第66章 最終決戦へ
東雲シマは病室の腰掛けていたベッドから立ち上がった。
「ハコネ、海外に逃げるで……。けど、その前にワン姉妹がハッキングしたデータを奪うんや。それを手土産にして、他の中国人と手を組んだ方がええな。ワン姉妹は中国政府に嫌われているみたいやしな。まあ、あれだけ日本を滅茶苦茶にしたら、さすがに中国でも死刑やろ?」
「じゃあ、あのワン姉妹を殺して、共産党への手土産にしたらええわ。北海道の水に引き続き、日本の天然ガスが欲しいはずや」
「とりあえず、ワン姉妹のいる天王洲アイルで待ち伏せするで」
ハコネは床で寝ている冬子を見下ろす。
「はあぁー、冬子ちゃんとお別れやな。いやだなー、いやだなー」
「そら、ウチだって嫌や。ハコネがイジメにあった時、冬子ちゃんだけが味方してくれた恩は忘れへん。言うならば、ハコネの命の恩人や。この子だけは幸せになってもらいたいもんや」
東雲姉妹の言葉通り、冬子を思いやる気持ちは本当であった。そう、2人とも冬子の事が好きだった。
なので、東雲姉妹は冬子が風邪をひかないように毛布をかけた。これが最後の思いやりであった。
それから、2人は病院を出て行った。外で待っていた赤坂組の組員には、本家で網代組からの襲撃にあったので、すぐに応援に行って欲しいと嘘を伝えた。すると、赤坂組は車で新宿へ向かった。それから、ハコネは冬子に後を追われないように、ハコスカのタイヤを日本刀で突いてパンクさせたのだった。
私は病室で目が覚めると、午後3時を過ぎていた。ふと周りを見ると、シマ姉さんとハコネがいなかった。外に出るとヴェルファイアに乗った赤坂組の組員もいなかった。あれ? みんな何処かへ移動したのか? 他にもハコスカが何故かパンクをしていた。くそ、誰がこんな事をしたんだ。
私はスマホで本家に電話を入れた。すると、サナエちゃんが対応してくれた。まず、本家でカチコミがあったらしい。なんとか、網代組を壊滅させたらしい。網代オジさんも頭を撃たれて死んだみたいだ。
そして、今回の事件はシマ姉さんが黒幕だったみたいだ。病院で撃たれたのも嘘であり、それを理由に抗争に参加しないのが目的だったみたいだ。
どうやら、ワン姉妹と組んで天王洲会を乗っ取ろうとしたらしい。たまたま、ナツが持ってきた資料により、東雲不動産とワン姉妹の一族が経営する貿易会社とのやり取りが分かったらしい。メタンハイドレートと言われる天然ガスの資源を手に入れるのが目的だったみたいだ。
私にはとても信じられなかったが、話を聞いている内にふと思い当たる事があった。最初に欣也伯父さんが襲われた病院だが、あらかじめに網代組が待ち伏せをしていた。
あの病院に欣也伯父さんが行くことを知っていたのは、私と欣也伯父さん、サナエちゃんとノブオ爺ちゃん、シマ姉さんとハコネだけだ。あのタイミングで情報が洩れるって事は、誰かが網代組に情報を提供していた事になる。
そう考えると、今回の分裂のきっかけはシマ姉さんだった事に気が付く。シマ姉さんの性格は、金にならない争いはしないビジネスマンタイプである。だが、網代オジさんに対して怒りを買う事ばかりをしていた。今思えば、天王洲会を分裂するように誘導していたようにも感じる。
3年前の抗争で、シマ姉さんの父親が刑務所に入らなければ、東雲家は幸せだった可能性が高い。私も父親が刑務所で死んでいるのは知っていた。しかし、シマ姉さんの母親が自殺していた事までは知らなかった。私には病死だと聞かされていたのだ。
いわゆる逆恨みかもしれないが、実の両親が死ぬ事は辛いはずだ。天王洲会を恨んでいても不思議ではない。所詮、血は繋がっていないのだから……。
