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無能と蔑まれ処刑される悪役貴族に転生したので、原作最強の隠しスキルを全部回収して無双する  作者: 秋葉 詩


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第6話 父上の訓練が隠し条件だった

父上との訓練が始まって、一週間が経った。


「もう一度」


「はい」


 走る。


 止まる。


 振り返る。


 また走る。


「遅い」


「同じ速さで走れって言ったの、父上ですよね?」


「同じ速さで、もっと速く走れ」


「矛盾してません?」


「していない」


 している気がする。


 だが、一週間前なら途中で転びそうになっていた速度でも、今は普通に止まれるようになった。


 内界循環。


 最初は身体全体へ流すだけで精一杯だった魔力も、かなり細かく扱えるようになっている。


 脚へ三。


 身体全体へ一。


 止まる直前だけ脚を一まで落とす。


 正確な数字が見えるわけじゃない。


 あくまで俺の感覚だ。


 それでも、自分なりの基準ができ始めていた。


「次」


 父上が小石を投げてくる。


 受け取る。


「割るな」


「はい」


 右腕だけに魔力を流す。


 握る。


 ミシ。


 手を開く。


 細い亀裂が一本。


「どうです?」


「前よりはマシだ」


「褒めると死ぬ病気なんですか?」


「次」


「はい」


 駄目らしい。


 ちなみに。


 魔術基礎の講義にも、毎日きちんと出ている。


 火球一つ出せない俺が参加して何になるのかと思っていたが、これが意外と役に立った。


 魔力回路。


 術式。


 出力調整。


 属性変換。


 魔法を撃てなくても、魔力を扱うための理論そのものは内界循環にも応用できる。


 父上が言った、


『お前自身が術式の代わりをしろ』


 という意味も、少しずつ分かってきた。


 それに。


 以前のレオンが何度も途中で投げ出した講義へ毎日出ているせいか。


 屋敷の人間から向けられる目も、ほんの少しだけ変わった。


 アンナはもう、


『本当に行かれるのですか?』


 とは聞いてこない。


 ミリアも朝食の席で俺を見るたびに身構えることはなくなった。


 父上は。


「何をぼんやりしている」


「今、少し良いことを考えてました」


「訓練中に考えるな」


 変わらない。


「今日はここまでだ」


「え?」


 思わず空を見る。


 まだ昼前だ。


「珍しいですね」


「不満か?」


「いや。午後まで走らされると思ってたので」


「今日は別のことをする」


 嫌な予感がした。


「別のこと?」


「ああ」


 父上が訓練場の端へ歩いていく。


 そこには昨日まではなかった箱が置かれていた。


 蓋を開ける。


 中には。


「……石?」


 親指ほどの大きさの丸い石が、大量に入っていた。


 ただの石じゃない。


 表面に、小さな術式が刻まれている。


「訓練用の魔弾だ」


「それで何を?」


「避けろ」


「はい?」


 父上が一つ摘まむ。


「魔力を流せば、一定の速度で対象へ飛ぶ」


「それを?」


「避けろ」


「当たったら?」


「痛い」


「でしょうね」


「骨は折れん」


「基準そこですか?」


 父上は答えない。


 魔弾に光が灯る。


「ちょっと待っ――」


「始めるぞ」


 ヒュッ!


「うわっ!」


 顔面へ飛んできた石を、首を傾けて避ける。


「危ない!」


「避けただろう」


「避けなかったら顔ですよ!?」


「実戦で敵が顔を避けて撃ってくれると思うか?」


「十二歳の息子に言うことですかね!?」


 二発目。


「っ!」


 身体を捻る。


 三発目。


 しゃがむ。


 四発目。


 横へ跳ぶ。


「待って、待って!」


「喋る余裕があるな」


「ないです!」


 五発目。


 六発目。


 七発目。


 次々と飛んでくる。


 速い。


 でも。


「見える」


 視界へ魔力を回す。


 魔弾の軌道がはっきりする。


 脚へ回す。


 身体をずらす。


 避ける。


 また避ける。


「……」


 父上が無言になった。


 代わりに。


 飛んでくる魔弾が増えた。


「増やすな!」


「余裕があるようだからな」


「どこを見たらそうなるんですか!」


 二つ同時。


 右。


 左。


 身体を沈める。


 頭上を通り過ぎる。


 三つ。


「っ!」


 一つ目を避ける。


 二つ目。


 身体を捻る。


 三つ目――


「ぐっ」


 肩に当たった。


 痛い。


 本当に骨は折れなさそうだが、普通に痛い。


「今のは避けられた」


「無茶言わないでください」


「視界だけに頼るな」


「え?」


「お前は耳にも魔力を回せると言ったな」


「はい」


「なら使え」


 そういうことか。


 俺は呼吸を整える。


 視界。


 耳。


 脚。


 三か所へ同時に魔力を流す。


 父上が魔弾を放った。


 ヒュッ。


 音。


 見える。


 分かる。


 さっきより。


 明らかに楽だ。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 避ける。


「次」


 四つ。


「まだですか!?」


「まだだ」


 五つ。


「父上!」


「喋るな」


 ひどい。


 けれど。


 悪くない。


 視界だけじゃない。


 音。


 空気。


 足元。


 身体のあちこちへ流す魔力量を、その瞬間ごとに変える。


 右へ。


 左へ。


 沈む。


 跳ぶ。


 途中から。


 少しずつ。


 考えるより先に身体が動き始めた。


 そして。


 そのときだった。


「……ん?」


 妙な感覚。


 知っている。


 いや。


 まさか。


 父上の手にある箱を見る。


 訓練用魔弾。


 連続回避。


 攻撃禁止。


 一定数を超えるまで、一度も反撃しない。


「……これ」


 ゲームの記憶が繋がった。


『レジェンド・オブ・アルカディア』には、一風変わった隠しスキルがあった。


 取得条件が面倒すぎて、普通に遊んでいたらまず手に入らない。


 敵へ一度も攻撃せず。


 一定時間内に。


 百回以上の攻撃を回避する。


 そのうえ。


 回避系スキルを一つも習得していないこと。


「嘘だろ」


「何がだ」


「いや」


 条件。


 満たしてる。


 俺は攻撃していない。


 回避系スキルも持っていない。


 そして。


「何発目です?」


「数える必要があるのか?」


「あります!」


「八十三」


 数えてたのかよ!


