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無能と蔑まれ処刑される悪役貴族に転生したので、原作最強の隠しスキルを全部回収して無双する  作者: 秋葉 詩


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第7話 兄上に見つかった

五つの魔弾が、一斉に飛んできた。


「っ!」


 内界循環。


 視界。


 聴覚。


 脚。


 そして――《空蝉》。


 一発目。


 半歩、右。


 二発目。


 身体を沈める。


 三発目。


 肩を引く。


 四発目と五発目が、ほぼ同時に左右から迫る。


 見える。


 いや。


 見えてから考えているんじゃない。


 身体が先に答えを選んでいた。


 左足を軸にして、身体を斜めへ滑らせる。


 ヒュッ。


 二つの魔弾が、胸と背中すれすれを通り過ぎた。


「……避けた」


 自分でも驚いた。


 さっきまでなら、一つくらいは当たっていたはずだ。


 父上は何も言わない。


 ただ。


 その目が明らかに変わっていた。


「もう一度」


「まだやるんですか?」


「今のが偶然でないことを確認する」


 ですよね。


 父上が再び魔弾を取る。


 今度は六つ。


「増えてません?」


「五つ避けた」


「だから六つ?」


「問題があるか」


「あります」


「では五つにするか」


「お願いします」


 珍しく聞いてくれた。


 少し安心した、そのとき。


「速度は上げる」


「結局厳しい!」


 魔弾が光る。


 来る。


 俺は内界循環を巡らせた。


「始めるぞ」


 ヒュッ!