それから、ノブオ爺ちゃんが死んだことも聞いた。くそ、真一も殺されて、ノブオ爺ちゃんまで……。更にシマ姉さんもハコネも裏切り者だったなんて、家族がバラバラになっていく不安にかられた。
それを察してサナエちゃんは励ましてくれた。
「残念ながら、シマお嬢様とハコネお嬢様が、天王洲会の敵であるのは間違いありません。でも、あの2人は冬子お嬢様だけは本当に大切に思っています。出来るだけ、抗争に巻きこまないようにしていたので……。その点は心当たりがあるんじゃないですか?」
そういえば、最初にナツと海外に逃げるように、一生懸命に説得していたな。市原に撃たれたフリをした時も、病院にとどまるように言っていた。あれも、病院でのドンパチに巻き込まれないようにする為だ。八王子の病院に来させたのも、本家での殺し合いを避けるためだ。これらの理由から、私が大切にされていたのは事実だろう。
それから、サナエちゃんは会話を続ける。
「あと、ワン姉妹は生きているみたいです。内偵をしていた組員からの情報によると、天王洲アイルにあるロイド保険のビルで見かけたみたいです。おそらく、焼死した死体が偽物かと思われます」
ワン姉妹が生きている? やっぱり、簡単に死ぬタマじゃないと思っていた。あの網代オジさんが場所を特定できるとは思えない。もしかしたら、ワン姉妹が網代組に情報提供をしていた可能性もある。
何にしても、父さんの仇を討つチャンスでもある。それに、日本のメタンハイドレートを守らないと、日本の資源がどんどん海外に流出してしまう。父さんの仇討ちも目的だが、日本を守るのも天王洲家の役目だ。
とりえあえず、本家に一度戻ろう。そこから、ワン姉妹との最終決戦に臨めばいい。私はスマホを切って、電車で新宿へ向かった。
私が本家に着くと、鉄門は吹き飛んでいた。更に警察や消防署もかけつけていた。ちょっとした、刑事ドラマの現場って感じだった。私は関係者だと言って、中に入ると玄関がなくなっていた。おそらく、爆弾によるものだと分かった。
そして、若い衆が応接室に案内した。途中の居間の部屋などは血まみれになっていた。応接室では欣也伯父さんとサナエちゃんがいた。欣也伯父さんはこれまでの経緯を説明した。
シマ姉さんが抗争分裂を主導した事。そして、メタンハイドレートを使って、ワン姉妹と裏でビジネスをしようとしていた事。そして、そのワン姉妹が生きている事だ。なら、やる事は一つだけだ。私は父親の仇を討って、全てを終わらす事を伝えた。
サナエちゃんは心配そうな顔をする。
「私達は警察の事情聴取で動けませんので、ナツ様と一緒にワン姉妹を倒してください。場所は天王洲アイルのロイド保険にいるはずです。まだ、そこにいるはずです」
「うん、分かった」
欣也伯父さんはため息をつく。
「冬子、無理はするなよ。お前が死んだら、兄貴に顔向けできん。ワン姉妹を殺すのはいつでもできる」
そうは言うが、整形でもされて逃亡されたら、二度と捕まえる事は出来ないだろう。やっぱり、今日中にでも決着をつけるしかない。
私は覚悟を決めた。
「欣也伯父さん、大丈夫だよ。無茶をしないって約束するよ。あとさ、シマ姉さんとハコネはどうする?」
「おそらく、あいつらも海外に逃げるだろう。日本にいたら、ヤクザのネットワークでいずれは見つかる。だが、海外に逃げられたら特定するのは難しい。俺が日本にいる間に殺すよ」
組を分裂させた原因だから、ケジメをとらないと面子が潰れてしまうのだろう。確かに裏切り者だけど、私は死んでほしくない。