「続けてください!」


 父上の眉が動いた。


「急にやる気になったな」


「いいから!」


「命令するな」


 八十四。


 避ける。


 八十五。


 身体を捻る。


 八十六。


 しゃがむ。


 そこから。


 九十。


 九十五。


 九十八。


 九十九。


 あと一発。


「次!」


「言われなくとも撃つ」


 百。


 魔弾が正面から飛んでくる。


 見える。


 俺は半歩だけ横へ動いた。


 魔弾が頬の横を通り過ぎる。


 そして。


 ――ぞわり。


「っ!」


 頭の奥へ。


 何かが流れ込んできた。


 この感覚。


 間違いない。


 石碑のときと同じだ。


 知識。


 感覚。


 身体の動かし方。


 攻撃が来る。


 その瞬間に。


 どこへ動けば最小の動きで避けられるか。


 考えるのではなく。


 身体に教え込むための技術。


【特殊条件を達成】


【隠し技能――《空蝉》を習得しました】


「……取れた」


「何がだ?」


 父上が怪訝そうに俺を見る。


 俺は思わず笑いそうになった。


 二つ目。


 まさか。


 こんな形で手に入るとは思わなかった。


 ゲームでは、わざわざ弱い敵を大量に集めて攻撃を避け続けるという面倒な作業が必要だった。


 俺も取得したのは一度だけ。


 性能は。


 確か――


「続けるぞ」


「え?」


 父上が魔弾を構える。


「待っ――」


 ヒュッ!


 魔弾が飛んできた。


 でも。


「……!」


 さっきとは違う。


 見てから避けたんじゃない。


 魔弾が放たれた瞬間。


 身体が。


 勝手に半歩だけ横へ動いた。


 最小限。


 本当に、それだけ。


 魔弾が俺の横を通り過ぎていく。


「……おお」


「何をしている」


「いや、今の俺、かなり格好よくなかったですか?」


「次だ」


 二発。


 飛んでくる。


 身体を捻る。


 一発目が胸元を通過。


 ほんの少し首を傾ける。


 二発目が頬の横を抜ける。


 さっきまでとは違う。


 無駄がない。


 大きく跳ぶ必要もない。


 必要な分だけ動く。


「なるほど」


 これが《空蝉》。


 ゲームでは回避補正が上がるだけの隠し技能。


 単体で見れば、そこまで派手じゃない。


 だが。


 内界循環と組み合わせたら?


 身体能力を上げ。


 視覚と聴覚を強化し。


 そのうえで最小限の動きで避ける。


「相性よすぎるだろ」


「レオン」


「はい?」


「今、何をした」


 父上の声が変わっていた。


「何って、避けました」


「先ほどまでと動きが違う」


 やっぱり気づくか。


「無駄が消えた」


「そうですか?」


「とぼけるな」


 鋭い。


 とはいえ。


 説明できるわけがない。


 百回避けたら隠し技能が手に入りました。


 なんて。


「コツを掴んだんだと思います」


「百回目で突然?」


「人間、きっかけってありますよね」


「……」


 父上の目が細くなる。


 信じていない。


 当然だ。


「もう一度だ」


「まだやるんですか?」


「今の動きを再現できるか確認する」


「休憩は?」


「終わったらだ」


「厳しい……」


 けれど。


 俺は口元が緩むのを抑えられなかった。


 一つ目。


《内界循環》。


 二つ目。


《空蝉》。


 たった一週間で。


 原作では誰にも使われなかった隠しスキルを、二つも手に入れた。


 しかも。


 今回は自分から取りに行ったわけじゃない。


 父上との訓練が。


 偶然。


 取得条件を満たした。


 なら。


 俺の知っているゲーム知識を、この世界の現実に当てはめれば。


 まだまだ取れる。


 隠しスキル。


 隠し装備。


 隠し職業。


 原作主人公ですら辿り着かなかったものまで。


「レオン」


「はい」


「笑っている暇があるなら構えろ」


「分かりました」


 俺は父上へ向き直る。


 箱の中には、まだ大量の魔弾が残っている。


 正直。


 さっきまでなら、うんざりしていた。


 でも今は。


「父上」


「なんだ」


「もう少し速くしても大丈夫です」


 父上の眉が上がった。


「ほう」


 まずい。


 言い方を間違えた。


 父上が魔弾を三つ。


 いや。


 五つ掴む。


「待ってください」


「大丈夫なのだろう?」


「少し速くって言いましたよね!?」


「実戦では敵が一人とは限らん」


「だから十二歳に言うことですか、それ!」


 五つの魔弾が光る。


 俺は慌てて内界循環を全身へ巡らせた。


 視界。


 聴覚。


 脚。


 そして。


《空蝉》。


「来い!」


 魔弾が一斉に放たれる。


 俺は地面を蹴った。


 処刑まで、あと九年。


 どうやら。


 原作のレオンが破滅へ向かい始めるよりずっと前に。


 俺のルートは。


 もう、原作から大きく外れ始めているらしい。

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