第10章 スカジャンの女(オランダ編)
だが、こんな暮らしも長くは続かなかった。
それは俺のターゲットの選択ミスにより、全てが崩れていこうとしていた。俺はスラム街の広場に歩いていた女に目をつけた。黒髪の東洋人で、スカジャンを羽織っており、下はジーンズ姿である。
どうやら、自分の車でココに来たみたいだ。駐車してある車種は分からないが、どうやら、古いスポーツカーみたいで、高いってのは分かる。この時代にガソリン車に乗っている奴は金持ちしかいないのだ。
俺は近くにいた仲間に聞いた。
「なあ、あそこにある車って高いか?」
その仲間はスマホで調べてくれた。
「ああ、日本の車でマツダのコスモスポーツって車種だな。100年前の車だから、4000万ギルくらいはするな。かなりの金持ちだから、絶対に逃がすなよ。俺はジョバンニに連絡して、準備させておく。ナツ、頑張れよ」
「ああ、分かっているよ」
よし、コイツにターゲットを決めた。日本車って事は、おそらく日本人なのだろう。日本人は金持ちが多いので、大きなチャンスだ。これで、今日もジョバンニに頭を撫でて、沢山褒めてもらおう。
俺はスカジャンの女に声をかけた。
「そこの綺麗なお姉さん、お花どうですか?」
「ふーん、いくらなの?」
よし、足を止めたので、これはいけると思い、笑顔で女の顔を覗き込んだ。女はニコニコしているが、目が笑っていなかった。なんだか、嫌な予感が頭をよぎった。
だけど、俺はいつも通りに愛想よく喋る。
「お花高いですけど、買ってくれませんか? ひとつ、100ギルもしますけど、どうですか? 母親の薬を買いたいんです」
「いいよ、全部買うよ。お釣りはいらないよ」
そう言って、財布を出すと、札束がギッシリだった。
おいおい、100万ギルくらいはあるぞ。それに手首にはダイヤのブレスレットを付けていた。先程の不安より、目の前の金を考える事にした。スカジャンの女は1万ギルをくれた。
そして、スカジャンの女はお願いをしてきた。
「ねえ、全部買う代わりに、うなじ見せてくれない?」
なんだ、この女? ロリコンの同性愛者なのか? でも、ここで素直な少女キャラを崩すわけにもいかない。
俺は仕方なく、女の言う通りに、うなじをみせてやった。
「あっ、やっぱり、特徴的なほくろがあるね。良かった、良かった」
ほくろ? そんなのどうでもいいだろ? さて、今度はこっちの番だ。
俺はスカジャンの女に地獄を見せる事にした。
「お姉さん、あっちの土産屋は観光客用で高いよ。こっちの店が安いよ、案内しようか? 花を買ってくれたお礼だよ」
「じゃあ、案内してもらおうか? ナツミちゃん」
ナツミちゃんって誰だよ? おれの名前はナツだぞ。この女、俺の事を知っているのか? すぐに急激な不安に襲われた。前に騙した奴が雇った警察とか?
俺は女に気づかれないように聞く。
「お姉さん、ナツミちゃんって誰? 知り合いと間違えているの?」
「ああ、ごめん。日本語でお嬢さんって意味なんだ」
なんだ、そういう意味かよ。
ビビらしやがって、この日本人め。
「じゃあ、こっちの路地裏に行くから、ついてきてよ」
「はいはい、よろしくー」
こうして、俺はジョバンニがいる場所まで、スカジャンの女を誘導したのであった。
裏路地に入ると、ジョバンニが前に立ちふさがり、待機していた仲間が女を囲む。
俺は素早く、ジョバンニの後ろに隠れる。しかし、スカジャンの女は怯える様子もない。何なんだよ、この日本人? なぜ、平然として顔をしているんだ?
