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無能と蔑まれ処刑される悪役貴族に転生したので、原作最強の隠しスキルを全部回収して無双する  作者: 秋葉 詩


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8/8

第8話 次の隠しアイテムは、森の中

兄上が訓練に加わってから、三週間が経った。


「遅い」


「これでも速くなったんだけど!」


 木剣が横から飛んでくる。


 《空蝉》。


 半歩下がる。


 避ける。


 すぐに踏み込む。


 右腕へ内界循環。


 出力は低く。


 木剣を振る。


 兄上が受ける。


 ガンッ!


「っ」


 木剣同士がぶつかる。


 押し切らない。


 すぐに魔力を落とす。


 そのまま身体を捻って距離を取る。


「……今のは悪くない」


「本当に?」


「ああ」


 思わず動きを止めそうになった。


「兄上が褒めた」


「集中を切らすな」


「そこは喜ばせてくれても――」


 突き。


「危なっ!」


 首を傾けて避ける。


「訓練中だ」


「知ってるよ!」


 最近分かったことがある。


 兄上は父上より口数が多い。


 そして。


 父上より容赦がない。


 いや。


 正確には違う。


 父上は俺が壊れないぎりぎりを見ている。


 兄上は、


『これくらいなら避けるだろう』


 という信頼なのか何なのか分からない基準で普通に打ち込んでくる。


「次、行くぞ」


「ちょっと待って」


「待たない」


「父上!」


 訓練場の端を見る。


 父上は腕を組んだまま、こちらを見ている。


「続けろ」


「味方がいない!」


 アンナは。


「レオン様、頑張ってくださいませ」


「応援だけ!?」


 駄目だ。


 本当に誰も止めてくれない。


 とはいえ。


 成果は出ていた。


 三週間前。


 兄上の剣を避けるだけで精一杯だった。


 今は。


 少しだけなら反撃できる。


 もちろん、まともな剣術ではまだ圧倒的に兄上が上だ。


 フェイント。


 間合い。


 足運び。


 剣筋。


 身体能力だけで誤魔化せない部分はいくらでもある。


 だからこそ。


 面白かった。


 ゲームならレベルを上げれば数字で強くなる。


 でも現実では。


 昨日できなかったことが。


 今日は少しできる。


 その積み重ねがある。


「レオン」


「はい?」


「終わりだ」


 父上の声。


 兄上が木剣を下ろす。


「今日は早いですね」


「十分だ」


 俺も内界循環を止める。


 途端に。


 身体が少し重くなる。


 ただ。


 以前ほどではない。


 三週間走り込みを続けたせいか、強化していない状態でも身体が軽くなってきた。


 父上の言った通り。


 内界循環だけじゃない。


 土台になる身体そのものも、少しずつ変わっている。


「レオン」


「はい」


「午後は空けておけ」


「また訓練ですか?」


「違う」


「珍しい」


「お前は私を何だと思っている」


「訓練をさせる人」


 兄上が横で吹き出した。


「ユリウス」


「申し訳ありません」


 全然申し訳なさそうじゃない。


「午後、北の森へ行く」


 俺の動きが止まった。


「北の森?」


「ああ」


 聞き間違いじゃない。


「何をしに?」


「魔物の間引きだ」


 父上は淡々と言う。


「領都近くまで小型魔物が出るようになった。騎士団が奥を調べているが、その手前くらいならお前の訓練にちょうどいい」


「俺も?」


「そのために言っている」


 北の森。


 その言葉が頭の中で引っかかった。


 知っている。


 当然だ。


『レジェンド・オブ・アルカディア』にも存在する場所だから。


 ヴァルハルト領北部。


 通称、グラナ森林。


 序盤では大した場所じゃない。


 出てくるのは。


 角兎。


 森狼。


 小型ゴブリン。


 せいぜいその程度。


 ゲーム開始直後のレベル上げに使われる地域だ。


 でも。


「……まさか」


 俺は小さく呟いた。


「どうした?」


「いえ」


 頭の中で。


 一つの場所が浮かぶ。


 北の森。


 南西。


 川沿い。


 倒れた巨木。


 その裏。


 ゲームでは。


 ほとんど誰も調べない場所に。


「レオン?」


 兄上が怪訝そうに見る。


「なんでもない」


 危ない。


 顔に出ていたか。


 そこには。


 一つ。


 隠しアイテムがある。


     ◇


 昼食後。


 俺たちは馬車で屋敷を出た。


 父上。


 兄上。


 俺。


 それから護衛として騎士が四人。


 アンナは留守番だ。


『絶対に無茶をなさらないでくださいませ』


 出発前に三回くらい言われた。


 信用がない。


 まあ。


 木人と壁を壊した実績があるから仕方ない。


 窓の外を見る。


 広い街道。


 畑。


 遠くに見える領都。


 その先。


 森。


 転生してから。


 まともに屋敷の外へ出るのは初めてだった。


