「鳥籠の叛王」 その3
「何がいけなかったのかな」
帰り道、いや行き道? いや帰り道か 元の世界への帰り道の道中、夕暮れを背景に仁の後ろへ付いて森を進む中、ロストはポツリと呟いた
「結局、僕の何処がいけなかったのかな」
何処か寂しそうに、それでいて清々しそうにロストは言う
あの後、戦いが終わった直後に元の世界に変えることになった きっと、心変わり、いやオレにたぶらかされる前に帰って欲しいという仁の思いか、 はたまた別れがつらくなる前に帰った方がいいという仁の気遣いか、
清々しそうなのに何処か寂しそうなのは少し名残惜しいのだろう異端郷が、そして、オレに会えなくなる事が
「強いて言えば、そうゆうところでは無いのですか?」
ロストの呟きに仁は振かえらずに答える
「わざわざ気にする必要のないところを気にしているところが一番いけないところですよ」
「そんなこと、言われてもね」
ロストは苦笑いを浮かべて言う
「そんなこと言われてもどうしようもないよ だって気になるんだもん、これからの事が」
これから、と言うのは帰った後の事だろうか 帰って、オレと話せなくなって、 これから生きれるのかどうかを、多分考えていたのだろう
「ま、でしょうねぇ 『周りの事なんて気にしない』と言っている時点で周りの事を気にしてるって言っているようなものですからね」
仁は肩を竦めながら言う
「でもま、大丈夫でしょう」
クル っと体全体で振り返り、笑みを浮かべて言う
「もう君は自分の事を、そして嘘を付くことを理解できたんですから きっと大丈夫ですよ」
「それが嘘で無い事を祈るよ」
「疑うなんて正直な事で」
そう言ってクスクスと笑う二人
本当にこの二人は仲が良いな
でも、もうこれで会う事はもう無いのだろう 二人の仲を見るのもこれで最後になるのだろう
「・・・あ、此処が良いですかね」
連れてこられたのは小さな、歩いて端から端まで歩いて行けそうなほど小さい池、いや水たまりった
「本当はもっと別の場所が良かったのですが、何分下手なところでやると何処に繋がるか分からないですので安定させるために準備する時間が要りますからね
でも此処なら、レイが倒れていた場所に近いところならほとんど準備も要らずに元の世界、現実世界にしっかり帰れるでしょう」
「・・・・しかし、オレの倒れていた場所の近くにこんなのがあったんだな」
オレは水たまりを覗き込んで言う
「もしかして、此処からオレたちこの世界に入って来たとか?」
「さぁ・・・・・ どうなんでしょう? ま、在り得なくは無いですよ 門や扉や鏡、それから水鏡と言いった物はよく異世界の扉として使われることが多々在りますからね 鏡の国のアリスとかは良い例では無いのですか?」
そう言われてふと一つ疑問に思った
「そういえば、何で鏡が異世界の扉になるんだ?」
「あー、何ででしょうね 鏡には昔から不思議な力が在るとされていますが 天照大御神が邇邇藝命に渡した三種の神器のなかに八咫鏡と言う物があり、それを「この鏡を私だと思って祀りなさい」と天照に言われた様に鏡は一種の信仰対象になったり、白雪姫の鏡に至ってはほぼ全知の力が備え付けられているといった様に、鏡には何か特別な力が在るとされていますから、まぁ、 うーん、何ででしょうね」
「長々と話しといて最終的には分からないなのか・・・・」
「分からない物は分かりません」
肩を竦めてキッパリと言う仁
うーむ、結局なんでなんだろうな
「・・・・・・僕は、何となく解るな」
ロストはそう言いながら水面を覗く 何故かロストにも吸血鬼属性が付いた為か水面にロストの姿が映らない 映っているのは森の木々、赤い空、焼けるような夕焼け、そして生き物はオレだけだった
「昔、良く思ったんだ 鏡の向こうへ、鏡を通れば別の世界へ行けるんじゃ無いかって まぁ、勿論
行けないんだけどね その時に行けない理由はこう思ってたんだ」
その行こうとしていた時を再現するかのように水面に手を伸ばすロスト
「向こうの世界にも僕が居て、その世界の僕が同じ行動をするからお互いにぶつかって別の世界へ行けるんじゃ無いかって 要するに・・・・・・」
ピチョン と、ロストが水たまりに手を付けると水面が小さく波打つ
「鏡に映らない今の僕なら異世界に行けるんじゃ無いかって思ってた訳さ」
当然異世界に行けるはずも無く、ロストがゆっくり手を引けば、ただ単に濡れている手がそこにあるだけだった
「ま、行けないよね」
「そりゃ行けないだろ」
思わず苦笑いになる 何せ、
