第35章 新たな賞金首を求めて……(メキシコ編)
運転席の冬子がニヤニヤ笑っている。
「ナツ、優しい所あるじゃん。母性本能が目覚めちゃったとか?」
「別に……。辛気臭い別れは嫌じゃん。明るく別れた方がいいだろ?」
「おっ、照れている。照れている。マリン元気でなぁーって恥ずかしいセリフだな。でも、10代の少女っぽくていいじゃん。フフフ……」
冬子はマウンティングをとるようにニヤリ顔をしている。その目は確実に下に見てやがる。まあ、簡単に言えば三日月を横にしたような目だ。とにかく、ムカツク目をしているのだ。今日こそどっちかが上か教えてやるぜ。クソッ、ナツさんを怒らせると怖いんだぜ。
俺は頭から煙を出しながら怒る。
「別に照れてねーよ」
そして、俺は人差し指で冬子の脇を突っついてやった。すると、冬子は色っぽい声を出す。
「ふぇっ」
くすぐりに弱いのは知っているので、何度も指を突っついてやった。
冬子の色っぽい声が漏れる。
「ふぇっ、やめろ……あっ……。ふえっ……危ないだろ……あっ……」
冬子は虚ろな表情になって、ハンドルの操作がおぼつかなくなっていた。車がスリップしたかのように左右にグネグネと動く。まるで、逆走するジジイの運転のようだ。
冬子が耳元で叫ぶ。
「バカぁーー。危ないだろ、死んじゃうだろがぁーー」
「俺をバカにしたからだぜ、冬子。キャハハハ……」
「だからって、運転中に遊ぶなよ。だから、ナツはバカって言われるんだよ」
「ふーん。俺様に意見するとどうなるか教えてやるぜ」
俺は更に脇を連続で突っつく。
「ほれほれ」
「バカ、やめ……ああん……いいかげ…………。そうだ……ブレーキを……」
なるほど、ブレーキに気が付いたか。
だが、指で脇を連打で突っついて阻止した。
「そうはさせん。ほらほら、連続で行くぜ。ほれ、ほれ、ほれ、ほれぇえーー」
「あっ……体が痺れて……あん……やめて……ナツ」
そう言われても止めることなく、俺はシューティングゲームのごとくの連射で脇を突っつく。すると、冬子は発情した猫のように顔を赤くして、体をクネクネする。もちろん、車もチョロQのような動きだ。
そして、冬子はハンドルを大きく左にまわした為に、対向車線に入ってしまう。どうやら、いつの間にか、森を抜けて道路に出ていたようであった。
そして、普段の行いが悪いのか、俺達の車を目がけて、大型トラックが突っ込んで来る。排気量が凄いエンジン音が聞こえてくる。
あっ……死んだわ。こんなクラシック車じゃ、ペッタンコに潰されて圧死してしまう。嫌だ、死にたくない。さっき、100万ギルを手に入れたばっかりだ。金を使う前に死んでたまるかよ。
俺は右にハンドルを戻すと、元の車線に戻って、なんとか衝突を避ける事に成功した。
ギリギリにすれ違ったトラックの運転手が罵声を発する。
「てめえらぁあああ、死にたいのかぁああ? このボケェ」
いや、死にたくねえよ。だが、トラックの運ちゃんが言っている事はもっともだな。自殺志願者かシャブ中の当り屋に見えたかもしれない。俺はトラックの運ちゃんに心の中で謝った。サーセンサーセン。
それから、冬子は車を路肩に停めた。俺は冬子にアドバイスをした。
「良かったな、俺のハンドルさばきで命が助かったぜ。命は大事にだ。はしゃぎすぎるなって事だよ。まあ、良い勉強になったろ?」
「………」
「おーい、命の恩人にシカトすんなや。エロい声出しやがってよ、ムッツリめ。キャハハハ」
「………」
しかし、冬子は無言で睨んできた。そして、俺の両頬を両手で万力のように、潰してきやがったのである。うっうう、凄い力だ。やべえ……。
