第21章 賞金首マリンを探せ(メキシコ編)その1
俺達は車に乗り込んだ。冬子はハンドルを握って車を発車させた。教会からの1本道を走る。スゲーな林ばっかりで、辺鄙な所に教会を建てたものだな。
俺は冬子の方を見ると、鼻歌を歌いながら運転をしている。冬子の愛車のハコスカは調子が良さそうだ。エンジンを色々と改造してあるみたいだ。休日にはエンジンの調整をして、テンションがやたら高くて、かなり気持ち悪いのである。
俺は車に興味がない。この全自動運転の時代に、自分で運転するメリットはないのだ。だが、冬子が運転している時は楽しそうだ。なんでも、ドリフトという技術は自動運転では出来ないとか言っていたな……。
俺も経験したが、何処が楽しいのか意味不明だ。そういえば、さっきの子供達が気になるので聞いてみた。
「冬子、修道院にいた子供達は何だ?」
「何でも、戦争孤児を寄付金で育てているらしいよ」
「ふーん」
「なんでも、寄付金を集めるのに、黄金のマリア像が必要らしい。それがあると、ミサで人が集まって寄付をしてくれる人が増えるらしい」
最初に教会に入った時に、ルビーに説明されたのだろうな。でも、爆睡していたから聞いてないわ。
俺は冬子に聞いた。
「今日は何処へ行くんだ?」
「この教会から一番近い町だ。賞金首は子供だ」
「修道院にいる子供か?」
「ああ、子供の1人がマリア像を盗んだらしい。そして、子供は無傷で捕まえないといけない条件だその子供は元ストリートチルドレンだ。名前はマリンっていう10歳くらいの女の子だ」
子供が犯人か、何か不満があったのかな? 第3次世界大戦後は景気が悪い。先進国が戦争孤児を移民として受け入れたが、もちろんロクな仕事はないのである。あっても、劣悪な環境の仕事で使い捨ての人材である。
結局は町で盗みなどをして生きるしかない。俺も昔はストリートチルドレンだったので分かる。だが、町で残飯を漁るよりは、修道院の生活の方が遙かに楽なはずだ。
なら、何か逃げる理由があるはずだ。あの教会には何か秘密があるような気がする。
冬子は会話を続ける。
「あとな、マリンは金を持ってない可能性が高い。だから、食料を求めるには町に行くしかない」
「教会に隠れている可能性は?」
「私もそれは考えた」
「考えた?」
冬子らしくないな。言葉の歯切れが悪い。
「いつもの冬子だったら、自分の手で教会の中を探すだろ?」
「私もルビーに頼んだよ。教会内を探せてくれってさ」
「そしたら、断られたのか?」
「ああ、ミサが近いから断られたよ。宗教上の理由ってやつだ。部外者がいると、信者からクレームが入って、寄付金などを貰うのが難しくなるらしい」
それから、俺は詳しい内容を聞いた。期限は3日間とか、賞金首をかけた理由などだ。
しかし、ここで俺は一つの疑惑が浮かぶ。
「でもさ、子供に賞金首をかけるっておかしくねえか?」
「ナツの言いたい事は分かるけど、依頼主の命令には逆らえないだろ? 私達は命令に従うのが仕事だ」
「まあ、そうだけどさ。強引すぎるだろう」
「でも、ミサを成功させないと、教会が潰れるから手段を選べないのだと思うよ。あの依頼主は嘘を言ってないと思うけど……」
冬子は人が良い部分が欠点だ。俺は子供よりも、マリア像の方が心配そうな感じだった。ルビーも自分が食っていくには、マリア像を使ったミサが必要だしな。それは当たり前か。
多分、今回の事件は金目当ての犯行の可能性が高いだろう。純金なら、売れば結構な金になる。となると、黄金のマリア像の価値を知っている奴が犯人だ。
となると、教会の孤児、信者のどちらかだ。まあ、マリンの単独犯の可能性が高いな。だって、現場から消えている人物だ。だけど、信者がマリンにマリア像を盗ませるパターンだってあるけどな……。
または、マリンを人質にして、犯人が逃げている可能性だってある。
しかし、冬子はどう思っているのかな?
「冬子は共犯者はいると思うか?」
「多分、いる可能性は低い。盗むのに子供を使うのはリスクが多すぎる。捕まった時には簡単に口を割るしね。そして、人質としても邪魔になる」
「まあな、メリットがないからな。じゃあ、マリンって子供の単独犯かな?」
「そう考えるのが正しいな。それに、夜の教会はルビーが見回りをしている。だから、その見回り時間帯を知っている内部犯に違いない。とりあえず、私達は町を探すしか選択肢がないって事だ」
おそらく、マリンが犯人だとすると、隠れた場所は2パターンある。
①教会にマリア像と一緒に隠れているパターン。
②マリア像を教会に隠して、マリンだけ町に逃げているパターン。
冬子は後者のパターンを考えているのだろう。ガキが重いモノを持って、移動するのは無理だ。今回の依頼は賞金稼ぎよりも探偵の仕事だな。つまり、人探しだな。
その反面、戦闘もなさそうだし、楽に終わりそうだな。
「それで、町にいなかった場合はどうする?」
「その場合は教会に忍び込むしかないだろ。隠れる場所はそこしか残ってないし……」
「マリンって、子供の写真とかあるのか?」
「ああ、この女の子だ」
冬子は1枚の写真を渡す。そこには8歳~10歳位の金髪の女の子が写っていた。
俺は写真を見て声を上げた。
「あっ?」
「ナツ、何か知っているのか?」
なんか、見た事がある顔だが、思い出せない。夢の中で見たような気がする。
俺はしどろもどろで答える。
「見た事あるような、ないような、あるような気もありませう……」
「どっちやねん」
冬子は関西弁でツッコミを入れてきた。なんか、忘れている気がするな。昨日は睡眠不足だったから記憶が怪しい。まあ、いいや。その内に思い出すだろう。とりあえず、町に行ってみよう。




