第25章 対決、黒いシスター(メキシコ編)その2
ルビーが私達の会話に割り込んできた。その横には2人の修道服を着たシスターがいた。その2人の手にはリボルバー拳銃が握られていた。
おそらく、ルビーの部下なのだろう。宿舎の部屋の数から、10人~15人位の組織であると思われる。
冷徹の目をしたルビーが口を開く。
「人身売買の話を知った以上、生きて返すわけにはいかないわね。まったく、よけいな事を知らなければ死ななくてすんだのにね。バカな賞金稼ぎだ」
口調が悪党になっている。これがルビーの本性だな。
私はルビーに尋ねた。
「どうして、私達の事に気が付いたんだ?」
「ふん、教会の1本道には監視カメラを仕掛けてあるのさ。こういう仕事は敵が多いからね。お前たちが車を森の中に停めて、怪しいと思って尾行しただけよ」
なるほど、監視カメラには気がつかなかった。全部、行動がバレバレって事だ。私の判断が甘かったな、仕方ないな。
私はルビーに聞いた。
「人身売買のデータを取り返す為に、マリンに賞金首をかけたのか?」
「ええ、警察に頼んだら、色々と見られたくないものがあるからね。賞金稼ぎなら金以外の事はしないでしょ?」
やっぱり、銃器や薬物などとかも隠しているのだろう。そりゃあ、警察には頼めないわけだ。
私は更に質問する。
「おまえらは何者だ?」
「まあいい、冥土の土産に教えてやる」
ルビーは得意気に話し始めた。
「私達は黒いシスターだ」
「黒いシスター? 聞いた事ない名前だな」
「人身売買の新興組織だよ。最近は臓器売買をメインで仕事をしているってわけさ。特に子供の臓器は高く売れるから、儲かる商売ってわけだ」
人身売買の組織か……。ハンバーガーショップ前にもいたし、メキシコで流行っているのかもしれない。
「なるほど。何故、教会の場所を選んだ?」
「ああ、教会は隠れ蓑にするには都合がいいからね。教会で人身売買していると思わないだろ? それに、警察も簡単には手入れが出来ない理由が一番だ」
教会なら宗教上の理由を盾にすれば、警察も簡単には出せないな。しかも、戦争孤児を育てている信用を作るまでの徹底をしている。まったく、悪知恵の働く女だ。
ルビーは続ける。
「それに修道院の経営をしていれば、子供を集めるのにも都合がいいのさ……。大抵、食事を与えれば子供は簡単についてくるからね」
確かに子供を集めるのは大変だ。誘拐したら、足が付きやすいし、生活させる場所を探すのも一苦労だ。しかし、修道院なら沢山の子供がいても、警察の目を誤魔化せる。
子供を売った後は、養子に出したとでも言えばいいだけだ。新しい組織のタイプだと思った。それより、マリンがいる状況で銃を向けられているので、なんとか打破しなければならない。ナツと2人なら楽勝だが、マリンがいると正直厳しい。銃声でどう行動するか分からないからである。
ナツがスカジャンにポケットを入れながら会話に入ってくる。
「お前らのシノギの話はどうでもいい……。それより、俺達に賞金を払うつもりはあったのかよ?」
「ふん、払うわけがないだろう。用が済んだら海外に売り飛ばすつもりだったよ。そうじゃなければ、若い女の賞金稼ぎなんか雇わけがない。それに賞金稼ぎが死んでも、警察は本気で捜査なんかしないしな」
まあ、賞金稼ぎは使い捨ての人材だから仕方ない。
それを聞いたケラケラと笑う。
「ひでえ、悪党だな。キャハハハ」
「お前の方が酷いだろう。依頼主の名前を忘れる奴はそうはいないぞ」
確かにナツは酷い。依頼主の名前忘れていたのかよ。後で説教しなければな……。私はナツの方を冷ややかな目で見た。すると、ナツと目が合った。
すると、青い顔で言い訳を始める。
「冬子、違うぞ。俺はダービーが悪い奴って見抜いていたからね」
「ダービーじゃないぞ。ルビーって名前だぞ。ダービーは競馬だ」
「マジで?」
「うん、マジで……」
ナツは大量の汗を出しており、説教されるのが嫌なのだろう。だが、これは相手の気をそらす作戦だ。つまり、時間稼ぎだ。なので、ワザとバカのフリをしているのだ。人間は自分より下と判断したら、気を抜いて対応するのだから……。
なので、本当はこの状況を打開する事を考えているに違いない。こういう何気ない会話の中に、ナツは合図を送ってくるはずだ。だから、ルビーに気が付かれないように会話を続ける。
すると、ナツが口を開いた。
「だから、競馬がギャンブルだから悪いって事を言いたかったのさ。ギャンブルなんて人をダメにする悪い遊びだぞ。毎年、自殺する奴も出るしさ」
「いや、無理があるだろう。その言い訳は……。さすがに苦しいな」
この様子をルビー達は茫然と見ている。この会話にはヒントはない。次に入れてくるか?
私はナツに近づいて、頭にツッコミを入れる。
「ナツ、言い訳はやめろよ」
「煙を撒こうとしたが、無理だったか……。ハハハハハ」
「言葉を間違っているぞ。煙を巻くだろ」
「ハハハ、間違えたぜ。恥ずかしくて、煙のように消えたくなるな。煙だけに……」
ん? 煙って言葉を連発しているな。そして、ナツと目が合う。それから、スカジャンのポケットに手を入れた。ナツは片目を瞑ってウインクした。
おそらく……これは合図だ。そういえば、私と最初に戦った時も煙幕弾を出したな。なるほど、煙を撒こうという言葉の通りだ。煙幕を出すから、一旦逃げようって事だ。
私達だけならルビー達を倒すのは出来る。しかし、マリンがいるなら話は別だ。この狭い部屋だと、マリンに流れ弾が当たる可能性が出てしまう。
そこで、一旦は煙幕弾を出して、場所を変えて戦うつもりなのだろう。ナツも同じ判断を考えているはずだ。よし、後は煙幕を出すタイミングだけだ。
その時、マリンがルビーを睨みながら言った。
「ルビー、私の友達を返して」
「エメラの事か……。あいつは心臓移植で待っている金持ちに売ったよ。高く売れて良い商品だったわ。お前も高く売れる素材だよ」
「私達は商品じゃないわ」
「おまえら、戦争孤児に選択肢なんてない。どうせ生きていても、犯罪しないと生き残れないだろう。なら、心臓移植で人を助けた方が人類の為になる」
ルビー達の視線がマリンに集中している。今がチャンスだ、私はナツを軽く肘で突っつく。すると、ナツは無言で頷く。その瞬間、ナツがスカジャンから煙幕弾を取り出した。
それを床に投げつける。私は息を大きく吸い込み目を閉じた。あっという間に部屋中が、白いモクモクとした煙に包まれた。
周りを薄目で見ると、ルビー達がゴホゴホと咳き込んでいた。よし、ここから脱出をするぞ。私はマリンを横に抱えて、物置部屋から素早く出た。




