ところで本当は今何時? 四刻
「kiャうー!」
狼は悲鳴を上げて何処かへ逃げさる それを俺はただ茫然と見ていた いや見ていたのかさえ怪しい
俺はただ銃を撃った体制のまま茫然としていた
ようやく我に返ったのは深月の腹部、狼に噛まれた痕からドクドクと血が流れているのを見てからだった
「み、深月・・・・!!」
慌てて深月に駆け寄る
「ゆ・・・・ゆう、さん・・・・・」
弱々しく返事をする深月
「おい深月! しっかりしろ!!」
深月を抱きかかえる 深月の体は紅く染まり、それでも肌は白っぽくなっている
血はかなりの量が出続けている 一度大量に血が流れるところをあの事故で見たことがあるがここまでひどくは無かった
「ごめ・・・・ゆ、き・・・・」
「今は喋るな!!」
何とかしなければ・・・・・!
そう思うもどうしようも出来ない 医師免許を持っているわけでもなく、近くに病院がある訳でも無く、手元にハイポーション的な物が在る訳でも無い
・・・・・・いや、出来る! 前と違い『時間移動』が出来るじゃねぇか!
「待ってろよ深月・・・・・・ 逆速!」
逆速は時間を逆走することが出来る どこまで時間が戻せるか試した事は無いが深月が傷を負ったのは数秒前だ これなら元に・・・・・
「あ、あれ・・・・・・・・?」
戻らなかった 何も変化が起らず、ただただ血が流れ出るだけだった
「う、嘘だろ・・・・ 逆速! 逆速っ!!」
何度も何度も戻そうとするも何も変わらない
「あ、いたいたユウキ 何か見つかっ・・・・ 深月!?」
「深月ちゃん!!」
ふと声がして顔を上げれば驚いた顔のレイと
「何で先に深月ちゃんが居るの!!」
どうやらロストがここの見回りをしようと言いだしたのはここに深月と来る予定だったらしいがそんなことはどうでもいい
「ごめ・・・・ね、ロス・・・・」
「しっかり! しっかり!!」
泣きそうになりながら深月を揺さぶるロスト
「・・・・・・・・何があった・・・・・・」
ロストは手を震わせて呟き、
「何があったユウキ!!!!!」
親の仇と、いや親友の仇の形相で俺を睨みつける
「そ、その・・・・・ 狼のシルエットを見つけて、俺に襲い掛かると思ったら急に別のところに向かって・・・・」
しどろもどろになりながらも俺は説明をする
「そしたら急に深月が現れて、驚いて、だから一瞬引き金を引くのが遅れて・・・・・・ だから、間に合わなくて・・・・・・」
「間に合わなくてじゃ無いよ!!!」
今にも殴り掛かって来そうなロストが殴らなかったのは俺の手元に深月がいるからだろう
「君は間に合わない事が二度と起こらないようにするためにシルエットバスターをやってたんだろ!!」
「で、でも・・・・・」
俺は言い訳するように言う
「俺の能力は『時間移動』だろ・・・・ だからまだ間に合うはずだろ・・・・ 時間を戻せば、ケガをする前に戻せば、まだ間に合う・・・ 間に合うはずなのに!!!」
「君は・・・・・っ!!!」
「やめ、て・・・・」
我慢できず俺を殴ろうとするロストを深月が止める」
「ユウキ、さん、わ・・・・悪くな、いの・・・・ 私が、 わ・・から・・・・・」
「深月ちゃん!!」
深月はロストに弱々しく微笑む
「やくそく、まもれば、よかったね・・・・」
そして今度は俺を見て、
「ユウ、さんも、ごめんね・・・ たいじ、がんば・・・・・ 」
最後まで言わず、パタリと崩れ落ちる深月
「おい、深月、深月!!!」
いくらゆすっても反応が無い
「深月、深月!!」
必死にゆする俺の肩にポンと手が置かれる 振り向けばレイが首を横に振っていた
もう諦めろ と
「・・・・・君の、せいだ・・・・・」
ロストが手を震わせて言う
「君のせいだ!! 君が油断するから! 前に言っただろ! 傲慢になるのも大概にしろって!!!」
ロストは自分の髪を思いっきり掴み頭を抱えるようにして言う
「だから君にこんな事させたく無かったんだ! いつかこうなるだろうって判ってたから!!」
「ご、ごめ・・・・」
「ごめんじゃ無いよ!!!」
「ダメだよ! 深月の前なんだよ!」
俺を殴ろうとしたロストをレイが抱きかかえて止める
「君は取り返しの付かない事はどうにもできないんだから!」
「・・・え?」
取り返しの付かない事は出来ない・・・・・・?
