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第211話 外伝・未来の双子。伝説は終わらない。新たな「破壊神」たちの誕生に乾杯!

 場所:次元の狭間・『管理室』


「……あーあ。神様、またやっちゃいましたね?」


 私は腰に手を当て、目の前に広がる惨状を見てため息をついた。


 そこは、この世界を統べる創造神(ミスターX)の執務室、通称『管理室』。


 無限に広がるモニターとサーバーの光に満ちた神聖な空間……のはずなんだけど、今の足元には、散乱した書類、空き缶、そして何より――黒焦げになった土鍋の残骸が転がっている。


「いや、その……すまない、聖女様。説明書通りにやったつもりだったんだが……」


 部屋の隅で小さくなっているのは、ヨレヨレのスーツを着た中年男性――この世界の神様だ。


 彼がしょぼくれている理由は明白。


 先日、私が大世界樹の根元にお供えした『煮込むだけ! 疲れた身体をパンプアップ! ラノリア王国コラボ(レオン帝監修)限定スタミナちゃんこセット』を、彼が盛大に爆発させたからだ。


「『強火で一気に』って書いてあったから、恒星の火種を少し入れたら……鍋ごと蒸発してしまってね……」


「……はぁ。神様の『少し』は、地上の『滅び』なんですよ?」


 私は呆れながらも、袖をまくり上げた。


 神様との不思議な交流が始まって数年。最初は「大世界樹」にお供えを置くだけだったけれど、神様があまりにも生活力皆無(料理スキル・ゼロ、片付けスキル・マイナス)だと判明してからは、こうして私が直接『管理室』に乗り込むようになっていた。


 大世界樹の深奥に繋げてもらった『(転移ポータル)』をくぐれば、そこはもう神の領域。


 不敬? そんなの、焦げた鍋の前では関係ないよ。


「どいてください。……片付けますから!」


 私はテキパキと残骸を片付け、空間洗浄の魔法をかけた。


 散らかった書類(たぶん世界の運命に関わる重要なデータ)も、「とりあえず積んでおけばヨシ!」の精神で端に寄せる。


 最初は「これ触っていいの? 大陸が沈まない?」ってビクビクしてたけど、神様が「消去さえしなければ、物理的に動かしても大丈夫だよ」って言うから、最近は雑巾掛けまでしている。


「……よし、綺麗になった。じゃあ、ご飯にしますよ」


 私はリュックから愛用の魔導コンロと、新しい土鍋を取り出した。


 そして、慣れた手つきで結界を張る。ここは神の領域だから、概念的な干渉を防ぐためだ。


「今日のメニューは、リベンジも兼ねて『特製・鶏塩ちゃんこ』です! ミリアちゃんの実家から届いた柚子胡椒も入れますからね!」


「お、おお……! かたじけない……!」


 神様が拝むように手を合わせる。


 グツグツと煮える音。立ち上る湯気。


 柚子の爽やかな香りと鶏出汁の濃厚な匂いが、無機質な管理室を満たしていく。


「……それにしても」


 私は野菜を刻みながら、ジト目で神様を見た。


「神様。私、なんか体の良い家政婦サービスみたいになってません?」


「い、いや! 滅相もない!」


 神様が慌てて首を振る。


「私はただ、君のその……卓越した『管理能力(片付け)』と『創造性(料理)』に惚れ込んでだね……。それに君は永遠の寿命を持つ『境界の存在』だろう? だからこそ、レヴィーネさんをスカウトした時と同じように、君を『副管理人』に……」


「お断りです」


 私は即答して、煮えたぎる鍋に豆腐を投入した。


「地上には、まだまだやることが沢山あるんですから! 砂漠の緑化も途中だし、アリス乳業の新商品開発会議もあるし、曾孫弟子たちの指導もあるし……。こんなところでモニター眺めてる暇はないんです」


「うう……。やはり、現場は強いなぁ……」


 神様がガックリと肩を落とす。


 このやり取りも、もう何度目だろう。


 神様は私をスカウトしたがっているけれど、私は断り続けている。


 その代わり、こうしてたまにご飯を作りに来ることで、神様への「貸し」は溜まる一方だ。まあ、お礼に雨を降らせてもらったり、台風を逸らしてもらったりしてるから、持ちつ持たれつかな?


「はい、できましたよ!」


 私は熱々のちゃんこをよそって、神様に渡した。


「い、いただきます!」


 神様が夢中で食べ始める。


 私も自分の分をよそって、神様の隣――世界の全てを監視する巨大モニターの前に座った。


「ん~! 美味しい! やっぱり鶏団子には軟骨を入れるに限るね!」


「……美味い。ああ、染み渡る……。五万年の疲労が溶けていくようだ……」


 二人で並んで、モニターに映る世界を眺めながらの食事。


 最近はこれが定番になっている。


 神様は一人で食べるのが寂しいみたいだし、私もここで世界中の様子を見ることで、「次はあそこの森が元気ないな」「あっちの国で雨が足りてないな」って、次の旅の指針を決められるから便利なんだよね。