 一発。


 二発。


 三発。


 避ける。


 四発目。


 さっきより速い。


 それでも。


 身体を少し捻るだけで、魔弾が横を通り過ぎる。


 五発目。


 最後。


 真正面。


 俺は頭だけを傾けた。


 頬の横を風が抜ける。


「……」


 父上が黙った。


「どうです?」


「もう一度」


「褒める気ないですよね?」


「もう一度だ」


 ないらしい。


「アルベルト様」


 少し離れて見ていたアンナが声を掛ける。


「何だ」


「そろそろ朝食のお時間が」


 助かった。


 俺はすぐに内界循環を止める。


「今日はここまでですか?」


「仕方あるまい」


「やった」


「午後もやる」


「……ですよね」


 俺が肩を落とした、そのときだった。


「父上?」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


 訓練場の入口に、一人の少年が立っていた。


 赤みがかった黒髪。


 整った顔。


 父上と同じ鋭い蒼眼。


「ユリウス様」


 アンナが頭を下げる。


 兄。


 ユリウス・ヴァルハルト。


 その本人だった。


「何をしているんです?」


 ユリウスは父上を見る。


 次に俺を見る。


 そして。


 地面に散らばった大量の魔弾を見る。


 嫌な予感がする。


「レオンの訓練だ」


「レオンの?」


「ああ」


 ユリウスの眉が動いた。


「父上が直接?」


「そうだ」


 俺を見る。


 分かりやすい。


 ものすごく疑っている。


「……何があった?」


「俺に聞く?」


「お前以外に誰がいる」


「いろいろ」


「具体的に」


「それは……」


 父上を見る。


 助けてくれる気配はない。


 むしろ説明してみろと言いたげだ。


「新しい訓練方法を見つけた」


「一週間前にも似たようなことを言っていたな」


「覚えてたんだ」


「弟の言葉くらい覚えている」


 思わず黙った。


 そういうことを普通に言うのか、この兄。


 ユリウスは俺の前まで来る。


「それで?」


「それで?」


「何が変わった」


「結構いろいろ」


「見せろ」


「今から朝食なんだけど」


「すぐ終わる」


 この家族。


 人の朝食を何だと思っているんだ。


「ユリウス」


 父上が口を挟む。


「今日はやめておけ」


 お。


 珍しく止めてくれた。


「なぜです?」


「レオンはまだ制御が不十分だ」


 そっちか。


 俺を休ませたいわけじゃなかった。


 ユリウスの目が細くなる。


「制御?」


「ああ」


「何の?」


 父上が少し黙った。


 それから。


「身体強化だ」


 ユリウスの表情が止まった。


「……誰が?」


「レオンが」


「レオンは魔力を使えません」


「私もそう思っていた」


「思っていた?」


 ユリウスの視線が俺へ飛んでくる。


「どういうことだ」


「俺も説明しづらいんだけど」


「レオンの魔力は今も測定できん」


 父上が淡々と続ける。


「だが、身体内部で何らかの力を運用している」


「魔力ではない可能性は?」


「ある」


 父上が即答する。


「現時点では断定できん」


 そこはやっぱり慎重だ。


「ただし」


 父上が地面に落ちている魔弾を見る。


「通常の十二歳では不可能な身体能力を発揮している」


「……」


 ユリウスは黙って俺を見る。


 これは。


 信じてないな。


「見せろ」


「兄上」


「一度でいい」


 今度は父上を見る。


「危険なら、俺が相手をします」


「お前が?」


「はい」


 父上が考える。


 やめてくれ。


 嫌な流れだ。


「木人よりは、壊れにくいでしょう」


「本人の前で言う?」


「事実だ」


「兄上、意外と自信あるな」


「意外とは何だ」


 しまった。


 少しムッとしたらしい。


 でも。


 ゲームのユリウスは普通に強い。


 十六歳の時点ですでに王立学園上位。


 火属性魔法の天才。


 序盤ではかなり頼れる味方キャラクターだった。


 原作レオンが何度挑んでも勝てなかった相手でもある。


「父上」


「……一度だけだ」


 許可出た。


「ただし、ユリウス」


「はい」


「魔法は禁止」


「なぜです?」


「レオンはまだ対魔法戦をしたことがない」


「では剣で?」


「ああ」


 ユリウスが俺を見る。


「問題ないか?」


 問題。


 あると言えばある。


 俺は剣術をほとんど知らない。


 身体能力だけなら大幅に上がった。


 《空蝉》もある。


 でも。


 相手は兄。


 四歳上。


 剣術経験も圧倒的に向こうが上だ。


 普通に考えれば勝てない。


 でも。


「やります」


 少しだけ。


 試してみたくなった。


 原作のレオンが一度も越えられなかった相手。


 今の俺が。


 どこまで通用するのか。


     ◇


「用意」


 父上の声。


 俺とユリウスは、訓練場の中央で向かい合った。


 手には木剣。


 ユリウスは自然に構えている。


 隙がない。


 一方。


 俺は。


「構えが変だ」


「知ってる」


「剣術をやめたのは何年前だったか」


「二年前くらい?」


「一年と八か月だ」


「細かいな」


「お前が木剣を投げつけて帰った日だからな」


「……申し訳ない」


「なぜ今謝る」


 旧レオン。


 何してるんだ。


「始め」


 父上の声。


 瞬間。


 ユリウスが動いた。


「速っ」


 木剣が横から来る。


 避ける。


 《空蝉》。


 身体を半歩引くだけで剣先が通過する。


 ユリウスの眉が動いた。


 二撃目。


 上。


 首を傾ける。


 三撃目。


 下。


 脚を引く。


「……」


 兄上の表情が変わった。


 今度は俺にも分かる。


 明らかに速度が上がった。


「ちょっ」


 振り下ろし。


 避ける。


 突き。


 身体を捻る。


 横薙ぎ。


 しゃがむ。


 当たらない。


 すごい。


《空蝉》、やっぱり強い。


 いや。


 相性がいい。


 視界を強化。


 耳を強化。


 脚へ内界循環。


 そこへ、無駄のない回避動作。


 攻撃はできなくても。


 避けるだけなら――


「レオン」


「はい?」


「余所見をするな」


「っ!」


 木剣が急に止まった。


 フェイント。


 避けようとした俺の動きに合わせて、剣筋が変わる。


 まずい。


 避けられない。


 反射的に。


 木剣を持った右腕へ魔力を流した。


 ガンッ!


「っ!」


 受けた。


 腕が痺れる。


 でも。


 耐えられた。


 ユリウスの目が見開かれる。


「今のを?」


「俺も驚いてる」


「……そうか」


 嫌な顔。


 ゲームで見たことがある。


 ユリウスが本気になったときの顔だ。


「兄上」


「なんだ」


「一度だけって話でしたよね?」


「ああ」


「これ、もう十分じゃない?」


「まだ一分も経っていない」


「時間じゃなくて!」


 剣が来る。


 速い。


 避ける。


 受ける。


 また避ける。


 俺は攻撃できない。


 いや。


 できるかもしれない。


 でも怖い。


 木人を吹き飛ばした力だ。


 兄へ当てるわけにはいかない。


 その迷いを。


 ユリウスは見逃さなかった。


「攻撃してこないのか」


「まだ力加減に自信がなくて」


「なら、そのままでは勝てないぞ」


「勝つつもりだったの?」


「模擬戦だろう」


 正論。


 でも。


 どうする?


 殴る?


 危ない。


 木剣?


 もっと危ないかもしれない。


 なら。


 最低限。


 ほんの少し。


 右腕へ。


 今まで石に亀裂を入れていた量よりも、さらに少なく。


 木剣へ直接魔力を流すわけじゃない。


 握る腕だけを強化する。


 ユリウスの剣が来る。


 受ける。


 ガンッ!