だから、私は欣也オジさんに頭を下げた。
「なんとか、あの2人を許してあげない? シマ姉さんの父親も母親も天王洲家に翻弄されたわけだし……。ねえ、伯父さん?」
しかし、欣也伯父さんは首を縦に振った。
「すまない、渡世の仁義だ。冬子には手を汚させない。俺があの2人を殺す」
「そっか、分かった」
裏切り者をほっておいたら、組織が成り立たなくなる。それでも、私はシマ姉さんとハコネが無事に海外に逃げてくれることを祈った。どうしても、幼い頃の思い出が頭をよぎり、憎めないのだ。もう、頭を切り替えよう。まず、ワン姉妹を倒しに行こう。
私はサナエちゃんにハコスカが使えない状態を説明した。すると、近くのバイク屋にサナエちゃんの愛車のバイクがあるので、それを使ってくれと言われた。都内はカジノ占拠事件で、車の渋滞が続いているから、バイクの方が動きやすいと助言してくれた。
私はサナエちゃんにお礼を言った。
「ありがとう。じゃあ、行ってくる。あと、このコルトローマン借りていい?」
ずっと、預かっているサナエちゃんの愛銃の事である。
サナエちゃんはニッコリとほほ笑む。
「ええ、ピンチの時は使ってください」
「ありがと」
「冬子お嬢様、どうかご武運を……」
その時に応接室に刑事が入ってきた。
「天王洲欣也、赤坂サナエ。もう、事情聴取するからいいか? これ以上は時間を延ばせん。形だけでも、取り調べしないと世間がうるさいからな」
どうやら、警察署に連れていかれるみたいだ。ここは2人に任せよう。
私とナツは玄関に向かった。すると、刑事が道をふさいだが、賞金稼ぎだと分かるとすぐに道が開いた。
ナツはテクテクと歩き出す。
「なあ、ハルクを倒したから、賞金額の8000万ギルは出るのか? あの銀髪姉ちゃんが裏切ったんだろ?」
「ああ、だから出ないよ」
そう言うと、ナツは両手で頭を押さえて、くやしそうに叫ぶ。
「ガッデーム。タダ働きかよ。俺の借金はどうすれば……」
「いや、逆に借金を取り立てる人がいなくなったって事だ」
「まあ、それならいいや。それでも、お金は欲しいぜ」
「なら、ワン姉妹を倒して金持ちになろうぜ」
私はナツをなんとか説得して、ワン姉妹のいるロイド保険にカチコミに行くことにした。おそらく、世間では網代オジさんがワン姉妹を殺した事になっている。
だが、網代オジさんは賞金稼ぎではないので、金は支払われていないはずだ。なので、賞金はもらえるはずだ。よし、まずはバイクをもらいに行こう。
私達はバイク屋に着くと、サナエちゃんの愛車であるバイクを手に入れた。車種はホンダのCBX400Fであった。もう、120年前も昔のバイクであるが、未だに人気があり、タンクは真っ赤であり綺麗だった。
私はバイクにまたがって、素早くエンジンをかけた。ハコスカに似たような、昭和時代の爆音でテンションをあげる。私は愛銃のM629に弾を装填して、それをホルスターに入れた。そして、サナエちゃんから借りたコルトウッズマンを、後ろの腰ベルトに差し込んだ。
私はナツに声をかける。
「ナツ、後ろに乗れ」
「おいおい、こんなポンコツで大丈夫かよ? 途中でドーカンとか勘弁よ」
「バカ、日本の旧車を舐めるなよ」
私はドヤ顔でそう言うと、ナツは心配そうな顔で渋々と乗った。私は少しずつアクセルを吹かしてく。エンジがの機嫌がいいみたいだ。よしよし、イイ子だ。
そして、私はバイクをゆっくりと発進させた。
「じゃあ、ナツ行くぜ。喋っていると、舌を噛むからな」
「おう」
こうして、私達は天王洲アイルのロイド保険へ向かった。




