第8章 2人の出会い(イタリア編)その4
次の日から、俺はマイケルの尾行を始めた。まずは、マイケルのSNSを辿っていたら、住んでいる自宅の場所をつきとめた。
すると、5F建てのマンションに住んでいる事が分かった。俺は対面のマンションの空き部屋に忍び込んで、マイケルの監視生活を始めた。
大体は望遠鏡で覗きながら、マイケルの行動を確認する。外出したら、バレないように後をつけた。マイケルは昼過ぎに起きて、夕方頃に外出して、夜に帰ってくるパターンが多かった。時にはエッチな動画を見ているようだった。そのような生活を監視しながら、時間が流れていった。それから3日後。ついにマイケルが動いたのである。
マイケルも下調べが済んで、やっと行動に移す気になったのであろう。
その日は、マロンが週末の日課のパブに顔を出す日であった。やっぱ狙うとしたら、この日しかないと思った。それはマイケルも同じ考えだったらしい。あながち、バカな奴でもないかもしれない。
マイケルはマンションを出ると、駅の方に向かって歩きはじめた。俺も慌てて後をつける事にした。緑色の髪に派手な花柄シャツで、見失う事はなかった。それから、マイケルは電車に乗ってパブのある街へ足を運んだ。場所は繁華街であり、マロンの縄張りの街でもあった。
パブの前には、道路を挟んでコービーショップがあった。全面ガラス張りで、中の様子は見放題だ。マイケルはコーヒーショップに入って、気楽に煙草を吸っていた。
時計を見ると、夜の6時が過ぎていて辺りは暗くなり始めていた。情報屋によると、マロンが来るのは7時~8時頃になる。
マイケルはコーヒーショップのガラス張りの席に座って、対面のパブを監視ていた。なるほど、ここで監視をして、マロンを待ち伏せするつもりのだな。なので、俺は別の場所で様子を見る事にした。
そこで、コーヒーショップの入ったビルの屋上に忍び込んだ。古いビルの屋上は給水塔があり、そこから双眼鏡でパブの前を監視する。7時10分頃、1台の黒塗りの高級車がパブの前に止まった。車種はベンツのSクラスであった。助手席から、背の高い若い女が出てくる。
黒髪の東洋人で、黒いスーツを着ている。あれが、最近に組織に入った日本人か……。その女は周囲を見回してから、後部座席を開けると2人の男が出てくる。小柄の小太りの男がマロン。その後ろに、大柄な長髪にスーツの男がブレンドだな。
3人はパブに向かって歩きはじめた。まずは、ブレンドが扉を開けてパブに入っていく。
その後ろに、マロンがついて行く。最後に日本人の女がガードするように、マロンの後ろを歩く。女はうしろ姿なので顔までは分からない。
しかし、扉に入る瞬間、日本人の女がピタリと足を止める。あの動きと警戒心は……ヤバイ。秘書や愛人じゃないと本能が悟った。スーツの懐にはおそらく、拳銃を隠し持っているはず。俺の感だと、軍人とか警察とかの人種であるに違いない。
こちらのビルを見ており、そして屋上を見上げた。俺は顔を拝んでみると、パッチリとした漆黒の瞳と目が合った。綺麗な人形のような顔があり、ショートカットなので、イケメン風の少年にも見える。
まずい……目が合ったか? 女はスーツの懐に右手を入れた。
まさか、こちらに気が付いたのか? 気が付くはずがない。このビルは7F建てだし、もう日が暮れて暗い。それにビルの屋上には光はまったくないのだ。
タダ者じゃないと分かっているが、気のせいだと自分に言い聞かす。しばらく辺りを見回してから、女は懐の拳銃から手を放した。そして、パブの扉の中へ消えて行った。俺は息をなで下ろす。たぶん、あの女と戦ったら、死ぬかもしれないという予感が遮った。
俺が恐怖を感じたのか? 急に不安になり、自分は強いと自分に言い聞かす。大丈夫、大丈夫だ……。今までもヤバイ修羅場はあったが、なんとか乗り越えられた。
今回もいけるはずだ。俺は強い、強い、強い……。
そう考えていると、マイケルがパブの前に立っていた。黒いキャップを被っていた。おそらく、マロンを殺すのに動き始めた。まあいいや、マイケルを囮にして、日本人の女をマロンから引き離そう。マイケルはパブの扉を開き中に消えて行った。俺も屋上から1Fに降りて、マイケルの後を追った。
私はパブの中に入った。
パブの中は、入って右側にはカウンターのバーがあった。カウンターの前には丸椅子が設置しており、カップルや1人酒の客が座っていた。
左側には丸いテーブルやソファが沢山おいてあり、水商売の女達が接客をしていた。バーとキャバクラと合わせたようなパブだった。他にも印象的なのが、ポールダンスで踊っている女達だ。Tバックの姿で踊っている。まったく、男ってこういうのが好きだよな。
ブレンドが先頭に左側の奥へ歩いて行くと、2人の派手なドレスをした女が手を振っていた。赤い露出の高いドレスを着た女の1人が笑顔で迎える。
「マロンさん、お久しぶり。元気だった?」
マロンは上着脱ぎながら、女に話しかける。
「先週、来たばかりだろ。まったく」
そう言いつつ、マロンは自分の上着を女に渡す。
女はハンガーに上着を掛けながら喋る。
「1週間も会えないから、寂しくてね。ウイスキーでいい?」
「ああ、ロックで頼む」
そう言って、マロンはソファに腰を下した。ネクタイを緩めて、リラックスしているようだった。すると、2人の女がマロンの横に座る。
私とブレンドは近くで、両手を前にして立っている状態である。