俺は両頬の激痛で叫ぶ。
「どょうぅこぉ、やめれぇえー」
「ナツ、やめないよ。反省するまでやるよ。早く、あやまれよ」
両手の力がグイグイと強くなってきている。
本当に痛くて、頬が潰れそうで、涙が出そうなくらいの激痛だ。この野郎、調子に乗りやがってよ。俺はやられたらやり返す人間だぞ。見ていろよ、コノヤロー。俺も冬子の両頬を両手で万力のように潰した。
冬子も悲鳴をあげた。
「いたぁ、いたいぃいいー」
「じゃまぁあ、みむいろっおー」
俺は冬子と目を合うが、奴の目は敵意をむき出しだ。くそ、向こうも手を緩める気はないみたいだ。上等じゃん、死ぬまで戦ってやるよ。
こうして、俺達はお互いに頬を潰し合った。
「にゃあっつぅうー。 手をひゃなあああせぇえええー」
「てぇめええがぁあー。ひゃせぇしぇえええええー」
「ほおがぁああ、まぎゃるうううううううー」
「うるしぇぇええええー。うるしぇぇえええー」
2人が手を放したのは5分後の出来事だった。その結果、お互いに汗びっしょりで、フラフラしている状態になった。もう、お互いの怒りは消えていた。ただ、疲れただけだ。そして、何か顎の調子が何かおかしくなっていた。
俺は冬子に素直に謝った。
「冬子、ごめん。調子に乗り過ぎたぜ」
「おい、見ろよ。頬が真っ赤なリンゴみたいになったじゃないか、バカ」
そう言って、ギロリと睨んできた。ヒエッ怖い。
まだ、不貞腐れている冬子に優しく謝る。
「だから、ごめんって……」
「はあ、もういいよ。今回は許すよ。運転中にふざけるのは勘弁してくれよ。あぶなく、ペシャンコになって、死ぬ所だったんだぞ」
「分かった、分かった……」
俺はまったく反省をしてないのだが……。心の中では舌を出しているぜ。だが、それ以上は冬子も怒らなかった。何とか許してくれたのか、無言でエンジンを駆けて車を発進させた。
俺は冬子に聞いた。
「ところで、明日からどうするよ?」
「うーん、そうだな……」
しばらくは遊ぼうという返事を期待したのだが……。
だが、冬子はハンドルを握りながら、俺とは真逆の答えを出した。
「うん、明日も仕事探すぞ。100万ギルなんてすぐなくなるからな」
「明日? しばらくは休日の日々を楽しもうぜ」
「ダメだ。予定より金が入らなかったからね。それに、最近はガソリン代も高いしね。
体が動けなくなるまで仕事を頑張ろう、ナツ」
「ふぇ、ブラック企業かよ」
くそ、明日から働くのか本当に嫌だな。ベッドの中で一日中寝ていたいぜ。
まあいい、車の中で寝貯めしておこう。
俺は助手席の背もたれを倒しながら言った。
「冬子、少し寝るぜ。ホテルに着いたら起こしてくれ。なあ、金持ちになれば一生懸命に働かなくて済むのにな。そしたら、何も考えずに毎日遊べるのに……」
それに対して、冬子が呟いた。
「今もたいして働いてない上に、毎日遊んで暮らしているじゃん。しかも、頭の中を空っぽにしてさ。いい身分だよ、ナツはさぁ。あとさぁ、前から言いたかったんだけど……ネチネチ」
「………」
スゲー耳に痛いセリフなので、俺は寝たふりをした。また、明日から賞金首を捕まえる日々が始まる。まあ、何とかなるのが人生だ。
だいたい、いつも俺達の人生はいいかげんだし、賞金稼ぎなんて生き方は適当さが魅力だ。そう考えたいのだが、冬子がクドクドとネチネチと説教を続ける。ああ、これは長いパターンだ。
なので、俺は冬子の説教から、逃げるように眠りに落ちたのであった。とにかく、疲れて寝たかった。そして、いつのまにか深い眠りについた。
メキシコ編は完結です。