「……すごいな」


 思わず口から漏れた。


「何がだ?」


 向かいに座る兄上が聞く。


「いや」


 ゲームでは何度も見た。


 ヴァルハルト領。


 でも。


 画面越しとは全然違う。


 風に揺れる畑。


 道を歩く人。


 荷馬車。


 遠くの煙。


 全部。


 ちゃんとここで人が生きている。


「外が珍しいか?」


「少し」


「以前は領都へ出ても、すぐ帰りたがっていただろう」


「そうだったっけ」


「人に見られるのが嫌だと言っていた」


 記憶を探る。


 あった。


 領民に、


『魔法の使えない公爵令息』


 と見られることが嫌だった。


 誰も直接は言わない。


 でも。


 視線が怖かった。


 哀れまれるのも。


 比べられるのも。


 全部。


「今は?」


 兄上が聞く。


「別に」


「そうか」


 窓の外を見る。


 今なら。


 魔力ゼロと思われても。


 前ほど気にならない。


 俺自身が。


 そうじゃないと知っているから。


 自分でも単純だと思う。


「レオン」


 父上が口を開いた。


「森に入ったら、勝手に動くな」


「はい」


「魔物を見つけても、最初は手を出すな」


「はい」


「ユリウスから離れるな」


「はい」


「返事だけは良いな」


「ちゃんと守りますよ」


 たぶん。


 父上の目が細くなる。


「今、何か余計なことを考えなかったか」


「考えてません」


「本当か?」


「本当です」


 鋭いな。


 でも。


 困った。


 隠しアイテムを取るには。


 少しだけ。


 予定の道から外れる必要がある。


     ◇


 森へ入って。


 最初に思ったことは。


「暗いな」


 だった。


 木々が高い。


 枝葉が空を覆い、昼なのに薄暗い。


 地面には湿った落ち葉。


 遠くから鳥の声。


 そして。


「止まれ」


 父上が手を上げた。


 全員が止まる。


「前方」


 兄上が剣へ手を掛ける。


 俺も見る。


 何も。


 いや。


 耳。


 内界循環。


 聴覚へ少しだけ回す。


 ガサ。


 右前。


「右です」


 父上が俺を見る。


 直後。


 茂みから何かが飛び出した。


「ギィッ!」


「うわ」


 角の生えた兎。


 角兎。


 ゲームで見たままだ。


 ただし。


 実物は。


「結構怖いな」


「油断するな」


 兄上が前へ出る。


 角兎が突進。


 速い。


 兄上は半歩だけ避ける。


 剣を一閃。


 終わった。


「……一撃」


「この程度ならな」


 格好いい。


 ゲームでは当たり前に倒していた雑魚なのに。


 実際に見ると違う。


「レオン」


「はい」


「次はお前だ」


「え」


「訓練に来たんだろう」


 分かってるけど。


 いざ言われると。


「殺すんですよね」


 父上が俺を見る。


「ああ」


「……」


 少し。


 胃の辺りが重くなった。


 ゲームではボタンを押すだけ。


 何千匹倒したか分からない。


 でも。


 ここでは。


 生きている。


 息をしている。


 血も出る。


「無理なら今日は見るだけでもいい」


 兄上が言った。


「……いや」


 首を振る。


「やる」


 いつかは必要になる。


 処刑を避ける。


 強くなる。


 そのために。


 戦わずに済むとは思っていない。


 数分後。


 また。


 草むらが揺れた。


「来るぞ」


 父上の声。


 角兎。


 一匹。


 俺へ気づく。


 低く身体を沈めた。


「レオン」


「はい」


「まず避けろ」


「分かりました」


 来る。


 角兎が地面を蹴った。


 速い。


 でも。


 魔弾より遅い。


《空蝉》。


 半歩。


 避ける。


 角が横を通り過ぎる。


 振り返る。


 角兎も向きを変える。


「攻撃しろ」


 兄上の声。


 木剣。


 いや。


 今日は本物の短剣を渡されている。


 怖い。


 でも。


 握る。


 右腕へ内界循環。


 少しだけ。


 角兎が来る。


 避ける。


 身体が横へ動く。


 すれ違いざま。


 短剣を振った。


「っ!」


 感触。


 軽い。


 あまりにも。


 角兎が地面へ転がった。


 動かない。


「……」


 俺はその場で止まる。


 血。


 少しだけ。


 ゲームとは。


 全然違う。


「レオン」


 父上の声。


「はい」


「怪我は」


「ないです」


「気分は?」


「……ちょっと変です」


「そうか」


 父上はそれ以上言わなかった。


 兄上も。


 何も笑わない。


 何も茶化さない。


「最初はそんなものだ」


 兄上が言った。


「兄上も?」


「ああ」


 少し意外だった。


「怖かった?」


「当たり前だ」


「そうなんだ」


「私を何だと思っている」


「天才」


「それとこれは別だ」


 そういうものか。


 少しだけ。


 楽になった。


