第9章 ナツ VS 冬子(イタリア編)その1
日本人の女がトイレに閉じ込められる5分前に遡る。
俺はバーカウンターで、夕食のハンバーガーを食べていた。くっはー、ここのハンバーガー旨いこと、旨いこと……。肉汁がジューシーだぜ。まあ、今は仕事だ、仕事。
俺のすぐ近くには、マイケルがウイスキーを飲んでいる。
黒いキャップを被って変装しているが、帽子の隙間から緑の髪がはみ出している。フフフ、マヌケな男だぜ。バレバレだぜ。マイケルはマロンの座っている方をチラチラと見ている。俺も警戒しながら、奥の席にいるマロンの方を見る。
他のソファやテーブルよりも高級に見える。おそらく、金持ちのVIP席なのだろう。
両隣に女を抱えて楽しんでいるようだ。近くには尻をプリプリさせたエッチなダンサーが踊っている。ポールダンスってやつだな。金と女に囲まれて良い生活ぶりだなと思った。笑顔で人生を楽しんでいる感じで、かなりの親近感を感じた。
ふっ、俺と気が合いそうだな。賞金首じゃなかったら友達になれたかもな。
マロンの前には、日本人の女が座っているが背中姿しか見えない。さっきのスーツ女だな。うしろ姿を見ると、普通の女に見えるが警戒心は緩めてない。周りに目を配っているのが分かる。マイケルは顔が割れているので、気づかれるのは時間の問題だ。
おれは視線を元に戻す。あんまり、見ていると日本人女にバレそうだと思ったからである。
一方のカウンター席にいるマイケルは煙草を吸いながら酒を飲んでいた。それから、煙草の火を消して、席を立ったのである。マロンを殺すのに動いたと思った。
しかし、歩く方向はトイレだった。酒が入っているのかヨタヨタと歩いていた。
おいおい大丈夫かよ、マイケル。すると、日本人の女も席を立ちあがり、マイケルの方へ歩きはじめる。どうやら、マイケルに気が付いたようだった。
俺も席を立って、バーカウンターの横をゆっくりと歩く。
そして、日本人女の尾行をする。途中でブレンドとすれ違うが、相手は俺の事を知らないので、もちろん気が付かない。なんか、店長らしき男と喋っているな。
俺はトイレの方まで歩くと、マイケルは男子トイレへ消えて行った。日本人の女はドアノブに、何かのプレートを掛けているようだった。
そして、男子トイレの中に消えて行った。俺もトイレの前まで行って、プレートを確認すると清掃中と記していた。
なるほど、男子トイレで捕まえるってわけか。これはチャンスだ。2人共トイレに閉じ込めてしまおう。俺の普段の行いが良いので、神様がチャンスを与えてくれたのだろう。神様、ありがとう。俺は近くにあったビール瓶が入ったケースを見つける。
そのケースを男子トイレの扉の前に3ケース重ねて置いた。1ケース30キログラムで、3ケースで100キログラム位になる。これなら簡単には扉は開かず、トイレから出るのに手間がかかるだろう。
あの日本人の女とは戦いたくない。俺の本能がそう言っている。本当にヤバイ奴は戦う前から分かるのだ。結局は人間も動物って事なのであろう。
そろそろ、マロンを捕まえにいくか。ブレンド1人なら、楽勝に倒せるからな。俺はスカジャンのポケットに手を突っ込みながら、マロンがいるVIP席方へ向かった。
そして、マロンに近づこうとしたが、若い黒服のスタッフが止めに入った。
黒服は警戒心むき出しで声をかけてきた。
「失礼ですが、マロン様のお知り合いですか?」
「いや、マロンの敵だよ」
「てめえ、賞金稼ぎか?」
黒服は俺の腕を掴もうとしてきた。
なので、俺はおもいっきり黒服の腹を蹴り上げた。すると、バイクに轢かれたみたいに、男が宙にぶっ飛んだ。サイボーグブーツの威力って奴だ。
それから、黒服はマロンの席のテーブルの上に背中から着地した。テーブルの上にあった、高級そうな酒やフルーツがあたりに飛び散る。マロンの両隣の女達がビックリした顔をしていた。そして、俺を見て怯えた目をする。
フフフ、ビビってる、ビビってる。戦いの基本は、最初に圧倒的な戦闘力を見せつける事が重要だ。そしたら、無抵抗になる場合は多いのだ。だが、意外にも微動しない男がいた。
マロン本人である。さすがに、小規模ながらもマフィアのボスだけあるな。腹のくくり方が違うぜ。だけど、俺様に目を付けられたのが失敗だったな。
そのマロンが声をかけて来た。
「お前、賞金稼ぎか?」
「ああ、そうだぜ。アンタを捕まえれば500万ギルだぜ。だけど、殺すと賞金が半額になっちまう。まあ、おとなしくついて来てくれよ」
すると、こちらの騒ぎに気が付いたブレンドが横に入って来た。長身の強面って感じだ。
ブレンドはガンを飛ばしてきた。
