第34章 さらば、マリン(メキシコ編)
さて、話を現代に戻そう。あれから、1時間後に事情聴取から解放された。
私とナツとマリンは教会の外に出た。教会の前には1台のパトカーが停車していた。その後部座席から、可愛らしい女の子が降りて来た。おそらく、人身売買で誘拐されたマリンの友達だろう。
その小柄な少女が大声を出す。
「マリン、無事だったのね」
「エメラも無事でよかった」
エメラと呼ばれた少女はマリンに向かって走り出す。マリンは両手を大きく広げてエメラを受け止めた。2人の表情を見ると太陽のような笑顔で抱きし締めあっていた。とにかく、マリンの笑顔が取り戻せて本当に良かった。
おそらく、時間がかかるけど、2人なら何とか乗り越えていけそうだと思った。ナツが私の肩を叩く。
そして、札束を見せながら言った。
「冬子、そろそろ行こうぜ。ハンバーガーでも食いに行こうぜ。もう、マリンに関わるのは止めようぜ。だってさ、賞金稼ぎなんて結局は人殺しだからな……。俺達に関わるとロクな目に合わないぜ」
これはナツの言う通りだと思う。マリンも今日の事は忘れた方がいいだろう。
私はナツの意見に同意した。
「ああ、そうだな。ナツ、行こうか」
「じゃあ、車の運転を頼むぜ」
外を見ると夕日が綺麗だった。私達はマリンに気づかれないように、コソコソと森へ歩きはじめた。そして、森の中に停めてあったハコスカに乗り込んだ。マリン元気でな……。
俺は助手席に座っていた。
そして、マリンから貰った100万ギルの札束を眺めていた。
やったぜ、やったぜ、遂にやったぜ。
思わず、笑いが止まらない。
「ワハハハハ、ブハハ……ゴホゴホ……」
「ナツ、下品な笑い方は止めろよ。まったく、成金のオッサンかよ……」
「チッ、うるせえな。いいだろ別にさぁ……。仕事を頑張ったんだしよ。見ろよ、この100万ギルの札束をさぁ。見れば、見るほどテンションが上がるだろ?」
しかし、札束の魅力は素晴らしい。なぜなら、金があるなら何でもできるからだ。金が全てじゃないって言う奴は金持ちしかいないのだ。俺達のような貧乏人には金が全てだ……。
まずはハンバーガーを食べよう。それから、ホテルでゴロゴロしてゲームでもしよう。更に泡風呂に入って、フカフカのベッドで好きなだけ寝よう。その後はカジノに行って、お金を増やそう。
さあ、大変だぞ、やることが多すぎて忙しい日々が始まるぞ。
「冬子、とりあえず、最初は飯を食おうぜ。そうだな、ハンバーガーでも食いに行こうぜ」
「なぁ、色々遊ぶ事を考えていると思うけど、100万ギルなんてすぐに無くなるんだからな。まずは節約だぞ、私は無駄使いを許さないからな」
「うんうん、分かっている、分かっている。俺を信じろよ、冬子ちゃんよ」
「そう言って、何度も信じて、裏切られているんだけどな……」
ケッ、姑みたいにうるせえな、冬子だって10代だから遊べばいいのにな。まったく、日本人は真面目だな。あれだけ移民に領土を盗られても、移民の待遇を自分達と変えないとは、本当にお人好しでアホな国民だと思う。
普通は移民より、自分の国の国民を大切にするのが普通だと思うのだが……。俺のように自分中心に考えて、人生を少しは楽しもうぜ、日本人。
冬子はエンジンを駆けながらこちらを見る。
「ナツ、まずは風呂に入れよ。煤だらけだよ。それに、ちょっと汗臭いぞ……」
「えっ、マジで? クンカクンカ……」
俺は自分の体の匂いを嗅ぐと、少し汗の匂いがしたのである。それに確かに炎の中から、逃げてきたので煤だらけだ。髪もバサバサで酷い事になっている。体中が汗だらけで服も着替えたい気分だ。
