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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【外伝】悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~よろず屋ドレイクのおっさんは、なかなか穏やかに過ごせない。β版~
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第311話 チートバリアの崩壊と、権限ハッキング

 静寂に包まれていた夜の森に、ルキウスの激しい怒声が響き渡った。


「ふざけるな! ただの薄汚いおっさんが、俺を誰だと思っている! 俺は選ばれた"英雄"だぞ!!」


 白銀の鎧を纏ったルキウスの顔が、屈辱と怒りで真っ赤に染まっている。


 周囲の神官騎士たちも一斉に武器を構え、殺気を放ってきた。


 だが、俺の心は冷え切っていた。


 こいつらは、ラノリアの狂ったシステムに洗脳され、ただのゲームの主人公気取りで他国を滅ぼす暗殺作戦にウキウキで乗り込んできているのだ。


「……なるほどな。そっちのシステムに選ばれたってことは、お前さん、“転生チート”で“俺TUEEE”ってヤツか?」


 俺は呆れたようなため息と共に呟いた。


 その瞬間、ルキウスの顔から怒りが消え失せ、驚愕が張り付いた。


「な、なんでその言葉を……!?」


 彼は聖剣の切っ先を震わせ、俺を指差した。


「まさかおっさんも、俺と同じ転生者か!?」


「まぁ、似たようなもんだ」


 俺は首に巻いた使い古しのタオルを締め直し、低い声で答えた。


「ただ、俺はヒト族になんて転生できなかったんだよ。元からそんな気もなかったけどな。だが、そのせいで無駄に長生きしちまってな」


「何を訳の分からないことを言っている!」


 ルキウスは混乱を振り払うように叫び、背後の神官騎士たちに腕を振った。


「構うな! こんな頭のおかしい浮浪者はさっさと始末しろ! イベントスキップだ! 俺は世界を救う主人公なんだ! 相応しいイベントシナリオだけやればいいんだ!」


 十名に満たない精鋭の神官騎士たちが一糸乱れぬ動きで陣形を組む。


 ルキウスの光魔法のバフと神官たちの支援魔法が絡み合い、分厚く強固な何重もの光の障壁が展開された。


 並の魔法や物理攻撃では傷一つつけられないであろう、『絶対防御の結界魔法(チートバリア)』だ。


「ハハハッ! 見たか! 俺のパーティーの完璧な守りを!」


 ルキウスが光の壁の奥で、全能感を取り戻したように下品な笑い声を上げる。


「俺にはダメージを無効化する永続自動回復のスキルまでついている! お前みたいなおっさんが束になってこようが、傷一つつけられないぜ!」


 俺は、その眩いばかりの光の要塞を前にして、ひどく深く、重たい息を吐き出した。


「……魔法だのチートだの、小手先の力ばっかり頼るから打たれ弱えんだよ」


 俺の言葉に、ルキウスの笑い声がピタリと止まる。


「いいか、坊主。どんなに分厚い装甲を着込もうが、人間の身体の関節が曲がらねえ方向には曲がらねえのと同じように、物理の『理』ってやつからは逃げられねえんだよ」


 俺はゆっくりと右手を挙げると、ルキウス達の足元を指差して、腐葉土の上に視線を落とした。


 神官騎士たちが展開している陣形は、正面からの攻撃に対しては無類の硬さを誇るだろう。


 だが、彼らが立っているのは平らな闘技場ではない。


 雨水を吸い、落ち葉が堆積した森の柔らかい土の上だ。


「土台が崩れりゃ、どんな強固な壁もただの瓦礫だ」


 俺は一歩、ゆっくりと前に足を踏み出し、そして踏み降ろした。


 そして百八十五センチのヒト型の体躯に極限まで圧縮されている、数百万トンにも及ぶ古代竜の超質量のタガを、足の裏の『一点』に向けてほんのわずかだけ解放する。


 ズダァァァァァァァンッ!!


