第3章 冬子とナツの同棲生活
あれから3日後。俺は冬子と新宿のマンションで同棲をしている。
3LDKのマンションは広く、ホテルの並みの設備があって満足だった。部屋の階数は10Fで、夜景もバッチリ綺麗に見える。家賃と生活費は冬子の伯父さんが全部出してくれている。その代わり、冬子が困ったら助けてくれと頼まれたのである。まあ、言われなくても力を貸してやるつもりだぜ。
それにしても、冬子と結婚する男は生活が楽だろうな。一言も文句を言わずに、食事を毎日作ってくれて、洗濯もやってくれて、掃除もやってくれるのだから……。他の時間は祖父の見舞いと、賞金首の情報収集の為に、外出をしている事が多い。
その頃、俺は自宅待機をしている。冬子いわく、赤毛の外国人は日本では目立つとの事だ。つまり、俺は家でゲームと映画三昧の毎日だ。まあ、いわゆるヒモの生活だ。冬子の目的は父親の敵討ちだが、その賞金首の情報は中々と入ってこない。
俺としては、この自由なダラダラ生活が続く方が幸せである。だが、冬子はだらしない俺に愚痴を言ってくる。
「まったく、私がいないと何も出来ないんだからな……ナツはさぁ」
「はい、はい。おっしゃる通りですよ」
そう言って、聞き流している。
しかし、とある日に事態は急変する。その頃、俺は冬子とリビングで朝食を食べていた。今日はフレンチトーストとシーザーサラダである。ちょっとした、お洒落なカフェのモーニングみたいだった。
これらの料理は冬子が作っている。
俺はスマホのゲームをやりながら、フレンチトーストを口に運ぶ。
「おっ、イベント始まったな。ムシャムシャ。うん、メチャクチャ旨いなあ……」
「ねえ、ナツ食べながらスマホ見るの止めてくれない?」
「なんで? ムシャムシャ……。おっ、レアアイテムじゃん」
「いや、みっともないじゃん。行儀も悪いし止めてよ。それに食事を作った人に、失礼な行為だよ……。くどくど」
よく分からんが、冬子がゴチャゴチャと何か言っている。いや、それより、ガチャでレアイテムが出てテンションが上がる。ついにキター、これは10万の1の可能性で出るアイテムだ。キャハハハ、SNSにアップして自慢してやろ。みんなの悔しがるのを見たいなぁ。
すると、冬子が喋りかけてくる。
「ねえ、スマホ止めて……。ナツ、聞いている?」
「うんうん、分かっている、分かっている」
「じゃあ、早く止めてよ」
「うんうん、分かっている、分かっている」
「私の話を聞いてないでしょ? じゃあ、イエスかノーで答えてね。ナツ、食事中のスマホは止めてくれない?」
「うんうん、分かっている、分かっている」
冬子がいきなり、テーブルを叩く。
「おい、聞いてねえじゃないか? 殺すぞ、コノヤロォー」
「ひっ、冬子ちゃん……。どうしたの? そんな怖い顔して、何で怒っているの?」
「ほら、聞いてないじゃないか? 今後は食事中のスマホ禁止だから」
そう言って、俺のスマホを没収した。
俺はムカツクいたので言い訳をする。
「なあ、冬子さぁ。俺がカレーを手で食べたらどう思う?」
「そりゃ、スプーンを使えって言うよ。だって、手が汚れるじゃん。それが何か?」
「はい、インド人の差別発言。インドは手で食うのが常識です。俺の母国はスマホを見ながら、食事がするのが礼儀なの」
そして、俺はニヤニヤしながら、冬子の手にあるスマホを取り返そうとした。
「はい、俺の論破。俺の勝ちです。だから、スマホ返してよ」
「おい、そんな国あるわけねえだろ」
そう言って、冬子は俺の頭にゲンコツを喰らわした。
「ギエッッー」
くそ痛い、頭頂部がズキズキとして痛いよ。思わず、涙がホロリとこぼれ落ちる。
冬子はギロリと見下した目をする。
「日本には『郷に入って郷に従え』って言葉があるんだよ。日本に文句あるなら、ナツが出て行けよ。それに居候だから遠慮しろよ。ナツ、自分の立場が分かったか?」
「はい」
でも、日本人だってラーメン店ではスマホを片手に食事しているのに……。何で、俺だけ怒られないといけないんだ。でも、そう言ったら説教が長くなってしまうぜ。
うううう、殴り返してやりたいが……。ダメだ、逆らったらダメだ。無一文のホームレスになってしまうぜ。ここは我慢だぜ、ナツ。
そして、冬子は小さい子供に注意するように大声を出す。
「ナツ、返事が小さい。はい、もう一度」
「はぁーーい、はぁーーい」
「返事は1回でいい」
「はぁあーい」
「はい、よろしい」
クソ、母親みたいでうるさくてイライラするわ。それにしても、食事中に音がないのは寂しくて暇である。そこで、俺は別の提案をした。
「じゃあ、スマホはしないけど、テレビを見ながら食べてもいいか?」
「うん、テレビならいいよ」
おいおい、スマホをダメでテレビはオッケーなのか? 日本人の感覚ってよく分からないな。とりあえず、冬子がリモコンでテレビをつけると、そこには衝撃の事件が起きていた。