俺は行き先を変更する。
「じゃあ、まずはホテルで休もうぜ。とりあえず、風呂入って寝たいわ」
「じゃあ、安いホテルを探すよ」
「いやいや、金もあるし、高級ホテルへ泊まろうぜ。パッーと逝こうぜ、パッーっとさ……。キャハハハ」
「おいおい、そしたら100万ギルなんて、すぐに消えちゃうぞ。安いホテルで我慢しなせえよ。まだ、次の仕事も決まってないしさ……」
そう言って、冬子は高級ホテルの提案をやんわりと断った。その時、運転席の窓を叩く音がした。俺は音の方を見るとマリンがバンバンと窓を叩いている。冬子は運転席の窓を開けた。
マリンが怒りながら話しかけて来た。
「なんで、何も言わないで言っちゃうの? 冬子さんもナツも……」
すると、冬子が寂しそうに言う。
「ごめんな。私達みたいな人間には、関わらない方がいいと思ったのさ。マリンの為だよ……」
「なんで、そんな悲しい事を言うの?」
「私達は人殺しだ」
それを聞いたマリンの目から涙が流れた。まったく、ガキは泣けばいいと思うから苦手だぜ。おーおー、泣くがいいさ……。おもちゃを買って貰えない子供みたいにな……。
すると、冬子は映画の主人公のように慰める。
「ごめんな。マリンにはこっちの世界には関わらないで欲しい。警察に聞いたが、ルビーも最初は真っ当な家族に生まれて暮らしていたらしい。でも、裏社会の人間と関わって、あんな人間になったらしい。賞金稼ぎなんて裏社会の人間と変わらないからさ」
「私とルビーは違うわ」
俺はこの2人の恥ずかしい会話をジト目で見る。だって、聞いている方がむず痒くなるぜ。
だが、冬子は構わずにマリンに優しくする。
「そうだとしても、関わる人間は選んでほしいんだ。マリンには真っ当に生きて欲しいからさ。一度、裏社会に入ったら戻れないんだ」
「でも、私を救ってくれたのは事実よ。それが賞金稼ぎでもね……」
そう言うと、マリンは冬子の頬へキスをした。
冬子は頬を染めて呟く。
「おい、マリン……」
「冬子さん、照れているの? あんがい、可愛いところあるわね」
「ふっ、大人をからかうなよ」
俺は冬子のキスシーンを見たらイライラしてきた。何だろうな、この感情はよく分からねえけど……。何か腹が立つな。まあ、いいけどさ。モヤモヤ……イライラ……くどくど……。
そして、マリンは笑顔を見せて言った。
「冬子さん、ありがとう。元気でね」
「マリンもね。エメラと仲良くしなよ」
「うん」
そして、マリンは目線をこちらに向けた。
「あと、ナツは女らしくしなさい。お嫁にいけないわよ」
「へっ、余計なお世話だぜ。ガキに言われたくねえし……」
最後にマリンは頭を深々と下げた。
「2人とも助けてくれて、本当にありがとう」
その言葉は本当に感謝している気持ちが伝わった気がした。
俺は冬子に言った。
「じゃあ、行こうぜ」
「ああ、行こうか」
冬子はギアチェンジをして、車をゆっくりと発進させた。教会からゆっくりと離れて行く。ふう、これでメキシコともオサラバだな。
俺はバックミラーをチラリと見ると、マリンはまだ頭を下げていた。こういう辛気臭い別れは嫌いだ。うーん、何か恥ずかしい感じがあるのだ。共感性羞恥心ってやつか? なので、俺は助手席の窓から上半身を乗り出した。
そして、マリンの方向を見て手を振りながら叫んだ。
「マリン、元気でなぁあー」
マリンはこちらを見て、子供らしく手を振っていた。遠くて分からないが、笑顔のようなものに見えた気がした。
まあ、これで良かったのだと思う。マリンには血なまぐさい世界の人間は合わないのだから……。しばらくすると、マリンの姿は見えなくなったので車内に戻った。