「てめえ、賞金稼ぎか?」
「ああ、見れば分かるだろ。黒服がおねんねしているだろ?」
「てめえっ……」
そう言うと、ブレンドはスーツの懐に右手を入れた。おそらく、拳銃を出すのであろう。
しかし、スピードが遅い。俺はブレンドが拳銃出すと、同時に前蹴りで拳銃を上に蹴り上げた。一発の銃声と共に弾丸が天井にめり込んだ。そして、宙を舞った拳銃は床に落ちた。
ブレンドは何が起こったのか分からず、キョトンと顏をしていた。自分の拳銃が蹴り飛ばされた事に気が付いていないのであろう。だが、すぐに状況を把握したようだった。
すぐに顔を真っ赤にして殴りかかって来た。
「てめえ、舐めたマネしやがってぇええええー」
右拳を振り上げるが、このパンチも遅い。
俺は左足を上げて、前に出してブーツの底でパンチを受け止めた。骨が折れる音が鳴り響き、ブレンドの右拳にダメージを与えた。
ブレンドが顔を歪ませて叫ぶ。
「あがっ……痛っ…ぐっ。クソ、右手がぁあああああー」
ブレンドは右手を抑えながら、痛みを堪えているようだった。そりゃ、素手で鋼鉄を殴るのと一緒だから痛いはずだぜ。それにブレンドちゃんはノーガードでスキだらけだった。
俺は素早く、右回し蹴りでブレンドの腹部を貫いた。ブレンドの体が九の字に曲がる。
「ごふっ!」
ブレンドは嗚咽と大量の涎を垂らしながら、ヨロヨロと膝をついて床に倒れた。ふっ、最近のマフィアってこんなものか? 情けないのう、情けないのう。
この時、銃声と喧嘩騒ぎで客がパニックで逃げ始めた。客たちが大声で叫ぶ。
「きゃっあああー」
「人が暴れているぞぁあー」
「拳銃を持っている奴がいるぞ。逃げろォー」
色々な奴が叫んでパニック状態だ。マロンの両隣の女も入口の方へ走り出した。お客の中には、床に臥せている者もいる。拳銃に警戒しているのかもしれない。
俺は床に転がったブレンドの拳銃を拾った。オートマチックの拳銃だ。名前は知らん。
拳銃をマロンの方に向ける。
「おっさん、怪我したくなかったら付いて来い。それとも、ここで死ぬか?」
「分かった」
「フフフ、物分かりが良くて助かるぜ。これで、500万ギルゲットだぜ」
後はパニックに扮して、裏口から逃げるだけだ。
マロンは黙って頷いて、ソファから腰を上げようとした。よし、素直でよい男だ。その瞬間、1発の銃声が鳴り響いた。大型拳銃の発砲音だった。気が付くと、俺の銃が何者かに弾き飛ばされていた。銃は回転しながら床に転がっていった。
誰だ? 俺は辺りを見回すと、客がパニックで逃げている。
その雑踏の中に、日本人の女が拳銃を持って立っていた。その距離は20メートル位だった。あっちゃー。もうトイレから脱出したのかよ、クソ日本人女め。
俺は拳銃を狙って、弾き落とす人間を初めて見た。映画とかしか見た事のない神業だぜ。
あの女は何者だ? 女ガンマンか? その女はこっちにゆっくり、拳銃を構えながら歩いてくる。拳銃はシルバー色に輝く、大口径のリボルバー拳銃だ。マグナム弾が撃てるタイプであろう。今どきリボルバー拳銃かよ、モノ好きな女もいるもんだな。
しかし、この手の拳銃は装弾数が6発のはずだ。ということは、残り5発をなんとかすればいいだけだ。腕があっても、弾がなくなれば、タダの女だ。
日本人の女はこちらに来ると、マロンに話しかけた。
「ボス、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ブレンドも命に別状はないみたいだ」
ブレンドは呻きながら、日本人の女に文句をたれていた。
「てめえ、ボディガードのくせに席を離れやがってよ。どういうつもりだ? こっちは高い金を払っているんだぞ。殺すぞ、コラッ?」
「それは仕方ないだろう。トイレにも賞金稼ぎがいたから、捕まえていたのさ。そいつはトイレに縛ってあるよ」
おそらく、マイケルの事を言っているのであろう。まあ、この女に勝てる器じゃない。当然の結果だろうな。だが、この俺様はマイケルとは違うぜ。
マロンが女に喋りかける。
「賞金稼ぎを捕まえるとは、さすがだ。ミス冬子」
「いえ、仕事ですから……」
「俺の命を救ってくれてありがとう。感謝する」
冬子? おそらく、この女の名前なのであろう。冬子は背が高く、黒いパンツスーツで身を包んでいた。黒いショートカットに漆黒の瞳が印象的だった。近くで見ると、イケメン女ってところだな。
冬子は拳銃を片手で構える。
「こんな、少女が賞金稼ぎだったと思わなかったよ」
「見た目で、判断すると痛い目に合うぜ。日本人女」
やっぱり、この女とは殺し合う運命だな。ココでケリをつけてやるぜ。




