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【完結】転生した春の音  作者: りのぺろ


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第7話 二つの世界の選択

枯れ果てた森の奥深く、エリアーナは、泉のほとりに、ただ一人、座り込んでいた。彼女の周りだけが、かろうじて、緑の名残を留めている。しかし、その緑も、今や、消えかかろうとしていた。自分の悲しみが、この美しい森を、死に追いやっている。その罪悪感に、エリアーナは、打ちのめされていた。もう、私には、生きている資格はない。私が、消えれば、森は、元の姿を取り戻すだろうか。エリアーナは、泉の水面に映る、自分のやつれた顔を見つめながら、静かに、自らの命を絶つことを考えていた。

その時、背後で枯れ葉を踏む音がした。振り返るとそこに洋介が立っていた。数年ぶりに見る彼は、以前よりも精悍な顔つきになり、口元には髭をたくわえていた。彼の顔には人間としての、確かな年月が刻まれていた。


「洋介⋯⋯! どうして、ここに⋯⋯? 約束を、破るのですか?」


エリアーナの声は、か細く震えていた。


「約束よりも、君の方が大事だ。君が、危険な状態にあると、感じたんだ」


洋介は、エリアーナのそばに駆け寄り、その痩せた肩を、強く抱きしめた。


「なんて、酷い顔をしているんだ⋯⋯。一体、何があったんだ?」


「私のせいなの⋯⋯私の悲しみが、森を、こんな姿に変えてしまったの⋯⋯」


エリアーナは、洋介の胸の中で、子供のように泣きじゃくった。洋介は、何も言わず、ただ、彼女の背中を、優しくさすり続けていた。


「もう、いいんだ、春音。もう、一人で、苦しまなくていい」


洋介の温かい言葉に、エリアーナの心に張っていた氷の壁が、少しずつ、溶けていくようだった。


「洋介⋯⋯私、どうしたらいいか分からないの。あなたを、忘れることもできない。でも、あなたと一緒にいることもできない。私の存在が、あなたを、そして、この森を、苦しめている⋯⋯」


「俺も、同じだよ、春音。俺も、君を、一日たりとも、忘れたことはなかった。リリアや息子を愛している気持ちに、嘘はない。だが、君への想いは、それとは、 全く別のものなんだ。俺の魂が、君を、求めているんだ」


洋介は、エリアーナの顔を両手で包み込み、その瞳を真っ直ぐに見つめた。


「もう、自分たちの気持ちに嘘をつくのは、やめにしよう。俺は君を愛している。春音、いや、エリアーナ。君だけを、愛している」


洋介の告白に、エリアーナの目から、再び、涙が溢れ出した。しかし、それは、悲しみの涙ではなかった。喜びと、安堵の涙だった。

その時、二人の周りで、奇跡が起こった。エリアーナの涙が、地面に落ちた瞬間、その場所から、柔らかな光が放たれ、枯れていた草花が、一斉に、息を吹き返したのだ。エリアーナの心が、解き放たれたことで、森が、生命力を取り戻し始めたのだ。


「森が⋯⋯元に戻っていく⋯⋯」


エリアーナは、信じられないという表情で、周りを見渡した。枯れ木には、新しい芽が吹き、小川には、清らかな水が流れ始めていた。


「君の心が、森を、癒しているんだ」


洋介は、微笑みながら、エリアーナの手を、強く握った。

しかし、二人の問題が、解決したわけではない。洋介には、人間の世界に、愛する家族がいる。エリアーナは、この森を、守っていかなければならない。そして、何よりも、二人の間には、あまりにも長い、時間の隔たりがある。


「洋介、あなたには、帰る場所があるわ。リリアさんと、お子さんが、待っている」


「分かっている。だが、もう、君と離れたくないんだ」


「でも⋯⋯」


二人が、答えを見つけられずにいると、そこに、長老エルドランが静かに姿を現した。


「二人の選択肢は二つある」


エルドランは、厳かな口調で、語り始めた。


「一つは、人間である洋介が、全てを捨て、この森で、エリアーナと共に生きること。しかし、お前は、人間の短い寿命を、この森で、静かに終えることになる。家族にも、二度と会うことはできぬ」


エルドランは次に、エリアーナの方を向いた。


「もう一つは、エルフであるエリアーナが、エルフであることをやめ、人間として、洋介と共に、人間の世界で生きることだ。しかし、そのためには、お前は、悠久の時を生きる力と、治癒の魔法を、全て、手放さなければならない。そして、人間として、老い、病み、死ぬという、運命を受け入れることになる」


エルドランの言葉に、二人は息を飲んだ。あまりにも究極の選択だった。


「どちらの道を選ぶにせよ、それは、お前たちの、魂の決断だ。よく、考えるがよい」


エルドランはそう言うと、再び森の奥へと姿を消した。

残された二人は、ただ黙ってお互いの顔を見つめ合うだけだった。どちらの道を選んでも、あまりにも大きな代償を払わなければならない。二人の愛は今、あまりにも過酷な試練に立たされていた。

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