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第67章 闇市

ロイド保険会社は天王洲アイルにあった。天王洲アイルとは、東京品川区にある埋立地である。1988年から、オフィス施設やショッピングモールが作られ、海辺が近いのでオシャレスポットしても人気だ。


ロイド保険会社の複合施設ビルもここにあった。いわゆる、都庁のようなツインタワービルのような造りで、25階建てのビルが2棟建っていた。天王洲アイル駅を背にして、左側がロイドビルA棟、右側がロイドビルB棟である。まったく、同じ作りであり、双子のようなビルである。


それぞれの10F部分からは、橋のような道でつながっており、お互いのビルに移動できるようになっている。これは災害時に役に立つように設計されたのだ。例えば、A棟が火事になって場合に、10Fの道から、B棟へ避難ができるのだ。10階まではショッピングモールがあり、それ以上の階数はオフィスになっている。


更に屋上は観光スポットになっており、一般の人でも入れる空中庭園があるのだ。世界中の花が集められて、ちょっとした植物園だ。別名でバビロンの空中庭園と呼ばれている。


ワン姉妹はそのロイドビルA棟の20階にいた。そのフロアはシステム部の部屋で、大量のパソコンがあり、少しオシャレなオブジェもある。よくあるIT系のオフィスのような印象である。


20階のワンフロアの全てが、ロイド保険のオフィスであり、地方の土地台帳などをココで管理しているのだ。本来なら、日本人の公務員がやる仕事である。しかし、この時代の日本人の公務員は人手不足であり、東京など土地単価が高い場所を管理するだけで精一杯だった。


そこで、日本政府は地方の土地単価が低い地域は、民間の会社にデータ管理を委託させたのだ。その中の1つがロイド保険である。しかし、個人情報が流出されるニュースが多いように、委託された会社の管理はずさんな所が多かった。つまり、地方の土地管理については適当なのだ。


第二次世界大戦後に東京空襲により、多くの土地台帳が燃えた。つまり、今まで所有していた土地の証明を示すモノがなくなった事を意味している。それを利用して、悪い外国人が勝手に住み着いて、土地台帳を書き換えてしまう事件が多発した。上野駅や新橋駅の周辺では、実際にそのようなトラブルがあったのだ。いわゆる闇市などである。


ワン姉妹はそれらを参考にして、ハッキングいう形の東京空襲をしようとしていたのだ。つまり、地方の空き家を外国人の名義にして、自分達の土地にしてしまう恐ろしい計画だった。



その頃、ロイドビルA棟の20階では……。

ワン・シャンリンはオフィスの机に座っていた。その横で、妹であるワン・マーメイがノートパソコンとにらめっこしていた。


ワン・シャンリンは黒髪のロングヘア―の妖艶な美人である。ファッションはチャイナ服の上に、バーバリーのコート羽織っている。それとは対照的に、ワン・マーメイは金髪の童顔である。オーバーサイズのパーカーを着こなし、ロックファッションをしている。


ワン姉妹の一族は元々貿易商であった。祖父は王梓豪ワン・ズーハオという男だった。日本では、王月という名前で政治家をしていた。外国人参政権を目的として、野党の大物としてブイブイいわしていた。もちろん、中国政府にゴマを擦り、自分の貿易会社を大きくするためだ。


しかし、裏では犯罪の限りを尽くし、ついに逮捕されてしまう。そして、中国政府は梓豪ワン・ズーハオとの関係をなかった事にする為に、病死にみせかけて暗殺した。ワン姉妹は祖父の無念を晴らす為に、日本政府と中国政府に復讐を考えていた。日本にはテロ活動で人々の混乱、中国にはメタンハイドレートの一人占めで、経済によるテロ活動という復讐である。


ワン・シャンリンはパソコンで作業している妹を見る。

「マーメイ、あとどのくらいかかる?」

「おそらく、データの引き抜きだけで、おそらく1時間はかかる。そのデータを引き抜いてしまえば、あとで名簿の名前を変えればいいだけだ。それはココを離脱してからやればいい。しかし、委託しているとはいえ、日本のセキュリティシステムはレベルが高いな」

天才のワン・マーメイでも、そう簡単にハッキング出来るわけではなかった。個人情報が関わっているので、1日で出来るモノではないのだ。


すると、ワン・シャンリンは妹に喝を入れた。

「とにかく急げ、明日には社員も出社するからな。天王洲の抗争が終わったって事は、警察が他の事件に手がまわせるって事だ。それに、二階堂のお台場カジノ占拠事件も、そろそろ警察が突入する頃だ。つまり、今日がリミットだ」

「ああ、分かっているよ。だけど、1時間だけ我慢してくれ。何しろ、データ量が多すぎる」

そう言って、ワン・マーメイは溜息をついた。


その時、ワン・シャンリンはスマホの着信に気が付く。相手は東雲シマであった。

「シマか、どうした?」

「網代組は全滅や。それと、ウチの裏切りもバレたで。あともう一つ、そっちに賞金稼ぎが向かっている。赤毛の外国人と黒髪の日本人や」

「そうか、始末する」


東雲シマは大声をあげる。

「待てや、話は最後まで聞きいや。黒髪の日本人はウチの妹や。殺すのは許さへんで」

「シマ、それは約束できない。銃を向けられた以上はこっちも殺すのが流儀だ。ただ、無用な戦いはこちらも避けたい。ハッキング終わり次第、我々も離脱する予定だ。その時は例の場所で落ち合おう。名義のデータもそこで渡すつもりだ。そちらは逃亡資金の金を用意しておけ」

「ああ、分かったで」

東雲シマは冬子とワン姉妹が戦わない事を祈った。やはり、カワイイ妹であるのだ。

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