「そりゃ、此処がもう既に異世界だかな もう既に異世界にいるんだからもう異世界に行く必要無いじゃん」
「・・・・・・確かに」
「ボクにとってはあなたたちの元の世界が異世界ですからある意味異世界に行く必要があると思うんですが」
「「・・・・・・確かに」」
そう言ったのち、みんなで笑う オレとロストと仁の三人で笑う
「さて・・・・・ そろそろ準備をしますか 準備に数分はかかりますので最後に二人でお話でもしといて下さい」
そう言って短剣を持ち水面を切り裂く仁 あ、切り裂くと言っても別に水に裂け目が出来ているとかでは無くただ単に水を切っているだけだ
「・・・・・・・ありがと、王さま」
ふと、ロストが仁を見たままそう言う
「別に何もしてないだろオレは」
「ふふ、そうだね」
「真正面に言うなよ・・・・・」
地味にほとんど目立ったことをしてなかったのを負い目に思っていたのに
「ま、王さまはそれで良かったんだよ」
と、ロストはこちらを見る ロストの紫色の瞳が目に映る
「何もせずともただそこにいるだけで良い 『城壁』のように、そこに建ってるだけでそれでいい これまでのように、そしてこれからのように」
「・・・・・・・そっか」
きっとこの体をロストに返したらオレは消えるんだろう 正確にはオレと言う人格が消えるのだろう
だがま、それで良いのかもな
ちゃんと、持ち主の者は持ち主に返さないとな
「・・・・・・・ところでさ、」
ふと、疑問に思ったのだが・・・・・・
「何でお前はロストって名前を付けたんだ?」
確かオレの名前、『レイ』はレイ、『rei』からとったらしいが、ロストと言う名は何から取ったのだろうか
「あぁ、それね ・・・・・実は言うとレイもロストもある物から取った名なんだ」
「ある物?」
「うん 王さまっていう意味も後付けなんだ それで、あるものってのは——————————」
と、偶然か、それとも狙っていたのか、仁の「準備できましたよー」と言う声のせいで中断されてしまった
「さ、準備が出来ましたので、とっとと始めちゃいましょうか」
「・・・・行こっか、王さま」
「そうだな、ロスト」
そう言って、オレとロストは水たまりの淵に立つ 仁が何か準備をしたらしいのだが、特に何か変わった様子はない
オレとロスト、二人して水たまりを覗き込んでいると、
「あ、一応手を繋いでくれますか? 何か下手をすると元の世界で体と魂が分離するという事故が起こりそうなので」
「王さま絶対に放しちゃいけないよ」
「お、おう」
真剣な顔でロストは言う
「じゃ、それから水たまりの真ん中を、ちょうど夕焼けが映ってますね そこを見てください」
「ん・・・・・・・」
水たまりに映る夕焼けを見る そして何か思う暇も無く、
「ほい」
トン、 と仁が背中を押して、
「えっ」 「あっ」
オレとロスト二人して水だまりに落とされ———————————
「「っ!! 仁、おいてめぇーーーーー!!!!!」」
バシャン!! と、大きな音が響いたのち、全ての感覚が無くなる
水の冷たさも無く、耳に聞こえる音も無く、目に映る色も無く・・・・・・・
あぁ・・・・・・・ でも
ただ、それでも、手の中にある小さなぬくもりの感覚は消えることは無かった———————————————
「いい加減出てきたらどうです?」
そう言うと、木の後ろから刹那が出てきた 気になって付いてきてしまったのだろう
因みにシザースは多分付いてくるなと言う命令を忠実に守って今頃不貞腐れながら留守番をしている事だろう あいつに感情は無いが、
「遂に、出ていっちゃったね・・・・・・」
寂しそうに水面を見ながら刹那は言う
いつの間にか日は暮れていて、水面には夕焼けに代わり満月が映る
「寂しいですか?」
「そりゃ、寂しいよ・・・・・・」
何処か泣きそうになりながら刹那は言う
「折角初めて仁に友達が出来たのに・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
泣きそうになりながら何言ってるんだ・・・・・・・・
友達居なかったの事実だけど 言っていい事と言っちゃ悪いことがこの世にはあるんだよ?
「それよりも、仁は大丈夫なの?」
「何がですか?」
「ロストが居なくなって寂しくないの?」
「んー・・・・・・・」
寂しいと言えば寂しい、だが、
「ま、大丈夫ですよ」
ボクは水たまりを背に歩き出す それに付いてくる刹那
まぁ、大丈夫だろう どうせ、
「どうせすぐ戻ってくるでしょうし」
「えっ?」
「・・・・・・? どうした? 別に驚く事じゃ無いだろ?」




