第9章 花売りのナツ(オランダ編)
そして、俺はしばらくして、ジョバンニの仕事を手伝うようになった。
ジョバンニは観光客の金持ちにターゲットを絞って、カツアゲをする仕事を紹介してくれた。俺はアジトである酒場のイスに座って、自分の役割を聞いていた。
ジョバンニは歯並びのいい笑顔を見せる。
「ナツ、お前はカワイイ女の子だ。だから、それを利用することにした」
「うん、分かった」
正直、ジョバンニに褒められるのは嬉しかった。彼は美少年なので、いつも周りに女がいたし、本命の彼女もいたのも知っていた。
それでも、ジョバンニの気を惹きたくなるのが乙女心というものだ。
「あっ、あの、その、俺ってカワイイ?」
「うん、あと10年たったら、みんな振り向くような女になるよ」
「うっ、うん。ありがと……」
俺は真っ赤な顔を見られたくないので、下を向いて目を逸らした。
すると、ジョバンニが頭をナデナデしてきてくれた。
「なんだ、ナツ照れているのか? おませさんだなあ」
「うっ、うるさいし…」
そう強がるが、もっと頭を撫でていた欲しかった。しばらくして、ジョバンニは仕事の説明をはじめた。
俺の仕事は花売りだった。とは言っても、本当に花を売る仕事でもない。まずは不思議の国のアリスのようなヒラヒラの恰好をさせられた。そして、カゴには大量の花を持っていた。これを観光客に1ギルで売るのだ。
それから、観光客の同情を誘って、路地裏に誘い込む。そこにはジョバンニと武器を持った子分達が待ち構えている。そして、財布や腕時計、宝石など金になりそうなものを強奪するだけだ。
俺はこの仕事をやる前までは気が付かなったが、自分の見た目はかなりカワイイ事にきがつく。なぜなら、仲間の少女の中で、俺の売り上げがダントツだったからだ。
仕事はいつもこんな感じだ。俺は街中を見渡し、金持ちの品定めをする。身なりのいいターゲットを探す為だ。おっ、あの中年カップルがいい感じだ。この町に似合わないスーツに、金の高級腕時計、女も毛皮のコートに高そうなバッグを持っている。すごく、よい獲物だぜ。
俺は中年のカップルの前に出て、花を差し出した。
「はい、お花をどうぞ」
毛皮の女が笑顔をみせる。
「あら、この子カワイイ。フランス人形みたい、アンタも見てよ」
「ああ、確かに人形みたいだな」
よし、引っかかった。
あとは常に笑顔で対応すればいい。
「お花高いですけど、買ってくれませんか? ひとつ、100ギルもしますけど、どうですか? 母親の薬を買いたいんです」
毛皮の女は財布から金を出す。1000ギル札を差し出した。
「ウフフ、釣りはいらないわ、1本だけちょうだい」
「綺麗なお姉さん、ありがとうございます」
「あーん、このカワイイ。私達も結婚したら、こういう天使みたいな子を育てたいね」
まあ、実際は悪魔なんだけどな。スーツの男が声を出す。
「ああ、そうだな。そろそろ行こう。あっちに土産屋があるらしいぞ」
俺は一気に畳み込みをかける。
「お姉さん、あっちの土産屋は観光客用で高いよ。こっちの店が安いよ。案内しようか?」
毛皮の女は屈んで、俺の頭をナデナデしてきた。
「じゃあ、お嬢ちゃんにお願いしようかな?」
「うん、任せて」
俺は2人を路地裏に案内した。
そこには武器を持ったジョバンニ達がいた。
「はい、ナツご苦労さん」
「うん」
俺はすぐにジョバンニの後ろに隠れた。
5~6人の少年に囲まれて、毛皮の女があせる。
「えっ、何、何なのよ?」
ジョバンニがニヤリとした表情を見せた。
「お兄さん、お姉さん、金目の物は出してよ。まあ、タクシー代くらいは残してやるからさ。抵抗しなければ大丈夫だよ」
スーツの男が声を荒げる。
「お前ら、警察を呼ぶぞ。それにこんな事をしても、あとで絶対に捕まるんだぞ」
仲間の一人が毛皮の女を捕まえる。そして、顔の近くにナイフをあてる。毛皮の女は恐怖で声が出ないみたいだ。
