第1章 祖父の危篤
これはメキシコの人身売買事件から、1週間が経った頃の話である。
私の祖父の危篤の知らせが、日本から入ったのである。祖父の名前は天王洲文太。年齢は70歳であり、天王洲会の会長である。どうやら、癌が再発したらしく、もう長くないみたいだ。死ぬ前に、孫である私の顔を一目見たいそうだ。
そのような知らせを伯父さんから聞いた。伯父の名前は天王洲欣二。私の父の弟でもあり、天王洲会の若頭を務めている。いわゆる、組織のナンバー2である。これを聞いて、私とナツは日本に飛行機で向かったのである。もちろん、可愛いハコスカも船で送ってもらった。ナツは旅行気分でワクワクしていた。
私は天王洲会の本部がある新宿駅の東口に立っていた。目の前にはロータリーが広がっており、何度か建て替えられた新宿アルタには、大型で最新3Dテレビが設置してある。昔はここで30年以上も続いたテレビ番組の撮影がされたらしい。
テレビにも黄金時代があった話は、私の世代からすると信じがたい話である。今はテレビを見ている人より、ネット番組を見ている人の方が多い時代である。私もあまり、テレビのタレントは知らないのだ。それにしても、新宿アルタ前には人が多く、ゴチャゴチャしている。
それを見たナツがもの珍しそうに辺りを見回す。
「おお、これが日本の東京か……。しかし、人が多すぎだろ。小さな島国にこんな人がいると息苦しいな」
ナツの言う通りに、東京一極集中問題が酷い事になっている。
とくに、中央線の乗車率は230%を超えており、日本に慣れない外国人はケンカになる事が多いのだ。だが、時間の正確さは100年前から変わらずに世界中で評価されている。
私はナツに説明する。
「まあ、東京は日本人が集まっているからな。地方にはほとんど移民が住んでいるよ」
「おお、可哀想に。他の国に乗っ取られちまったな」
「まあ、そんな所だな。超少子化でさ、どうにもならないのさ……」
2000年頃には1億人を超える日本人がいたのだ。しかし、100年後の2100年頃は6000万人を切っているのだ。まあ、明治時代に人数が戻っただけである。
しかし、移民を入れると9000万人の数になる。つまり、3000万が外国人の移民であるので、東京の人口の密度は100年前とあまり変わらないのだ。一方の地方では外国人のコミュニティが出来上がっており、日本人はほぼいない状態である。
これは日本の空き家問題で、2090年頃には2軒に1軒が空き家と言う状態であった。そこで、とある不動産会社が移民向けにリニューアルして格安で販売した。これが大ヒットで、飛ぶように売れて、大量の移民が地方に散らばったのである。
そして、地方のシャッター商店街には移民を中心に街作りが始まったのである。外国人が店を出して、外国人がその商品を買って、地方の経済が周っているのだ。もはや、外国となんや変わりない。とにかく、地方の過疎化している空き家が、移民に売れまくったのである。その結果、不動産業界はバブル時代を迎えたのである。
これは悪い事ではないが、外国人はゴミの分別をせず、ゴミが放置されてスラム化しているのが問題になっている。さらに、不法入国の移民も年々増えているみたいだ。まったく、日本はどうなる事やら……。
ナツが私の顔を覗き込んでくる。
「なあ、冬子。せっかく、日本に来たからゲームセンターに行きたいぜ。ゲームの本場だろ?」
「ああ、先に実家に顔を出したら案内するよ。それでいいか?」
「オッケー」
その時、若者の集団がロータリーに集まりだした。身なりは大学生のようで、男女合わせて、だいたい10人位の人数である。
そして、一人の青年がスピーカーで大声を出す。
「みなさん、こんにちはー。私達は移民解放連盟です」
すると、ナツが小指で両耳を抑える。
「キンキン、うるせーな。なんなんだ、あいつら?」
「ああ、移民解放連盟の反日運動だよ」
「移民解放連盟?」
移民解放連盟とは関東移民学生連合会の残党が作った反日組織である。しかし、前の過激派とは違い武力は使わずに、日本を潰そうとしているのが違う点だ。
では、どういう方法をとっているのか? いわゆる人質ビジネスである。2100年頃は中国の武装勢力が幅を利かしていた。目的は日本人を拉致して、身代金を要求するビジネスである。これは裏では中国マフィアが絵図を描いていた。
まずは日本人ジャーナリストが中国の危険地帯に足を運ぶ。そして、武装勢力が拉致をして、日本政府に金品を要求するのだ。日本人ジャーナリストは動画に助けてくださいというメッセージをネットに流す。すると、日本政府は助けるために動かないと、世界から冷たい国だと非難を受けてしまうのだ。
しかし、この捕まったジャーナリストは帰化した移民解放連盟のメンバーである。つまり、中国マフィアが中国マフィアに捕まったフリをして、日本政府から金品を受け取る自作自演のママゴトである。身代金の相場は5億ギルくらいである。
一度に5億ギルのお金が動くので、お金の流れを分かりにくくする必要がある。いわゆる、マネーロンダリングを使うのだ。なので、身代金はフランス銀行に一度入れて、何ヶ国かの銀行を渡らせる。最後は株と無記名債権を購入して、それらを現金化すると、中国マフィアの手元には3億程度の金が手に入るのだ。
彼らは金融マフィアと呼ばれており、金の流れを操作するなどワケないのだ。こうして、日本の税金が搾取されていく。
移民解放連盟のリーダー格の青年が叫ぶ。
「ご通行人のみなさーん、聞いてください。ここにいる林さんの兄が、中国の武装勢力に拉致されました。助けるための募金と署名運動にご協力くださーい」
林の妹呼ばれる女性は、若くて可愛い感じだ。だが、本当の妹かも疑わしいのだが……。
その妹を名乗る女性が口を開く。
「私の兄は武装組織に拉致されました。でも、日本政府は交渉に1年以上もかかっています。これは交渉に手を抜いているのではないでしょうか?」
そう言うと、取り巻きのメンバーが同意の声をあげる。
「そうだ、そうだぁー。日本政府の怠慢を許すなぁー」
みんな手を上げてワーワー言っている。まるで、授業で挙手する小学生のようだ……。
女性は続ける。
「兄に会いたいです……です……。うわあああああー」
林の妹は泣き崩れて、その場にうずくまる。もちろん演技であるのだ。だが、日本人はこういう人情話には弱い国民性である。そして、若くて可愛い女性にも甘いのだ……。男ってどうしようもないな。
そこに通行人の老人が、財布から一万ギルを募金箱に入れる。
「お嬢さん、頑張ってね。負けちゃダメだよ」
そう言って、老人は人を疑う事のないような笑顔を見せた。
すると、メンバーが揃って頭を下げる。
「ありがとうございまーす」
そして、老人が立ち去ると、ニヤニヤとお互いを見て笑みを浮かべる。まるで、バカな老人だと言わんばかりに……。これらの金は反日運動に流れていくのだ。ああ、見ているだけで嫌な気分になる。これらの説明をナツに教えた。すると、ナツは怒りの表情を見せた。




