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小早川礼子編〈その二〉

 男「あいつです。」

元プロ「何だ、まだガキじゃないか。お前達、何やってるんだ。もういい、どけー」

そう言って、うずくまっていた男達を蹴飛ばして行った。

 元プロ「お前か、うちのもんをやったのは。」

項志「そうだ。」

元プロ「いい度胸だな。その浮浪者どもから聞いているんだろう、俺の事。」

項志「ああ、聞いている。」

元プロ「なのに、ここにいるってことは、お前、バカか。」

項志「元プロボクサーが、グローブもつけずに相手を殴ればどうなるか、わかるよなぁー」

元プロ「そんなの関係ねぇ。相手がどうなろうと、俺の知ったこっちゃねぇ。」

項志「どうやら、手加減の必要はなさそうだな。」

元プロ「なにぃ、このガキ、ぶっ殺してやる。」

そう言って飛びかかって行ったのだが、いっこうにパンチがあたらないのだ。

 項志「そんな動きじゃ、俺をとらえることはできんぞ。」

元プロ「くそー、ちょろちょろと。あたりさえすれば、お前など、一発であの世行きにしてやる。」

項志「そうか。では、止まっていてやる。」

元プロ「バカめが。これでお前も終わりだ。死にやがれ。」

そう言ってアッパーを繰り出してきた。

 しかし、次の瞬間である。“ぐしゃ”という音と共に男が倒れこんだ。

元プロ「ウギャー」

項志「どうした。あの世に送るんじゃなかったのか。」

元プロ「貴様、いったい何をした。」

項志「俺は気功をマスターしている。今お前の拳は、分厚い鋼鉄を殴ったのと同じ衝撃を受けたはずだ。」

元プロ「ク、クソー、一般の人間にこんなことをしていいのか。」

項志「お前の論理で行くと関係ないんじゃないのか。それに最後に教えておいてやる、アッパーはこう打つんだよ。」

そう言って、拳を下から上に突き上げた。すると地面が裂け、上部にあったコンクリートの高架橋が、

拳の風圧で一部はがれて男の横に落下した。

 男は失禁してしまった。

 項志「これが恐怖というものだ。お前が今まで弱い人々にやってきたことだ。どうだ、恐いか。」

元プロ「は、はい恐いです。す、すいませんでした。」

項志「もう、その拳は使えまい。お前もスポーツマンのはしくれなら、悪さは止めて、これからはまっとうに生きるんだな。」

元プロ「は、はい。」

 ホームレス「手下をやっつけた時とは別人のようだ。」

亜輝「奴の心には、修羅と慈悲の二つの心が共存している。それは修行の時、自分を追い落とす非情の心と、その苦痛の中から相手を思いやる慈悲の心が生まれたからだ。」

ホームレス「そうだったのか。あの人も死をかいま見たのか。」

亜輝「そうです。そして奴は死のはざまから生を見出し、あなた方を守れるまでの存在になった。」

ホームレス「神か。俺達はホームレスだが、そんな人を待っていたのかもしれない。そのお嬢さんといい、あなた方といい、強い信念が感じられる。人間、死ぬ気になれば、何でもできるということですね。」

項志「あんた達がなぜそうなったのかは知らん、しかしな、あんた達はまだ死んじゃいねぇ、生きている。生きている以上、この世界で存在する理由がある。その理由が何か、それは、これからあんた達で見つければいい。」

ホームレス「まだ若いのに、そんな人達に教えられるとは。」

亜輝「あなた方のこれからの人生、どうか力強く生きてください。」

ホームレス「あなた方に会えて良かった。このまま生きる気力もなく、惰性の人生になるところだった。もう一度がんばってみるよ。そして再び会うことがあれば、胸を張って会えるようにするよ!!」

礼子「それでこそ男よ、そうでなければ助けたかいがないわ。」

項志「助けられたのは、お前も同じだろう、礼子。」

礼子「ああ、そうか。」

 一同、笑いだした。


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