第12章 コンビ誕生秘話(イタリア編)その2
私の目の前には、昨日の賞金稼ぎがイスに座っていた。
明るい場所で見ると、年齢は15歳~16歳くらいだろう。見るからに生意気そうな態度だが、年相応の可愛いらしい顔をしていた。自信満々な目と表情をしている。
少女が自己紹介をした。
「俺の名前はナツだぜ。ふふふ、昨日は悪かったな。手首は大丈夫か? まあ、大丈夫なワケないか……。包帯でグルグルだもんな」
赤毛の賞金稼ぎはナツと名乗った。これが本名であるかも怪しいのだが……。赤毛の外国人か……。日本でもあんまり見た事ないな。西洋人である事は分かる。
私は質問に答える。
「ああ、そうだよ。お前のせいで左手首にヒビが入っていたよ。今も痛むよ」
「俺だって、銃で撃たれて縫ったぜ。今も右腕が痛むぜ」
「ああ、お互い様って感じだな。おい、私に話があるんだろ? さっさと用件を話せよ。昨日の殺し合いをやるなら、外でやろうぜ。ここじゃあ、一般人に迷惑だ」
「ああ、その前に腹が減ったな。何か食おうぜ」
そう言うと、テーブルのメニューを手に取った。
ナツは楽しそうに、料理を選んでいるようだった。昨日、殺しあった人間の前で食事をするなんて……。なんて緊張感のない奴。それとも、度胸があるのか、単なるバカなのか分からない。
目的は何だ? 私を殺しに来たのか? いや、だったら電話をしていた時に殺せたはずだ。
後ろをとられていたのだから…。正直な所、目的が分からない。こっちは、ここで撃ち殺してもいいんだぜ。なあ、ナツ。
私がそんな事を考えているとも知らずに、ナツは呑気にウエイターを呼んで料理を注文した。しばらくすると、ハンバーガーとポテトフライが来た。それと飲み物のコーラが置かれた。
ナツは注文したハンバーガー食べながら話を切り出す。
「俺はマロンを殺した犯人を知っているぜ。誰だか知りたくないか? あれ、ひょっとして、俺だと思っているのか?」
「いや、お前じゃないだろう。殺したのは別の奴だ」
「ハハッ、何でそう思う?」
「お前、生け捕りで捕まえる気だっただろ。単純な金目的の賞金稼ぎだろ? そんな奴が拳銃で、心臓を撃ち殺すわけがないからな。それに、昨日の戦いで拳銃使ってなかっただろ?」
「なるほど、正解だぜ。お前の頭は悪くないようだ。犯人はブレンドだぜ」
「それで証拠は? 証拠もないのに信用しろっていうのか?」
私は証拠もないのに、見知らぬ賞金稼ぎの戯言を信じる程、私はお人よしではない。
ナツはスカジャンのポケットに手を入れた。そして、イヤホンのついたスマホを出して渡して来た。
これを聞けって事なのだろう。
「俺はマロンの上着に盗聴器をしかけたのさ。まあ、これを聞いてくれよ」
「ああ分かった、とりあえず聞いてやるよ」
私はイヤホンを耳につける。しばらくすると、マロンとブレンドの会話が入っていた。どうやら、揉めているみたいだ。仲間割れか?
ブレンドとマロンが激しい口論になっていた。
「ボス、もう引退してくださいよ。賞金首になった以上、あなたを守るのに金がかかり過ぎる。しかも、パブの営業もしばらく出来ない状態です」
「お前、誰に向かって口を聞いているつもりだ? 警察をクビになって、拾ってやった恩を忘れたのか? 俺に意見できる立場か?」
ブレンドが丁寧な口調でなだめる。
「いや、忘れてないですよ。もちろん、感謝はしているつもりです。でも、組織の維持も大切ですよ。だから、老後の金は渡しますよ。それで顔を整形して海外にでも逃げてくださいよ。ちょっと早いが、余生を楽しんでください。あとは俺が組織を切り盛りしていくつもりです」
そこで、テーブルを叩きつけるような音がした。おそらく、マロンがやったのだろう。すぐに怒声が聞こえた。
「ブレンド、お前ごときが偉そうな事を言うな。だいたい、お前が組織を継ぐつもりか? バカには組織を運営は出来ないぞ。お前は視野が狭いんだ」
「もう、いいや……。うるせえ、ジジイだ。早く死ね」
そこで、1発の銃声が鳴り響いた。
「がっ……お前……私を裏切……」
「なあ、犯人は冬子の野郎だ。赤毛の賞金稼ぎと組んで殺した事にしておくよ。パブの件も自作自演ってやつだ。まあ、金目当ての裏切りにしておくよ。じゃあなボス」
「ちょっ待っ……」
ブレンドの口調が荒くなる。
「いや、待たねえよ。俺は戦争を始めた日本人を恨んでいるのを知っているだろう? こっちは戦争で妻を失ったんだよ。それなのに、クソジャップなんか仲間に入れやがってよ」
「ブ……ブレンド……貴様……」
「いつも、見下しやがってよ。老害は早く死ねや」
再び、一発の銃声が鳴った。すると、マロンの声は聞こえなくなった。おそらく、死亡したのであろう。そこで、ブレンドの笑い声が鳴り響いた。
「今日から俺がボスだ。フッフフフフ……」
そこで、私はイヤホンを外す。ブレンドがマロンを殺した犯人か……。確かにマロンに不満を見せていたな。日頃の溜まった不満が爆発したってところかな。
この証拠は本物である可能性が高いな。このナツが偽物の音声を作れる程に器用には見えない。いや、作ってもメリットがない。この話は少し聞いてもいい気がしてきた。
ナツが話しかけてきた。
「俺と冬子が犯人になっている。ブレンドが若い衆に探せているみたいだぜ。これが、どういうことか分かるか?」
「いずれ、ヒットマンが襲ってくるって事だろ?」
「ああ、ずっと命を狙われる生活になるぜ。俺達が強くても、24時間も枕を高くして寝られない状態は辛いだろ? 面子が大事なマフィアは何処までも追ってくるぜ。逃げられねえよ」
私はブレンドの目的を理解した。私とナツを殺すつもりなのだろう。ブレンドが後継者になるのに、ボスの敵討ちをした実績が欲しいはずだ。そうしないと、部下に示しがつかない。そして、真実を闇の中に葬るつもりだ。くそ、ブレンドは許せないな。出来ればマロンの無念も晴らしてやりたい。マフィアであるが、筋を通す男であったからだ。
すると、ナツは共闘を持ち掛けてきた。
「なあ、依頼主はもう死んでいるんだぜ。俺と組んでブレンドを潰そうぜ。お互いが生き残るためには悪くないだろう?」
確かにマロンは死んだ以上、ナツと戦う必要もない。追っ手から逃げるには、一人でも仲間がいた方がいい。利害は一致しているから裏切る事はない。だけど、一時休戦なだけだ。
私はナツの意見に賛同した。
「ああ、いいだろう。一緒に手を組もう。なんて呼べばいい?」
「ナツでいいよ。そっちは冬子でいいかな?」
「ああ、好きなように呼んでくれ」
「じゃあ、冬子で」




