナツを連れて、応接間に向かった。今日あった事を若頭である伯父さんに報告するためだ。応接間は広く、沢山のソファと大理石が置いてあった。壁にはおじいちゃんと父さんの写真が飾ってある。
応接間のソファには伯父さん、シマ姉さん、ハコネが座っていた。シマ姉さんは、天王洲会の若頭補佐をしている。そして、私の姉と同級生であるのだ。銀髪に着物姿で歌舞伎町でも目立つ存在だ。
その横の中学生みたいな子は東雲ハコネだ。シマ姉さんの妹であり、剣術が得意な賞金稼ぎである。私よりは2つ年下の16歳なので、ナツと同じ年齢である。この東雲姉妹とは生まれた時から、交流があるので、もう実の家族みたいなものだ。両親が同じヤクザであるのも大きい。
シマ姐さんがソファを立って握手を求めてきた。
「冬子ちゃん、久しぶりやな。元気そうで何よりや、ハハハ」
「シマ姉さんも元気そうでよかった」
「冬子ちゃん、また身長が伸びたとちゃう?」
そこにナツが、私の胸を揉んできた。
「ハッハハ、ここはそうでもないですけね」
「バカ、ナツよせ。くすぐったい」
このやろう、私はナツの頭にゲンコツを食らわした。
「いたーい」
「ざまあみろ」
せっかく、大人になった所を見せようと思ったのに、ナツのせいで台無しだ。
シマ姐さんケラケラと笑い出す。
「なんや、その子…。おもろい子やなあ、冬子ちゃんの友達か?」
「うん、ナツっていうんだ。イタリアで知り合った外国の賞金稼ぎだ。もう、1年は一緒に旅をしているよ」
「そうか、そうか……。冬子ちゃんに友達なんて、なんか嬉しいわ」
そう言って、財布から20万ギルくらいを出した。
それをナツに渡した。
「ウチは冬子ちゃんの姉や。ナツちゃんとやら、これで飯でも食べてや。ほんの挨拶代わりや、遠慮はいらんで」
ナツは目をキラキラさせて、お金を受け取ろうとする。
「はい、任せてください、冬子とはマブダチですから」
そこで、私は間に入る。
「シマ姐さん、コイツを甘やかさないでくれよ。そういうのはいいから……」
そう言うと、シマ姐さんは金を引っ込めた。
「冬子ちゃんがそういうなら、仕方ないわ。ナッちゃん、ごめんな」
すると、ナツは落胆する。
「あっああー、冬子のバカめ」
ナツにハコネを紹介しておこう。ハコネは短気だったのが直っているといいのだが……。ハコネはナツと同じタイプの問題児であるのだ。この2人が喧嘩すると面倒だから、お互いに最初の挨拶は、キチンとしておいた方がいいだろう。しばらくは顔を合わせる関係になるのだ。
ハコネはニコニコにした笑顔を見せた。
「冬子ちゃん、お帰りぃー」
「ただいま、ハコネ」
すると、ハコネが私の胸に飛び込んできて、思いっきり抱きついてきた。
「ずっと、会いたかったよ。アキお姉ちゃん見つかった?」
アキお姉ちゃんというのは、私の実の姉であり、現在は行方不明の状態だ。
この旅の目的の一つが姉と会う事だ。
「まだ、探している最中だよ」
「ううん、大丈夫だよ。冬子ちゃんなら、必ず会えるよ」
しかし、ハコネはあまり変わっていない。身長も低く、体も細くて子供みたいだ。性格もこの通り、甘えん坊である。
そこに、欣二伯父さんが声をかける。
「冬子、感動の再会もいいが、そろそろ今後の話をしないといけない。都庁のテロ爆破の件だ。おそらく、ワン姉妹だろう」
「伯父さん、爆発をしかけたのはワン・マーメイだ。都庁で怪しい車を追ったら、デスドローンに襲われたよ」
「そうか大変だったな。とにかく無事でよかった。その話を詳しく聞かせてほしい。その悪いが、家族だけで話をしたい」
そう言って、ナツの方を見た。
ナツが邪魔だから、部屋を出て行ってくれと言っているのだ。可能性は低いけど、ナツがスパイの可能性だってあると言いたいのだろう、情報が洩れることは、組の崩壊へと繋がるのだ。
そこで、私はハコネにナツの面倒を任せる事にした。
「ハコネ、ナツに色々と新宿を案内してくれないか? 2人とも同じ年だし、気を使わなくていいだろ?」
ハコネがニコリした笑顔で右手をあげる。
「冬子ちゃん、任せてよ。じゃ、ナッちゃん行こう。今日から、友達だね」
私はナツに話しかける。
「ナツ、またあとでな。ハコネと仲良くね」
「ああ」
ハコネはワガママに癇癪する事があったが、3年の月日で気遣いは出来ようになったみたいだ。この状態なら、ナツと揉めることもなさそうだ。それから、2人は応接室から出ていった。