「進むぞ」


 父上が言う。


 俺は一度だけ。


 倒した角兎を見る。


「……うん」


 それから。


 前へ進んだ。


     ◇


 森に入って一時間ほど。


 俺は三匹の角兎と。


 一匹の森狼を倒した。


 最初よりは慣れた。


 でも。


 気持ちいいとは思わない。


 たぶん。


 それでいい。


「今日はここまでだ」


 父上が言う。


「戻るぞ」


 まずい。


「もう?」


「十分だ」


 俺は周囲を見る。


 現在地。


 川の音。


 森の形。


 ゲームと完全に同じではない。


 でも。


 たぶん近い。


「父上」


「なんだ」


「あっちに川がありますよね」


「ああ」


「少し見てきても?」


「なぜだ」


 困った。


 言い訳。


「喉が渇いた?」


「水は持っている」


「ですよね」


 駄目だ。


「何かあるのか?」


 兄上が聞く。


「いや」


「では戻るぞ」


「……」


 ここまで来たのに。


 次に森へ来られるのがいつか分からない。


 隠しアイテム。


 ゲーム序盤では。


 かなり使える。


 しかも。


 今の俺と相性が良い。


「父上」


「なんだ」


「少しだけ、寄りたい場所があります」


 父上が止まった。


「場所?」


「はい」


「なぜ知っている」


「……」


 しまった。


 そりゃそうなる。


 十二歳。


 外出嫌い。


 森へ来た経験もほとんどない。


 そんな俺が。


 森の中に寄りたい場所がある。


 どう考えても不自然だ。


「昔、本で読んだ気がして」


「何の本だ」


「……忘れました」


「レオン」


 声が低い。


「はい」


「嘘が下手だな」


「最近自覚しました」


 兄上がため息をつく。


「何を探している」


「探してるとまでは言ってないけど」


「顔に書いてある」


 そんなに?


「危険なものか」


 父上。


 どうする。


 隠す?


 でも。


 ここで一人で抜け出す方が危険だ。


 それに。


 石碑の件で。


 もう父上には、


『こいつは何か知っている』


 と思われている。


「古い祠です」


 俺は答えた。


「祠?」


「たぶん、この近くにある」


「たぶん?」


「……あると思います」


「何がある」


「それは」


 言葉を選ぶ。


「見てみないと分かりません」


 完全な嘘ではない。


 ゲームと同じものがある保証はないから。


 父上は俺をじっと見る。


「方角は」


「川沿いを南西へ」


「どれくらいだ」


「十分くらい」


 父上は騎士の一人を見る。


「この先に何かあるか」


「古い祭祀跡ならございます」


 騎士が答えた。


 心臓が跳ねる。


「領内地図にも記載されております。ただ、数十年前から使われておらず、現在はほぼ廃墟かと」


 ある。


 本当に。


「レオン」


「はい」


「なぜ知っている」


「……」


 またそれか。


「本?」


「疑問形にするな」


 兄上が笑いを堪えている。


「後で聞く」


 父上が歩き出した。


「案内しろ」


「行っていいんですか?」


「一人で行かれるよりマシだ」


 完全に行動を読まれている。


「ありがとうございます」


「礼は着いてからにしろ」


「はい」


 俺は歩き出す。


 川の音。


 南西。


 倒れた巨木。


 ゲームの記憶を頼りに進む。


 そして。


 十分ほど後。


「あった」


 木々の向こう。


 苔に覆われた石造りの小さな祠。


 崩れた柱。


 半分落ちた屋根。


 ゲームで見たものより。


 ずっと古い。


 でも。


 間違いない。


「本当にあったな」


 兄上が呟く。


 父上は。


 俺ではなく。


 祠を見ていた。


「レオン」


「はい」


「ここで何を探す」


 俺は祠の奥を見る。


 正面の祭壇。


 その下。


 ゲームなら。


 隠された床板を調べる。


 そして。


 その中に。


 序盤では異常な性能を持つ装備が眠っている。


 俺はゆっくり息を吐いた。


「……腕輪です」


「腕輪?」


「たぶん」


 兄上が眉を寄せる。


「また、たぶんか」


「今回はかなり自信ある」


 祭壇へ近づく。


 膝をつく。


 苔を払う。


 床へ手を伸ばす。


 ある。


 わずかな隙間。


「ここだ」


 指を掛ける。


 持ち上げる。


 ゴゴッ。


 石板がずれた。


 暗い空間。


 その中に。


 何かがあった。


 銀色。


 細い。


 古びているのに。


 ほとんど錆びていない。


「……あった」


 俺は手を伸ばす。


 ゲーム序盤。


 ほとんどのプレイヤーが存在すら知らなかった隠し装備。


 正式名称。


 ――《封魔の腕輪》。


 そして。


 こいつには。


 ゲームの説明文には書かれていない。


 もう一つの効果がある。

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