第62章 ナツ VS 加古川ハルク(最終ラウンド)
俺は屋根の上を歩いている時に、玄関の方角で爆発音が聞こえた。そういえば、あの爺さんが手榴弾を爆発させたのかもしれない。運がよければ、網代と相打ちってところだろう。
だけど、死んだような予感がした。しかし、俺の仕事はハルクを倒す事で、今は感傷にひたる暇はない。
俺は屋根の上から、中庭を見下ろした。以前にハコネと殺し合いをした中庭であった。池が大きくて、沢山の鯉が泳いでいる。他にも、石造りの建築物も沢山ある。まるで、忠臣蔵に出て来る屋敷のようだ。
よく見ると、ハルクと子分の2人は庭をキョロキョロしていた。コイツらは、天王洲欣也が何処にいるか分かってないのだ。まあ、これだけ広い屋敷だと迷うのは仕方ない。さてと、まずはザコから行くか。
俺は屋根からジャンプをして、子分の一人の頭の上に、グリコのポーズをして着地をした。すると、その子分は後ろへゆっくりと倒れて、ドボンと池の中に落ちた。
すぐに、もう一人の子分がドスを抜いて、俺に切りかかってきた。俺は素早く後ろに避け、後ろ回し蹴りを放った。男は勢いよく吹っ飛ばされ、石造りの燈籠に頭をぶつけて動かなくなった。さてと、これでハルクとタイマンだぜ。
俺はハルクに向けて右手の指を3本立てた。
「なあ、日本には仏の顔も3度までって言葉があるらしい。つまり、テメーと戦うのはこれで最後だ」
2メートルを超えているハルクは上から、こちらを見下ろしてきて笑った。
「ああ、ワシもや。さっさと、ケリをつけようや」
「ああ、殺す気で来い」
「おう、そうさせてもらうで……」
そう言って、ハルクは白いスーツ姿の上着を脱いだ。
そして、黒シャツに黒ネクタイの姿になり、更に袖をまくった。拳と腕は人間離れした大きさで、筋肉の血管がビクビク蠢いている。まさに、バケモノ男だ。
俺はハルクに向かって走り出した。
「じゃあ、行くぜ」
俺はまずはジャンプして、右前回しケリを食らわせた。もちろん、顔面狙いだ。
しかし、ハルクは左手首で、こちらの右キックを防いだ。やっぱり、冷蔵庫のように固いぜ。鉄のブレスレットでも仕込んでいるのか? いや、何もつけていない。
純粋に筋肉が異常に発達しており、俺の鉄板入りのサイボーグブーツでも、まったくダメージを受けないみたいだ。遺伝子の突然変異とかそういう、動物的なモノが原因なのだろう。
これまで、こんな人間に会った事はない。俺は今まで戦った相手の中で一番強いと思った。まあ、純粋なパワー限定の話だけどな。
俺はそのまま、着地と同時にジャンプして、左足でサマーソルトキックを放った。もちろん、顎を狙ったのだが、ハルクは両手で顔を覆ってガードした。くそ、前回の戦いで、顎を警戒してやがる。
さてと、次はどうするか? とりあえず、距離を取って、相手の動きを見よう。前回に見えなかった弱点が分かるかもしれない。俺はバク宙をして、池を飛び越えて距離を保った。すると、ハルクはこちらを見て笑った。
俺はその笑みにムカッとした。
「おい、何笑ってんだ?」
「ふっ、ナツと同じや。強い者に勝つって事や。お前も勝つことがアイデンティティなんやろ?」
「くそ、その凶悪なツラで、何がアイデンティだ。オシャレな横文字使いやがって……」
「ワシは自分より、強い奴が好きなだけや。ほな、次はワシから行くで、ナツ」
そして、ハルクはボクシングのようなポーズをとって、瞬時にこちらの懐に入ってきた。足が長いので、池を一歩でまたいできやがったのだ。コイツ、でかいのに速い。
そして、パンチをラッシュしてきた。俺はなんとか避けるが足場が悪い。庭は大きな石が多く、躓いたら終わりだ。それにしても、パンチの風切り音が凄い。
だが、俺は自慢の反射神経で、なんとか避けまくる。それと、コイツに掴まってもおしまいだ。俺が勝てるとしたら、顎か鼻か脳天を狙うしかない。しかし、この身長差でそこをガードされると、やっかいで仕方ない。
しばらくすると、ハルクがタックルしてきた。俺は横に転がってよけたので、ハルクは石造りの燈籠にタックルする羽目になった。バカな奴、自爆しやがった。そう思われたが、逆に燈籠がバラバラになっていた。こいつ、ブルドーザーかよ(笑)。
くそ、俺が女だから、ココが限界ってやつなのか? まあ、男に生まれたら違ったかもしれない。そしたら、冬子と……。いや、今はこの戦いに集中するべきだぜ。だけど、どうする?