 足元を中心に、巨大な隕石が直撃したかのような凄まじい地鳴りが響き渡った。


 空間そのものが物理的に軋む悲鳴を上げ、大地が波打つ。


 ルキウスたちが立っていた地盤が、耐えきれずにすり鉢状に一気に陥没したのだ。


「なっ、うわぁぁぁぁっ!?」


「足場が、地面が崩れるぞ!」


 光の障壁に守られていた精鋭たちが足元を失い、重たい白銀の鎧ごと泥まみれになりながら巨大なクレーターの底へと転がり落ちていく。


 地面に浮かんでいた魔方陣も、それを構成していた陣形も、物理的な立ち位置の崩壊によって完全に瓦解し、絶対防御の結界魔法もガラスが割れるように脆く砕け散った。


 俺はただの一撃も魔法を放つことなく、たった一歩踏み出しただけで、彼らの最強の陣形を完全に無力化したのだ。


「痛えっ! なんだこれ、地震か!?」


 泥だらけになったルキウスが、クレーターの底で聖剣を杖代わりにして這い上がる。


 その顔には先ほどまでの余裕は微塵もなく、理解不能な現象に対する強烈な恐怖と焦燥が浮かんでいた。


 俺はクレーターの縁から、見下ろすように彼に冷たい視線を送った。


「どうした主人公。お前の自慢の無敵の盾は、地面の揺れ一つで消えちまうのか?」


「ふざ、ふざけるな……! 俺のチートが、こんなおっさんなんかに負けるはずがない!」


 ルキウスは半狂乱になって叫び、腰のマジックバッグの中に手を突っ込んだ。


 彼が引きずり出したのは、剣や杖といったファンタジー世界の武器ではない。


 無機質な金属の光沢を放つ、巨大な筒状の装置。


 大分断の時代、光華王朝とスヴァトゴーラ王朝の終わらない軍拡競争の果てに生み出された、大戦末期の近代兵器――ミサイル発射用の重火器だった。


「これならどうだ! 古代の遺跡で見つけた最強のレアアイテムだ!」


 ルキウスは金属の筒を肩に担ぎ、その先端の照準を狂ったような笑顔で俺へと定めた。


「剣と魔法の世界に現代兵器だ! 完全に勝ち確チートだろ! お前もこの森ごと、塵になって消え去れ!」


 その兵器を見た瞬間、俺の腹の底で、抑えきれないほどの冷たい怒りがとぐろを巻いた。


 あれは、ゲーム感覚で振り回していいオモチャなんかじゃない。


 俺の親友だった月酔仙が純粋に星の海へと至るために描いたロマンが、人間の業によって同族を焼き払う大量殺戮兵器へと転用されてしまった絶望の結晶だ。


 月酔仙の純粋な夢を汚し、彼から仙術の命を奪ったあの亡霊を、この薄っぺらいガキは振り回そうとしている。


 視界の端で、傍らの石の上に置いてあった黄龍の宝珠が、けたたましく赤い明滅を繰り返した。


『――対象の兵装、大戦期光華王朝製・対多重結界用殲滅ランチャーと確認。魔力充填率、90パーセントを超過』


 黄龍の無機質な念話が、俺の脳内に直接響く。


『黄龍。俺の目の前で、あの忌まわしい鉄屑を火ぃ吹かせるわけにはいかねえ』


『承知いたしました、師父。古代の衛星監視網『万里』を経由し、対象のOSへの強制介入を実行します』


「死ねえええええっ!!」


 ルキウスが狂声を上げ、ランチャーの引き金に魔力を込めて強く引いた。


 だが。


 鼓膜を破る爆発音も、森を焼き尽くす炎の奔流も、決して起こることはなかった。


『――ピピッ……エラー。上位権限者ニヨッテ、本兵装ノ使用ハロックサレマシタ』


 発射装置のパネルから、無機質で冷たいシステム音声が空しく響き渡る。


 充填されていた魔力は霧散し、ランチャーはただの重たい金属の鉄屑へと成り果てた。


「……は? え?」


 ルキウスは間の抜けた声を漏らし、引き金を何度も力任せに引き直した。


 しかし、システムが完全にシャットダウンされた古代兵器は、うんともすんとも言わない。


「な、なんでだ!? どうして撃てないんだよ! 壊れてるのか!?」


 パニックに陥り、鉄の筒をバンバンと叩くルキウス。


 俺は黄龍の宝珠を懐にしまい込みながら、クレーターの斜面をゆっくりと下り、彼との距離を詰めていった。


「自分のオモチャのOSも理解してねえのか、坊主」


 俺の嗄れた声が、夜の森に重く沈み込む。


「そいつはただの魔法の杖じゃねえ。高度な古代のネットワークとAIによって管理されているシステム兵器だ」


 俺は立ち止まり、震えるルキウスを冷酷な瞳で見下ろした。


「そして、そのシステムの最上位権限を持っているのは、ラノリアの狂ったAIなんかじゃねえ。この世界で一番古くて、一番厄介なバケモンだ」


 ルキウスが、後ずさるように一歩引いた。


 彼の目には、単なるよろず屋のおっさんだったはずの俺の姿が、理解の及ばない不気味な恐怖の対象として映り始めているはずだ。


「チートバリアは剥がれた。現代兵器のオモチャも動かねえ」


 俺は首のタオルを強く締め直すと、ルキウスに向けて両腕をだらりと下げ、戦闘の構えをとった。


「さあ、主人公サマ。次はどうする? 残っているのは、お前さんのその手に握られている立派な聖剣と、鍛えたこともない貧弱な肉体だけだぞ」


 圧倒的な絶望を前にして、ルキウスの顔が恐怖で醜く歪む。


 システムに与えられただけの借り物の力で調子に乗るガキには、圧倒的な物理の『理』という名の現実を、骨の髄まで叩き込んでやる必要があった。

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