第14章 黄金のマリア像を取り戻せ(メキシコ編)その1
舞台は再び、現代に戻る。私もまさかコンビが今日まで続くとは思わなかった。なんだかんだ、ナツのことが好きなのだろう。これだと、ダメ男好きな女に見えるな。
それより、依頼を受けた教会は森の1本道を抜けた所にあった。中々と年季が入っている協会だ。屋根の上には大きな十字架があり、教会の横には修道院みたいな建物があった。
教会の周りはひたすら木ばかりで、森の中心に建設されたようである。私は教会の前でブレーキ音と共に車を停めた。
助手席のナツを見ると、スヤスヤと寝ていた。
スカジャンを布団替わりにして、口からは大量のヨダレが垂れている。私はハンカチを取り出して、大量のヨダレをふき取ってやった。そろそろ起こさないといけないな。
私はナツの肩を揺らした。
「おい、ナツ起きろ。着いたぞ。仕事の時間だぞ」
ナツの口が開いた。
「やったぜ。100億ギルだ。俺の物だ。もう、絶対に働かないぞ」
寝言を言っているみたいだった。おそらく、札束に囲まれた夢でも見ているのだ。いい身分だよな、こっちは休憩なしで車を運転してきたのにさ。
私は先ほどより、体を強く揺らした。
「ナツ、起きろ」
「こら、冬子。俺の金をとるなよ。ムニャムニャ……」
そう寝言を言うと、ナツは右足を私の腹部に打ち込んだ。私は思わず声が漏れる。
「ごふっ……」
痛みで腹部を抑える、涙も抑える、怒りも抑える……。いや、怒りは抑える事が出来なかった。それに怒りを忘れたら人間じゃない。
私はナツの柔らかい頬を両手で左右に伸ばした。マシュマロみたいでずっと触っていられそうだ。そして、ナツの耳元で叫んだ。
「おい、飯の時間だぞ。起きろぉおおー」
すると、ナツが目を覚ました。もちろん、頬は伸ばしたままだ。
「メシ? 今日のメニューは何だ?」
やっと起きやがった。まったく、手間を取らせやがって。
「メシはねえよ。ナツを起こすための嘘だよ」
ナツは欠伸をしながら言った。
「おい、嘘はよくないだろ」
「だって、そうしないと起きないだろ」
「それより、頬が痛いんですけど……」
「こっちも、寝相の悪いナツさんに腹を蹴られて痛いんですけど……」
ナツはギロリとこちらを睨んできた。それから、私の両頬をつまんできた。
痛さで声を出してしまう。
「痛っててえぇえ。ナツ、手を放せよ。バカ」
「絶対に嫌だね。冬子が離したら、俺も離してやる」
「じゃあ、私も嫌だ。ナツが先に離せよ、コラッ」
「絶対に嫌だ。そっちが先に離したら離してやるぜ。お前がバカだ」
私はカチンときた。自分よりバカな奴にバカって言われるのは腹が立つ。胸のムカつきが止まらない。私は全力でナツの両頬を伸ばす。ほっー、柔らかいな。
すると、ナツが涙を流しながら叫ぶ。
「ちょうこぉ、やぁめえろーふじゃけやがってええー」
アハハ、何を言っているか分からない。しかし、怒っているのは分かる。
お餅のような顔をしたナツを見て笑いが止まらない。
「アハハハハ、ナツの顔が面白い事になっているぞ」
「ちょうこぉ、てぇめぇええーころちゅてやふぅー」
ナツも切れたらしく、私の両頬を全力で引っ張ってきた。
これは結構痛い……。いや、かなり痛えよ。冗談じゃねえ。私も激痛で叫ぶ。
「なちゃうぅ、ひゃなぜよぉー」
「やぃおだよぉー」
「なちゅぅーひゃなせー」
「やぁだぁう、やぁだぁうー」
車の中で、若い女2人が両頬を引っ張り合っていた。2人とも顔を真っ赤にして、頬に涙を流している。
外から見たら、頭のオカシイ連中にしか見えない。こんなくだらない事は今すぐ止めるべきだ。しかし、ナツは意地になって、手を緩める気はないみたいだ。
だが、私も先に手を放す気はない。こうなったら、結局は我慢大会になる。
こいつが謝るまで、続けてやるからな。
さすがに、5分後には二人とも手を放した。そう、体力の限界が来たのだ。すると、私達は肩で息をしていた。お互いの頬は赤く腫れており、リンゴ病の子供みたいな状態だ。
他にも目も涙の跡が残っていて、額には大量の汗が流れていた。なんで、仕事前にこんな疲れないといけないのだろう。あまりにくだらなすぎる。
ナツは息を切らせながら、勝ち誇ったように言った。
「ハアハア、冬子が先に手を放したから、俺の勝ちって事でいいよな?」
「はい、はい。もう、ナツの勝ちでいいよ」
「勝ったぞ、ざまあ、ハハハ……ハアハア」
ナツはニヤリとした顔していた。その勝ち誇った顔がイラッとする。まあ、私の方が大人なので我慢してやる。それより、仕事だ。教会のシスターに会わないといけないな。
私はナツにクシを渡して言った。
「おい、寝癖直してから行くよ。これを貸してやるからさ」
「いや、面倒だからいいわ」
私はナツの首襟を掴んで、クシで無理やり寝癖を直す。
「ナツ、暴れるなよ。すぐ、終わるって……」
「やめろ、くすぐったい、セクハラだぞ」
まるで、犬を風呂に入れているようだ。バタバタと暴れている。
「ナツ、身なりはしっかりしろよ。女の子なんだからさ……」
「バカ、くすぐったいつぅーの。キャハハハハハハ」
最近のナツとの人間関係はこんな感じだ。1年間一緒に暮らして分かった事がある。
ナツの基本はだらしないタイプだ。それに負けず嫌いだし、食べる事と寝ることが好きで、服も脱いだら脱ぎっぱなしだ。いわゆる、子供みたいな性格だ。
もし、出来の悪い妹がいたら、こんな感じなのだろうか? 確かに喧嘩もするが、一緒にいる事が最近は楽しく感じている。こんな日々も悪くないなと思っている。私もかなりの変わり者だってことだ。