こうやって、逃げているだけじゃ、いずれはパンチを喰らって終わりだ。女でも男に勝っている部分があるはずだ。そう、女にあって、男にないものは? いや、その逆は?
俺の中で何かがひらめいたのだった。そうか、そうか、この手があった。俺は素早くスライディングをして、再びハルクの懐に入った。そしてその場に屈んで、サマーソルトキックで顎を狙うポーズをとった。
一瞬、ハルクと目が合った。
そして、俺は大声をあげた。
「ハルク、顎を砕いていやるぜぇー」
すると、ハルクは両腕で顔を覆った。
実は顎を狙うと宣言したのは嘘である。俺の本当の狙いはハルクの金的だ。まず、ハルクが顔を両腕覆っているので、奴の視界はゼロに近い。更に下半身のガードはしていない。
俺はその場を静かに立ち上がり、右足の踵が背中に当たる位に後ろに振り上げた。そして、その右足を振り子のように、後ろから前に空高く蹴り上げた。すると、ブーツの先端がハルクの金的を捉えた。これで、どうだ?
ハルクが嗚咽を漏らす。
「ほごっ……」
そのまま青ざめた顔で、口から泡を吹き出して、両膝を地面につける状態になる。
そして、ゆっくりと前に倒れていく。それから、ハルクは額が地面について、まるで土下座している状態になった。やっぱり、男のアソコって蹴られると痛いんだな。女に生まれて良かったぜ。ここで、ケリをつけるか……。
俺はジャンプをして、ハルクの背中を踏み台にして、屋根の上までジャンプをした。そして、屋根の上から庭を見下ろすと、ハルクが土下座をしているように見えた。まるで、自分が戦国時代の殿様のようになった気がした。
俺は思わず大声を出した。
「加古川ハルク、貴殿は打ち首じゃぁー」
そして、屋根の上から、ハルク目がけて大ジャンプをした。俺は水泳の飛び込み選手のように、前方に何回転もクルクルしながら、かかと落としを繰り出した。
屋根からの高さのジャンプと、体を回転した勢いをあわせて、かかと落としの威力は強まった。そして、俺のサイボーグブーツの踵が、ハルクの脳天を砕いたのであった。土下座状態のハルクの顔面は地面にめり込んだ。
しかし、ガバッと立ち上がった。うぅう、コイツ、まだ動けるのかよ? そう思ったのだが、仁王たちしたまま動かない。俺はハルクに近づくと、どうやら立ったまま気絶をしているようだった。
とりあえず、呼吸はしているので死んではないみたいだ。生きていれば、賞金額は8000万ギルのはずだ。あとは警察に引き渡すとするか……。なんとか、これで借金から解放されたぜ。
俺はハルクに勝った喜びで、その場でサンボを踊った。それほど、この相手に勝てて嬉しかったのだ。だけど、二度とコイツは戦いたくはない。俺は地面に座り込むと、ドッと疲れが出たのであった。