すると、ブレンドが声をかけてきた。
「俺はちょっと、仕事の話をしてくる。ボスを頼むぞ」
「ああ、分かった」
ブレンドはバーカウンターの方に歩いて行き、店長らしき男を呼んで何かを話している。店長は髭を生やしており、蝶ネクタイをしている。おそらく、店の売上などを確認しているのだろう。こっちは護衛だけしてればいい。
マロンが声をかけてきた。
「とりあえず、ミス冬子座ってくれ」
「はい、分かりました」
私はマロンの対面のソファに座る。目の前には高価そうなテーブルがあった。テーブルの上には高級ウイスキーや葉巻が置いてあった。他のテーブルより、豪華で大理石で出来ているようだった。座っているソファも革張りだ。
おそらく、VIP席なのだろう。マロンの両隣には美人2人が接客している。
女の1人がマロンに話しかける。
「こちらの方、カッコいい人ですね。初顔さんね?」
私の事を言っているのであろう。この女はかなりの美人だな。マロンが気に入るのも無理ない。鼻の下を伸ばしたマロンは女に伝える。
「ああ、俺のボディガードだ。あとな、女だぞ」
「えっー、ごめんなさい。凄い美少年だと思って……」
こちらを見て、女はお辞儀する。
私は女に返事をする。
「はは、気にしないでください……」
女2人は、私の方を見て可愛いってキャッキャッしている。日本の学生時代を思い出す。女子学校だったので、後輩がこんな感じだったな。それも、日本での懐かしい思い出だ。いやいや、今は仕事中だ。
私はバーカウンターの方の様子を見ると、ブレンドも椅子に座って煙草を吹かしている。何かの書類を見ながら、難しい顔をしているようだった。店の売上が悪いのかもしれない。
私は警戒していた。賞金稼ぎの2人が狙うとしたら、パブで酒を飲んでいる時しかない。
外出するのが決まっているのは、この週末の夜しかないのだから……。
あとは不定期に外出しているので、外出先を特定するのは難しいはずだ。私もマロンに注意したが、逆にその時に捕まえればいいと提案されたのだ。結構、いい度胸しているぜ。おそらく、このパブに賞金稼ぎの2人が必ずいるはずだ。私は辺りを見回す。
まず、マイケルって男の顔は頭に入っている。緑の髪で派手そうな奴だから分かりやすい。問題は、おそらくもう一人の賞金稼ぎだ。こっちの少女は顔が分からない。
それに先ほど、パブの外で殺気を感じた。向こうも感づいたのか、気配を消した。おそらく、パブの向かいのビルのどこからか、こちらの様子をみていたはずだ。
残念だけど、場所までは特定出来なかったが、おそらく10代の女の賞金稼ぎだろう。もしかしたら、水商売の女に変装をしているかもしれない。もう一度、周りを見回す。
走り回っている黒服の店員、接客している水商売の女、カウンターで飲んでいる客……。
この中で特定するのは難しいな。人数が多すぎるので、相手が動くまで待つしかないな。
それから、10分の時間が流れた頃だろうか。私はバーカウンターで煙草を吸っている男に気が付いた。男は黒いキャップを被っており、こちらを何度も見ている。どうみても、バーを楽しみに来た様子ではない。
もう1度よく観察してみると、キャップの隙間からは緑色の髪の毛がはみ出している。
マイケルだ。間違いない、ワイルドバンチの写真で見た顔で間違いない。
私はマイケルに気が付かないように行動を監視した。その時、マイケルが動きはじめた。バーカウンターから、トイレに向かって歩きはじめた。なるほど、トイレで待ち伏せするつもりなのだろう。ずっと、トイレの個室に隠れていれば怪しまれないだろう。
そして、マロンが用を足している時を狙って、得意のナイフで殺すつもりなのであろう。
意外にバカではなく、慎重な人物なのかもしれない。私は気づかれないようにマイケルの後をつけた。マイケルは男子トイレのドアを開けた。私は大事にしたくないので、トイレで捕まえる事にした。近くにあった清掃中の札を男子トイレのドアノブにかけた。
これで、誰も後に入ってこないだろう。私も男子トイレに入り、辺りを見回すとマイケルしかいないようだった。ちょうど都合がいいチャンスだ。男子トイレは広く、スペースも十分あった。男性用の小便器が6つ、個室が3つあった。マイケルは小便器の方で用を足すつもりみたいだ。
よく見ると、ズボンのベルトをガチャガチャと外しているようだった。
あれ、コイツは単に用を足しに来ただけのバカなのかもしれない。
私は背後から静かに回り、マイケルの後ろに立った。背広から拳銃を出すと、拳銃のグリップでマイケルの後頭部を砕いた。
マイケルは声を漏らす。
「がふっ……」
マイケルはガクッと膝から崩れていき、小便器に顔を突っ込みながら気絶した。
よし、これで1人は捕まえたぞ。あとは10代の少女を捕まえるだけだ。
その時、1発の拳銃の音が鳴り響いた。方角からすると、ホールの方で鳴ったに違いない。もう一人の賞金稼だ。クソッ、マイケルは囮か? 私としたことが油断した。
私は素早くトイレのドアを開けてホールに戻ろうとする。だが、ドアは開かない状態になっていた。ガチャガチャと、ドアノブを前後に動かそうと試みる。
しかし、ガタガタと音がするだけで、ドアは開こうとしなかった。
「クソッ、ドアの前に何かが置いてあるのか?」
ヤバイ、マロンが危ない。私はドアを開ける為に、精一杯の力で蹴り続けた。