「君の能力は『時間移動』じゃ無いんだから!!」
「へ・・・・・・・?」
そ、それってどうゆう・・・・・・・
「・・・・・・ユウキ、シフト・グリニッジって、どうゆう意味になるか分かる?」
叫んで少し落ち着いたのか、声色を下げてロストは言う
「・・・・・・わから、ない」
そもそも疑問に思ってすら無かった シフトという言葉がら何となく移動と言う意味だと感じていたが・・・
「シフトってね、日本語でずれるって意味なんだ それからグリニッジ、これは多分グリニッジ標準時こ事なんだ」
「・・・・グリニッジ標準時って、あれだろ・・・? グリニッジ展望台の、世界の時間の基準点のやつだろ?」
別におかしくは無いだろう 俺の能力が時間移動なら時間にまつわる物があってもおかしくは・・
「うん、元標準時、だね」
「・・・・・・・あ?」
元・・・・・・、てどうゆう意味だ?
「グリニッジ標準時ってのは百年単位でズレる代物なんだ 展望台から分かるようにグリニッジ標準時は空を見て時間を決めているから けれど地球の自転の関係上どうしてもズレるちゃうんだ だから今ではセシウム原子の振動の時間で決める協定世界時が基準なんだ こっちの方が正確らしいから ・・・・つまりね、」
喋るにつれ段々怒りが収まったのか、ロストは悲しそうな顔で言った
「シフト・グリニッジを正しく日本語にすればズレにズレた時間、ユウキが時間移動って言ってた能力は、ただ単に時間軸に沿って位置がズレてただけなんだよ・・・・・・・」
「・・・・・・・ふざ、けるなよ・・・・・・」
思わず俺は腕に深月が居るのも忘れてロストの襟をつかむ
「何でそれを言わなかったんだよ!! 何で黙ってたんだ!!!」
「だって、だって! 君の悲しんでいる顔を見たく無かったんだもん!」
その言葉は本当だと言うように頑なに俺の顔を見ないロスト
「だから僕は君にシルエットの狩りなんてやらせたく無かったんだ! 絶対こうなるだろうって! どうせ能力が位置ズレだと教えても変わらなかったでしょ! 変わらず手が届くなら何だってもいいって言うだけだったでしょ!!」
「う・・・・・・」
そこは強く否定は出来ない 手が届かなかったと後悔するか、時間は戻せなかったと後悔するか、正しく少しのズレのような、大して誤差の無い事 ただそれだけの話しだ
「どうせ本の少しのズレなんだ それだったら意識させないであげた方が良かったでしょ?」
「・・・・・・・それでも、言って欲しかったな・・・・・・」
俺はロストから手を離す
「ていうかそれ後になればなるほど辛くなるやつだろ」
「先に言っても変わらないって くどいようだけど間に合わ無いって後悔するか、間に合わなかった物はどうしようも無いと後悔するか ただ違うのは前者は間に合うようにと神経質になるか、そんな事にはならないと浮かれるか、能力を手に入れる前の君か、手に入れた後の君か、少なくとも手に入れた後の君は生き生きしていたから僕にはそっちの方がいいと思ってたんだけど・・・・・・」
「・・・・・・・・そうだな」
確かに生き生き出来た 生まれて初めてあんなに生き生き出来ていたかも知れない もしも先にこのことを言われていたら時間は戻せないのだから絶対に失敗は許されないとトゲトゲしていただろう
「時間は戻らないんだ、もう、この話は辞めよう」
また俺は救えなかった、また目の前の少女を救えなかった この事実が変わることはもう出来ない
もう、時間切れだ
「なら、最後にこれだけ言わせて」
「・・・・・・・・・・・何だ?」
その言葉を聞いた途端、つい俺はロストを殴ってしまった 本気で殴ってしまった それくらいの事を、最後の最後にこいつは言いやがったのだった