ジョバンニがため息をつく。
「別に命はとらないよ。でも、お兄さん金持ちでしょ? 逆らって怪我するか、金目の物をおいていくか……。どっちが得か、頭良いからわかるでしょ? この女の顔に一生残る傷がついてもいいの?」
その言葉にスーツの男は財布を出して、ジョバンニを渡した。
「わっ、分かった。これでいいだろ?」
「どうも、あと腕時計もください」
スーツの男は黙って、ジョバンニに貴重品を渡す。他の仲間も毛皮の女から、金目の物を奪っていた。まあ、毛皮や高級バッグとかだ。
それから、ジョバンニは財布から、1万ギルだけをスーツの男に渡した。
「こっから、真っすぐに行けばタクシー通りに出ますよ。あと、警察に通報したら、このパスポートで住所分かるので、仲間が殺しに行きますよ。なので、俺達の顔は見てない事でお願いします」
もちろん、これはハッタリだ。少年ギャング団に住所を特定して、海外まで殺しに行くことない。だけど、観光客はパニックになり、そう信じてしまうのだ。スーツの男が女の肩を支えて、路地裏を去ろうとしていた。
毛皮を着ていた女はこちらに吐き捨て台詞を言ってきた。
「あなた、天使みたいな顔をして悪魔だったのね」
女の目には涙がたまり、ギロリと睨んできた。
ふん、こっちは生きるので精一杯なんだ。ちょっと、金持ちから、少し分けてもらっただけだ。だけど、罪悪感は少しあったのも事実だ。だけど、餓死するくらいなら、みんな悪い事くらいするだろ?
それが人間って生き物だ。それから、半年の時間が過ぎていき、ジョバンニや仲間との絆は深くなっていった。
半年もたつと、俺はこの仕事の売り上げのトップになっていた。いつもの酒場のアジトで、ジョバンニが俺を誉める。
「今月の売り上げはナツが一番だ。620万ギルだ。みんなも、ナツみたいに稼げよ」
売上の10%が自分の懐に入るのだ。だから、今月は62万ギルもはいった。
数十人の仲間は拍手をして、俺に称賛の言葉をかける。
すると、俺の同期の少女のヘレンが声をかけてきた。
「いいな、ナッちゃんばかり……。私だって、稼ぎたいのに、しょぼん」
ヘレンは俺と同じ頃に、少年ギャングに入った少女だ。
俺より年上の10歳である。気が弱く、オドオドしているので、観光客に足を止めてもらえない事も多い。でも、人生で初めての友達であり、俺の心の支えでもある。同じ部屋のベッドで寝て、食事も一緒にする事が多い。休日は2人でよく遊んでいた。
俺はアドバイスをする。
「ヘレンは声が小さいんだよ。愛想よくニコニコしてればいいだけだぞ? 大人は子供には弱いんだぜ、それを利用しなきゃな」
「私はさぁ、本当は人を騙したくないな、ナッちゃんは平気なの?」
「当たり前だよ、だって食べる為だもん。金がなきゃ死ぬだけだ」
ヘレンは下を向いて、力なく笑った。
「私は来月から、酒場で働くことにするよ。ジョバンニが仕事を紹介してくれるの。まあ、皿洗いだけどね。日給で4000ギルだけどね」
「ヘレンはお人好しだから、そういう生き方の方がいいよ」
「ナッちゃんはずっと、この仕事を続けるの?」
俺はジョバンニの役に立つのが生きがいだ。いつかは、その恋人にでもなれたらいいと思う。イケメンで優しくて、みんなが慕うのも分かる。ギャングではあるが、義侠心もあるヒーローだ。
そう、貧乏人からは搾取せず、金持ちから金を奪う義賊だ。もしかしたら、恋ではなく、ジョバンニに父親を求めていたのかもしれない。人間は誰でも、誰かに必要とされたいのだ。
そこにジョバンニが、俺とヘレンの肩を叩く。
「お前ら、何の話をしているんだよ? 悩みでもあるのか? まあ、お前たちはどんな時も、俺が守ってやるから安心しろ。どんな手を使っても助けてやるからな」
俺はこの瞬間の幸せを感じていた。自分を守ってくれる存在がいることの幸せを……。