俺の心配もさておき、ジョバンニはニヤリと笑っていた。
「さて、お姉さん。財布を出してもらおうか?」
「い・や・だ」
そう言うと、仲間の一人が女の前にナイフを見せびらかした。
これで、大抵の観光客は恐怖を覚えるのだが……。女はナイフを持った仲間を投げ飛ばした。それも一瞬のことであり、手首を掴んで、捻っただけのように見えただけだ。仲間は背中から地面に激突して、ピクリとも動かなくなった。
少しの沈黙があり、ジョバンニは大声を出す。
「みんな、やっちまえー」
スカジャンの女にみんながナイフを片手に襲い掛かるが、10秒もしない内に全員が倒されてしまった。
5人の少年は地面に倒れて、ピクリとも動かない。おいおい、嘘だろ? カンフー映画をみている気分になった。
女はほとんど動かずに、仲間達の手首を触っただけで、バランスを崩していった。そしてそのまま、地面や壁に激突していったのである。コイツ、強すぎる……。もう、残りはジョバンニと俺だけだ。こんな時はジョバンニの頭脳で対処すればいい。
俺はスカジャンの女に向かって、大声を出した。
「お前なんか、ジョバンニがぶっ飛ばしてやるよ」
だが、ジョバンニ本人は何も言わない。
スカジャンの女がジョバンニを睨みつける。
「私の目的は赤毛の子供だけだ。別にお前に興味はない」
そう言った、瞬間にジョバンニが走り出した。
逃げた? いや、きっと仲間を呼びに行ってくれたんだ。ここで、俺が時間稼ぎをすればいい話だ。
スカジャンの女はこちらを見下ろしてきた。
「君さぁ、ボスに見捨てられたんじゃないの? フフフ、可哀相だなぁ」
「違う、ジョバンニはそんな男じゃない。いい加減な事を言うと許さないぞ」
俺はナイフを取り出して、スカジャンの女と戦う事を決めた。仲間が来るまで、時間稼ぎしなくちゃ。
「来いよ、スカジャン女。串刺しにしてやるよ」
「ふっ、度胸あるじゃん。君の方がボスの素質あるよ」
「うるせー」
俺はスカジャンの女を見る。中肉中背であり、そんなに強そうには見えない。しかし、ナイフを持っている数人を魔法使いのように、空中に投げ飛ばしたのは事実だ。
おそらく、なんかの格闘技をやっているはずだ。だけど、手首さえ掴まれなかったら、勝てる気がする。
俺は横の壁を蹴って、空中に高くジャンプして、女の手首に狙って切りかかった。しかし、女は半歩下がって、背中を後ろに反らして交わした。うぅっ、完璧に動きを捉えてやがる。
スカジャンの女は声を漏らした。
「驚いたな、まるで野生の狼のような動きだねぇ」
「てめー、なめやがって、ぶっ殺……」
俺は決め台詞を言う前に、女にナイフを持った右手首を掴まれており、一瞬で動けない状態になった。クソ、早い、いつのまに……。
スカジャン女はとサディストのようにニヤニヤと笑みを浮かべた。
「どうした、どうした? 好きなだけ動いていいよ。ほら、ほら」
「この……」
俺は力ずくで、右手首を動かして、女の手から離れようとした。
すると、耐えがたい激痛が手首を走った。
「あがあああああー」
ダメだ、手首を動かしたら折れてしまいそうな痛みだ。なので、もう抵抗する気はそがれていた。
女と目が合う。
「ねえ、こんな仕事をしていたら、いつかこんな目に合う覚悟もあったよね?」
「うっ、うるせー」
「こんな事をしていたら、いつか殺されるだけだよ。君さぁ、あのジョバンニって男に騙されているだけじゃないのかな?」
俺は家族でもあり、思い人でもあるジョバンニの悪口を言われてカチンとなる。
「うるせー、ジョバンニは家族だ。家族の悪口を言うな、殺すぞ?」
「フフフ、怖い、怖い。でもさぁ、家族が子供を置いて逃げるかねえ?」
そう言うと、女は手首をひねった。
俺は激痛で大声をあげた。
「あがああっああーー」
脳に響く激痛により、握っていたナイフは地面に落ちる。そして、女は右腕のみで、俺を持ち上げて、そのまま肩に乗せてられて、四つん這い状態になる。まるで、米俵を簡単に持つような感じだ。
それから、俺はスカートを捲られて、パンツ丸出しの姿で、ジタバタと抵抗する。
「テメー、何する気だ? 俺に手を出したら、絶対に殺すからな。マジだぞ、仲間が黙ってないぞ、ババア、聞いてるのか?」
「フフフ、口の悪い子供だ。お仕置きが必要だな」
そう言うと、左手でお尻ペンペンを始めた。自分の尻に激痛が走る。
俺は目に涙を浮かべて悲鳴をあげた。
「うぎゃぁー。いたい、いたい、やめろ、マジで殺すぞ……」
「殺す? まだまだ、反省が足りないみたいだ」
「いたい、いたい、やめろ、バカぁー、いやだぁー」
「まだ、まだ」
こうして、俺はスパンキングを20発以上受けた所で、負けを認める事にした。
「すっ、すいませんでした、ぐすぐす、俺が悪かったよ……」
「本当に反省しているの?」
「はい、ごめんなさい、ごめんなさい。だから、もう叩かないで、ぐすぐす……」
俺は地面に女の子座りで、声を出しながら泣き始めた。
「もう、しません、だから、許してください。痛いのは嫌だよぉー。くすん、くすん」
「まあ、いいでしょ。今日から、私と暮らすんだ。口の利き方は気を付けるようにね」
こうして、俺はこの日から、スカジャンの女との奇妙な生活が始まった。この女の名前は早乙女レオナという、18歳の女賞金稼ぎだった。