「ちゃんと片付けまでやっていきますからね。世界のどこかに、洗ってない土鍋が隕石みたいに落ちてきたら大変ですから!」


「耳が痛いよ……」


 和やかな食事風景。


 神様と元・聖女が鍋を囲むなんて、誰も信じないだろうな。レヴィちゃんに話したら「あら、プロレスしなくていいの?」って笑われそうだけど。


 その時だった。


『ピピピピピッ! Warning! Warning!』


 穏やかだった管理室に、鋭いアラート音が響き渡った。


 壁一面のモニターの一つが、真っ赤に点滅している。


「えっ? 神様、これなに? 魔王とか? バグとか?」


 私は箸を止めて身構えた。


 神様も、食べかけの器を置いて、瞬時に「管理者」の顔に戻る。


「……違う。魔王の発生ログじゃない。バグでもない」


 神様が空中のキーボードを叩き、データを解析する。


「これは……『イレギュラー』の発生サインだ。だが、レヴィーネさんや君のように、外の世界から転生してきた魂じゃない。この世界で生まれ、育った魂だ」


「この世界の、イレギュラー?」


「ああ。……なんだ、この数値は? 時代を変えるレベルの魔力の覚醒……いや、これは『物理的干渉力』の異常数値を検知しているのか?」


 神様が困惑したように呟く。


 物理的干渉力? それって、まさか……。


「神様、場所は!? どこなの!?」


「座標特定。……アクシス連邦皇国。皇都アクシス、皇城内『宝物庫』だ」


「皇城……!」


 私の背筋が伸びる。


 そこは、私の大切な場所。レヴィちゃんが作り、今はその娘のエレノア(ノア)ちゃんが退位し、孫のレオンくんが治めている国。


「モニター、拡大するよ」


 神様が指を振ると、赤いウィンドウが拡大され、現地の映像が鮮明に映し出された。


 映し出されたのは、皇城の地下深くにある厳重な宝物庫。


 今日は確か、レオンくんの子供たち――双子の皇女さまが、12歳になったお祝いに、宝物庫への立ち入りを許される儀式の日だったはずだ。


「……あ」


 映像を見て、私は息を呑んだ。


 そこにいたのは、愛らしいドレスを着た、金髪の双子の少女たち。


 まだあどけなさの残る12歳。


 けれど、彼女たちが「おもちゃ」のように手に持っているものを見て、私の思考は停止した。


 一人の少女が、軽々と担ぎ上げているのは、黒く鈍く光る鉄塊。


 ドワーフの秘法と初代女帝の魔力で鍛え上げられた、伝説の鈍器――『漆黒の玉座(オリジン)』。


 もう一人の少女が、ブンブンと振り回しているのは、巨大な十字の鉄塊。


 神代の岩盤すら砕いたという、神話級の十字鍬――『天魔・伐折羅砕き(バサラ・ブレイカー)』。


「う、嘘……」


 私は知っている。あれがどれだけ重いかを。


 レヴィちゃんが隠居してから数十年。弟のソレンくんも、娘のノアちゃんも、孫のレオンくんも、他のどの血族たちも、あの武器だけは扱うことができなかった。


「重すぎる」「魔力が吸われる」「そもそも持ち上がらない」と言って、宝物庫の奥で眠り続けていたはずの神器。


 それを、あの子たちは。


『あはは! お姉さま! これ、すっごいわ! なんだか力が湧き出してくる!』


『こっちもよ! すっごく手に馴染む! お父さま、おばあさま! 持ち上げられますよ! ほら!』


 無邪気な笑い声と共に、双子が武器を振り上げる。


 映像の端で、皇帝レオンくんと、隠居した先帝エレノアちゃんが、腰を抜かして震えているのが見えた。


「……隔世遺伝、どころじゃないね」


 神様が、冷や汗を流しながら呟く。


「あの『ヴィータヴェンの血』が……数代の時を経て、双子という形で濃縮還元されてしまったようだ。……見てごらん、あの子たちの筋肉の質を。レヴィーネさんと同じ、いや、それ以上の『破壊の申し子』の輝きだ」


 双子の皇女が、玉座と十字鍬を構え、宝物庫の壁(オリハルコン製)に向かって走り出す。


 ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!!!


 モニター越しでも伝わる、凄まじい振動。


 皇城の壁が粉砕され、二人の皇女が瓦礫と共に外の世界へと飛び出していく。


 新たな破壊神の誕生。


 平和だった時代に、再び「物理」の嵐が吹き荒れる予兆。


 私と神様は、顔を見合わせた。


「……どうなっちゃうんだ、これ?」


 神様が、ちゃんこの椀を持ったまま呆然と言う。


 私は、ひきつった笑みを浮かべ、遠い日の親友の言葉を思い出していた。



『退屈しない人生が一番よ』



「……うん。どうやら、私の仕事も、神様の胃痛も、まだまだ終わりそうにないね」


 私は立ち上がり、モニターの中の、新しい「レヴィちゃんたち」に向かって、小さくガッツポーズをした。


「覚悟しなきゃね。……よし! とりあえずあの子たちのために、特製プロテインとおにぎりを用意しに行かなくちゃ!」


「えっ、帰るのかい!? この状況で!?」


「もちろんです! 『守り人』として、あの子たちにお腹いっぱいご飯を食べさせるのが私の役目ですから!」


 私は慌てて荷物をまとめた。


 神様は「やれやれ」と苦笑しながら、モニターの中の大騒ぎを――かつてないほど楽しそうな目で見つめていた。



 伝説は終わらない。


 愛と物理と食欲の物語は、形を変えて、いつまでも続いていくのだ。



【管理室・観測ログ】


 対象:ヴィータヴェン家・双子の皇女


 状態:覚醒(物理)


 予測:世界規模の構造改革(破壊)の再来


 備考:神と管理人は、胃薬とちゃんこ鍋の備蓄を推奨する。



 ◆◆◆



 To Be Continued...?


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