第63章 天王洲欣也+赤坂サナエ VS 網代ケン
その頃、網代ケンは屋敷の中にいた。玄関を土足で上がると、天王洲会の組員達と出会ってしまう。
そして、3人の黒スーツの組員達が、網代の前に立ちふさがった。
「網代が来たぞぉー」
「この裏切りものがぁー」
「俺が、俺が殺ってやるぜ」
そう言って、組員の1人は拳銃を網代に向けた。だが、網代は素早く間合いを詰めて、斜めから斬撃を食らわした。
右肩から腹まで切られた男は悲鳴をあげた。
「うぎゃぁー」
そして、体から大量の血が流れ、そのまま地面に倒れて死亡した。
残りの2人は拳銃で応戦するが、弾が防弾スーツによって弾かれてしまった。
「くっ、当たっているのに……」
「ぼっ、防弾スーツだ。頭を狙え、頭だ……」
「わっ、分かっている」
2人のパニック状態のスキを網代は見逃さなかった。網代は男の1人に近づき、素早く右腕を切り落とした。拳銃が握られていた右腕が地面に落ちる。
そして、右腕を切り落とされた男は悲鳴をあげた。
「ぐぎゃぁー」
片腕になった男は悲鳴をあげながら、隣にいる仲間に助けを求めた。
「助けてぇー、助けてくれー」
「バカ、邪魔だ。離れろ」
2人はお互いにつかみ合いの状態になった。
そして、網代はそのスキに2人に近づいた。それから、男2人の首を同時に切り落としたのであった。3人の組員はあっという間に死体になったのだった。
それから、網代は廊下を進み、いつもの襖を開いた。開いた先は幹部会を開催する居間であった。畳張りの部屋であり、30畳近くはある広さだ。近くの障子を開ければ、すぐ近くに庭が見える。そして、そこには天王洲欣也と赤坂サナエがいたのであった。
網代はようやく獲物を見つけて、アドレナリンがうずいた。
「欣也、見つけたぜ」
欣也は網代の顔を見てニヤリと笑った。
「ああ、待っていたぜ」
そして、欣也は右手に拳銃を持っていた。それは自分の兄が使っていたものであった。S&W社のM19コンバットマグナムである。
欣也と網代の距離は5メートル程であるが、お互いは動かずに睨み合った。2人ともこれまで死んだ仲間を思い出していたのだ。その沈黙を破ったのがサナエだった。サナエは欣也を守るように、網代の前を立ち塞いだ。
その両手にはサバイバルナイフが握られていた。
「ここは私がやります。もし、チャンスがあれば、私と一緒に網代を撃ち抜いてください」
「バカ、子分を殺す親が何処にいる?」
「しかし、網代は強敵ですし、私自身も大怪我をしています。まず、一番大切なのは会長の命です。会長が死んだら、天王洲会はバラバラになりますよ。お言葉ですが、子分は親を生かす為に存在しています」
その会話を聞いていた網代はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「親と子? それは違うだろ? お前ら、前から男と女の関係だろ? ハハハ、まあそんな事どうでもいいか……。だって、2人ともココで死ぬからな。じゃあ、そろそろ始めようか……」
そして、網代は欣也を狙って、日本刀で切りかかってきた。
サナエはそれを阻止しようと、素早く横にまわって、ナイフで網代を切りつけた。網代はサナエのナイフをかわす為に横によけた。
網代は大声を出した。
「邪魔すんじゃねえ、このアマ」
「いいえ、邪魔をさせてもらいます」
網代は欣也より先に、サナエを殺した方がいいと判断した。
そして、このスキに欣也は拳銃を網代に向けた。そして、引き金を引いたのであった。1発の弾丸が、網代の胸に当たった。しかし、網代は無傷だった。
欣也は思わず舌打ちをする。
「チッ、防弾スーツか……」
「そうだ、NASA特製の防弾スーツだ。テメーはサナエの後だ……」
そう言うと、網代はサナエの方向に体を向けた。
まず、網代は日本刀で右からサナエに切りかかった
「まずはテメーからだ、赤坂サナエぇー」
サナエはなんとか避けたが、動きがいつもより鈍かった。そして、出来るだけナイフで受けないようしていた。理由はハルクに殴られたダメージが残っているのだ。
背骨にヒビが入っており、足の運びがワンテンポ遅くなっていた。更にナイフで日本刀を受け止めると、背骨に負担がかかり、激痛になってしまう状態であった。なので、普段よりもハンデを背負っていた。
網代は日本刀をサナエに向けた。
「おら、おらぁー。ちゃんとしねえと、首が落ちちまうぞ」
そう言って、日本刀をヒュンヒュンと振り回した。
網代はサナエの動きが鈍い事に気が付いた。そのスキを見て、網代は大きく、日本を空高く振り上げた。ここで、ケリをつける事にしたのだ。そして、サナエに向かって、全力で日本刀を振り下ろした。
サナエはサバイバルナイフをクロスして、日本刀をなんとか受け止めた。キィーンという金属音が居間に響き渡った。網代とサナエはお互いの目を見つめ合った。日本刀とサバイバルナイフで、お互いを押し合うが、網代のパワーが上回り、サナエは徐々に押されていく。
サナエは背骨の激痛で表情が強張る。
「くっ……」
「どうした? もう、終わりか?」
押されるサナエの頬から汗が流れ落ち、それが地面に落ちた瞬間の事だった。
パン、パンと2発の銃声が辺りに響き渡った。すると、網代の両足の靴から血がドバドバと流れ出した。
そして、欣也のM19の銃口から煙が出ていた。そう、欣也が網代の靴を撃ち抜いたのである。靴までは防弾ではなかったのだ。
そして、網代の崩れるように、両膝を畳に落とした。網代は日本刀を杖替わりにして、なんとか上半身を支えて、倒れないようにしていた。
網代は欣也の顔を見上げた。
「うぐっ、はあはあ……。きっ、欣也、良い所を邪魔しやがって……」
欣也はひざまずく網代を見下ろした。
「殺し合いに卑怯もクソったれもないぜ。俺達はヤクザだ」
「ふっ、確かにな……。テメーもいい目つきになってきたな。だが、それでいい」
「俺の兄貴がアンタに助けてもらった恩をかえしておくぜ。月並みなセリフだが、死ぬ前の何か言い残した事があるか? 出来るだけ叶えてやるつもりだ」
「欣也、俺の子分を頼む。戻りたい奴は天王洲会で面倒見てくれ。無理か?」
欣也はため息をついた。裏切った人間を許せば、渡世の世界では舐められてしまうのだ。だが、実の兄貴の命を助けてもらった恩も無視できない。
だから、条件を出した。
「幹部以外の若い衆は元に戻すように努力をしよう、約束する」
「すまねえ」
網代は欣也が若い頃を思い出していた。学ラン姿で彼女と歌舞伎町のラブホテルをウロウロしていたガキの頃の欣也である。そして、あのハナタレが自分を超える日が来て、本当に嬉しく思ったのだ。
だから、最後に言葉を残した。
「欣也、お前が天王洲会の2代目だ。早く、とどめを……」
「ああ……」
そう呟くと、欣也は網代の隻眼を撃ち抜いた。
網代は畳の上に脳みそをぶちまけて、48歳の生涯を閉じたのであった。ヤクザありながら、畳の上で死ねたのだ。こうして、天王洲会の分裂抗争は幕を閉じたのだ。




