第2章 天王洲欣也という男
俺は移民解放連盟を見ていて腹が立っていた。
老人を騙して、金を奪うなんて賞金稼ぎ以下のクズだぜ。俺は蹴飛ばしてやろうと思った。その時、黒いスーツを着た集団がロータリーに現れた。みんな体格が良く、強面のおっさんの集団である。どうみても、堅気じゃないぜ。
その先頭を歩く、頬傷のある中年の男が移民解放連盟に近づく。
「おい、兄ちゃん達……。ここで、反日運動するって言ったよな?」
しかし、リーダー格の青年が反論する。
「でも、我々にはデモする権利がありますし……」
「おい、二度言わせるな。消えろ、ガキども」
「ふん、我々は暴力には屈しないぞ。なあ、みんなぁ?」
すると、取り巻きが声をあげる。
「そうだ、そうだぁー」
近くには交番もあるので、青年は手を出せないとタカをくくっているのだろう。
青年は勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「こちらも命をかけていますので、話だったらいつでも聞きますよ」
「ふっ、命か……。じゃあ、そうさせてもらうわ」
「どうぞ、ご勝手に」
頬傷の男もニヤリと笑いながら喋る。
「川島健太。東大の3年生。実家は杉並区にあり、両親は中華料理屋を営んでいるみたいだな。可愛い妹はそこで手伝いをしているそうだな……。今からそこに乗り込んで話をしてやるよ」
「どうして、俺の情報を……」
「そんな事は別にどうでもいいだろ?」
「クソ、実家に来たら警察を呼ぶぞ。こっちは暴対法だって勉強しているんだぞ。ヤ、ヤクザなんかこわくないぞ」
そう言うが、青年の声は震えていた。おそらく、仲間の前で虚勢を張っているのだろう。
だが、頬傷の男の方が一枚上手だった。
「だったら、お前の実家に毎日ホームレスが飯を食べに行く事になるぜ。新宿にいるホームレスは臭くてな……。もしかしたら、他の客は足を運ぶ事がなくなるかもな。そしたら、両親の店はつぶれるだろうな」
「………!!」
川島は絶句して、青ざめた顔をした。
「あっ……、あなたの顔を立てて、今日は帰りますよ」
「あんまり、ヤクザをなめんなよ。坊ちゃんは家で勉強でもしてろや」
そう言って、頬傷の男は移民解放連盟を威嚇した。分が悪いと判断した青年は取り巻きに声をかける。
「くっ、今日の所は解散だ。みんな、帰るぞ」
すると、彼らはトボトボと駅に向かって消えていった。
ふと見ると、頬傷の男がこちらに近づいてきた。
「冬子、久しぶりだな。おかえり」
「伯父さん、ただいま」
冬子がそう言うと、20人近い子分が頭をさげる。
「お嬢、おかえりなさい」
おお、頬傷の男が冬子の伯父さんか……。長身で体格もよく、強面の顔であり、頬傷のインパクトが凄い。まあ、どうもヤクザだな。
冬子が俺を紹介する。
「こちらは友達のナツだ。賞金稼ぎをやっているんだ」
「あっ、どうも……」
「冬子の友達か……。まあ、冬子の事をよろしく頼むよ」
「あっ、はい……」
うーん、友達の家族に会うって恥ずかしい感じだよな。なんか、コミュ障になってしまう。
冬子が笑顔で喋る。
「ナツ、私の家に来いよ。食事でもごちそうするよ」
「あっ、うん」
俺は用意されていた高級車のセンチュリーに乗り込み、冬子の自宅へ向かったのである。スゲー高級車で、後部座席の座り心地は最高で寝そうだ。
数十分後、センチュリーが冬子の家らしき前で止まる。車を降りると、高級旅館を思わせるような建物が目の前にあった。思わず声が漏れる。門を抜けると、庭があり池までもある。池には鯉が沢山泳いでいる。
確かこの魚って高いんだよな。
「すげーな、冬子ってお嬢様だったんだな。まるで、漫画みたいだな」
「えへへ、そんな事ないよ」
そう言うが、やっぱり豪邸にしか見えない。クソ、ブルジョワめ。
私はナツを居間に案内して食事をさせた。その間に祖父へ顔を出しにいった。ナツは飯を与えてれば、静かな猫みたいなものだ。祖父の部屋には医療ベッドを置いてあり、そこに横たわっていた。
「冬子、おかえり」
「じいちゃん……。元気そうで良かったよ」
それは嘘であった。1年前に会った時よりも痩せており、いかにも病人って感じだ。あんだけ、歌舞伎町で恐れられていた男のオーラはもうなかった。それが悲しかった。とりあえず、私は様々な国を渡って、姉を探した事を伝えた。だが、手がかりはない状態を伝えた。
それを聞いた祖父は姉に会えない事を悟ったのであろう。
「そうか……」
一言そう言って、悲しそうな顔をした。
それから、明るく声を出した。
「まあ、ゆっくりしていきなさい……。これから医者が来るんだ。また、明日な……、冬子」
「うん。お大事にね、じいちゃん」
ふっー、身内が弱っていくのを見るのはツラいものがある、思わず、目に涙が溜まってしまう。だが、涙をこぼす事なく、部屋を後にしたのであった。
すると、廊下には伯父さんが立っていた。
「冬子、痩せていてビックリしただろ?」
「うん、あとどのくらいなの?」
「まあ、半年って所だろうな……」
半年? 半年なんてすぐに時間が過ぎてしまう。しかも、もっと早く亡くなる可能性だってあるのだ。私はじいちゃんが生きている間に父の仇を討ってやりたい。その胸の内を伯父さんに伝えた。
伯父さんも気持ちは一緒だった。
「ああ、俺も気持ちは同じだぜ。実は関東移民学生連合会の最高幹部が、東京に潜伏している情報が入ったんだ」
「本当なの?」
「ああ、公安の刑事に聞いたから間違いないだろう。まあ、新しい情報が入ったら教えるよ。それまでは、マンションを用意したから、友達と一緒に暮らせばいいさ。あとで若い衆に車で送らせるよ」
「ありがとう、伯父さん」
伯父さんは照れたように頭を掻く。
「冬子、家族だから、何か困ったら頼れよ。しかし、冬子は母親に似て美人になったな。伯父さんは鼻が高いよ」
「フフフ、伯父さんも口が上手いな。そうやって、水商売の女を口説いているんでしょ?」
「いや、本当さ……。俺もお前の母親に惚れていたからな……。じゃあ、またな」
そう言うと、伯父さんは背を向けて立ち去った。