 今度は押し負けない。


「……!」


 兄の体勢が少し崩れる。


 今。


 反射的に一歩踏み込んだ。


 木剣を振る。


 当てるつもりはない。


 肩の手前で止める。


 そう思った。


「――っ」


 ユリウスが身体を引く。


 俺の木剣が、その目の前を通り過ぎた。


 ブォンッ!


 風が鳴った。


「…………」


「…………」


 まずい。


「止め」


 父上の声が飛んだ。


 俺はすぐ内界循環を切る。


 ユリウスも木剣を下げた。


 静かだ。


 父上。


 アンナ。


 そして兄上。


 全員が俺を見ている。


「……俺、当ててないですよね?」


「当たっていない」


 ユリウスが答える。


「よかった」


「だが」


 兄上が自分の頬へ触れる。


 一筋。


 髪が数本落ちた。


「剣風だけで切れた」


「え」


 嘘だろ。


「木剣ですよね?」


「見れば分かる」


 兄上は手にした木剣を見る。


 俺も自分のものを見る。


 普通の木剣。


 刃なんてない。


「……ごめん」


「なぜ謝る」


「危なかったから」


 ユリウスは黙る。


 怒っている?


 そう思ったが。


 違った。


「レオン」


「何?」


「もう一度やろう」


「嫌だよ!」


 即答した。


「なぜだ」


「今ので十分だろ!」


「今の動きをもう一度見たい」


「俺は見たくない!」


「ユリウス」


 父上の声。


「今日は終わりだ」


「ですが」


「終わりだ」


「……はい」


 兄上が渋々木剣を下ろす。


 助かった。


 俺も木剣を戻そうとする。


「レオン」


「はい?」


「明日から俺も訓練に参加する」


「……え?」


 兄上は真顔だった。


「父上だけでは実戦形式の相手が足りないだろう」


「いや、十分です」


「遠慮するな」


「遠慮じゃないです」


「毎朝、朝食前だ」


「話聞いてる?」


「聞いている」


 全然聞いてない。


 父上を見る。


「父上」


「悪くない」


「悪いですよ!」


「ユリウスは剣術にも慣れている。お前の訓練相手には適任だ」


 味方がいない。


「アンナ」


「はい」


「何か言って」


「怪我にはお気をつけくださいませ」


「そこじゃない」


 駄目だ。


 完全に決まったらしい。


 俺はため息をつく。


 ただ。


 少しだけ。


 不思議でもあった。


 ゲームのレオンは。


 兄へ追いつこうとして。


 何度も負けて。


 嫉妬して。


 やがてユリウスそのものを嫌うようになった。


 兄弟で訓練するような関係じゃなかった。


 それが今。


「明日は剣術の基礎からだ」


「基礎?」


「ああ」


 ユリウスが当然のように言う。


「身体が速くても、お前の剣は素人以下だ」


「そこまで言う?」


「事実だ」


 でも。


「教えてくれるの?」


「嫌なのか」


「いや」


 意外だっただけだ。


「お願いします」


 頭を下げる。


「……」


 兄上が黙った。


 顔を上げる。


「どうした?」


「いや」


 少しだけ変な顔をしている。


「お前が私に頭を下げるとは思わなかった」


「そんなに?」


「ああ」


 旧レオン。


 どれだけ面倒だったんだ。


「じゃあ明日から」


「ああ」


 ユリウスが頷いた。


「ただし、途中で投げ出すなよ」


 その言葉。


 一週間前にも聞いた。


 あのときは。


 俺がまた失敗すると決めつけているように聞こえた。


 でも今は。


 少しだけ違って聞こえる。


「投げ出さない」


「そうか」


 兄上はそれ以上何も言わなかった。


 だけど。


 俺を見る目は。


 朝食の席で見たものとは、明らかに違っていた。


 父上。


 兄上。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 原作とは違う関係になっている。


 悪くない。


 そう思ったところで。


「レオン様」


「ん?」


 アンナが俺の頬を指差した。


「そろそろ本当に朝食のお時間です」


「あ」


 そうだった。


「行こう」


「その前に」


「何?」


「汗を拭いてくださいませ」


「……はい」


 アンナから布を受け取る。


 横では兄上がまだ俺を見ている。


 たぶん。


 明日から。


 訓練はもっと厳しくなる。


 父上に。


 兄上。


 二人がかり。


「処刑される前に、訓練で死なないよな……?」


「何か言ったか?」


 兄上が聞いてくる。


「何も」


 俺は急いで首を振った。


 けれど。


 悪い気はしなかった。


 原作では決して並んで立つことのなかった兄と。


 明日から。


 俺は同じ訓練場で剣を振ることになる。


 また一つ。


 原作にはなかった未来が始まろうとしていた。

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