表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/310

第191話 外伝・ミリアの日記② 貨物船の隅で、味噌樽を守り抜く。

 星暦1025年 某月某日 天気:荒波(船酔い:なし)


【本日の装備:リュック(総重量80kg) / 中身:ミソ、ショーユ、調理器具、あと愛】


 レヴィーネ様がラノリアへ「追放(という名の留学)」されることが決まりました。


 当然、私もついていきます。ですが、感情だけで動くのは素人のすること。私はプロの「信者(ファン)」として、身辺整理を完璧に行いました。



 1.学業の決着


 まず、貴族院の教務課に乗り込み、「飛び級」と「早期修了試験」を申請しました。


 徹夜で3年分の単位を取得し、すべての試験で満点を叩き出しました。これで文句は言わせません。私はもう、いつでも卒業できる身です。


 2.実家への根回し


 その足でコーンフィールド領へ一時帰宅し、家族会議を開きました。


「私を救ってくださった恩人(レヴィーネ様)が追放されたので、その手足となってお役に立ちたい」


 そう正直に告げると、両親は驚くこともなく、深く頷いてくれました。


「お前が決めたことなのだから、頑張りなさい」と。


 弟たちも「まぁ、姉ちゃんならなんとかなるかぁ」「クマくらいなら素手で倒せるしね」と、妙に軽いノリで背中を押してくれました。信頼されているようで何よりです。


 3.コーンフィールド家のDNA


 しかし、タダで送り出すような家族ではありません。


 お母様は、実家の倉庫から「ミソ」と「ショーユ」の樽を転がしてきました。


「せっかく外国に行くのだから、販路拡大のために持っていってみて。あわよくば向こうの王族に売り込んでくるのよ」


……さすがはお母様。この商魂、勉強になります。これは「サンプル」として持参します。


 お父様からは、「開発中の『農作業用魔導外骨格(パワード・スーツ)』を持っていくか?」と真顔で提案されました。


「これがあれば、荒地も一瞬で耕せるぞ!」と仰っていましたが、丁重にお断りしました。


 お父様、娘はこれから密入国に近い形で旅立つのです。そんな鉄の塊を背負って歩いていたら、入国審査で捕まるどころか、軍事侵攻と勘違いされます。


 4.旅立ちの装備


 結局、私のリュックの中身は以下の通りになりました。


 ・販路拡大用のミソ&ショーユ(樽ごと)


 ・実家領で採れた各種スパイス


 ・愛用の包丁セットと調理器具一式


 ・最新型・携帯用魔導コンロ


 総重量80kg。少し重いですが、農作業で鍛えた足腰なら問題ありません。


 レヴィーネ様に限ってそんなことはないかと思いますが、慣れない異国の食文化で、あの方がひもじい思いをされるなどあってはなりません! 食の兵站維持は私の義務です。


 5.現在の状況


 資金の都合上、正規の客船チケットは買えませんでした。


 今、私は安価な「貨物船」の船倉にいます。


 色々交渉した結果ではありますが、ここでは私は背中のリュックごと「貨物」です。入国審査も貨物としてパスされる手はずです。


 周囲は木箱とネズミだらけ、揺れも酷いものです。


 ですが、問題ありません。計算通りです。


 待っていてください、レヴィーネ様。


 あなたの専属シェフ(兼・財布係)が、今、海を越えて参ります!



 ◆◆◆



 星暦1025年 某月某日 天気:晴れ


【本日のメニュー:ラノリア風ピリ辛スタミナミソちゃんこ / 効果:洗脳解除および胃袋の掌握】


 ラノリアの学園の男子生徒たちは、酷い有様でした。「清貧」という名の飢餓状態で、思考能力を奪われていたのです。


 成長期の男子に肉を食べさせないなど、万死に値します。


 しかし、この国は美食不毛の地。表参道の商店街はやる気のない観光客向けのパン屋ばかり。


 私はレヴィーネ様の「美味いものが食べたい(あと、あのヒョロガリどもに餌付けしたい)」というオーダーに応えるため、早朝から港のマルシェへと走りました。



 1.スープの基礎開発


 マルシェで手に入れたのは、水分が抜けきって石のように硬い魚の干物と、浜辺に打ち上げられていたという、同じく乾燥した海藻。


 一見ゴミのようですが、レヴィーネ様はこれこそ探していたものだとばかりに目を輝かせていらっしゃいました。


 これらをハンマーで砕いて煮出し、そこに私が背負ってきた「ミソ」と「ショーユ」を投入。


……香りが立ちました。旨味が爆発したかのような香りが。この異国の地で、黄金色のスープが誕生したのです!



 2.具材の選定(レヴィーネ様のオーダー:質より量!)


 レヴィーネ様は仰いました。


『とにかく野菜はたっぷりと、クズ野菜でもいいから底値でありったけ買いこんで煮込むのよ。肉は切り落とし肉で十分。あとは根菜の葉やキノコ類があれば完璧なんだけど……』


 私はその言葉を頼りに、マルシェの裏通りを奔走しました。


 現地の主婦たちがパスタに使うという「ニンニク」と「赤唐辛子」。これを大量に安価で確保。本来は香り付けに使うものですが、今回はスタミナ源としてガッツリ効かせます。この刺激こそが、弱った心身に活を入れるのです!


 そしてメインの肉。高い正肉は買えません。


 私は安値で売られている切り落とし肉と、「スープ用」として二束三文で売られていた「丸鶏(羽毛処理済み)」を買い占めました。


 調理場にて、実家で培った技術が火を吹きます。丸鶏を包丁の背と麺棒を使い、骨ごと叩いてミンチにしました。


 軟骨も髄もすべて栄養です。これに生姜とミソを混ぜ込み、「特製・骨太鶏団子」を作成。これで安価に大量のタンパク質を確保しました!



 3.シメの革命(パスタの流用)


 最後に問題となったのが炭水化物です。この国では米は希少、パンはスープを吸いすぎてしまいます。


 そこで私が目をつけたのが、市場の隅で売られていた激安の乾燥パスタ(太麺)です。


「これを煮込んでスープパスタにすればお腹にも溜まるのでは?」


 この閃きは、まさに天啓でした。



 4.実食と勝利


 完成したのは、ニンニクと唐辛子の赤、キャベツとニラの緑、そしてミソの茶色が混然一体となった『ラノリア風ピリ辛スタミナちゃんこ』。


 大鍋の蓋を開けた瞬間、「ご飯ができましたよー!」と叫ぶと、生徒たちの目の色が変わりました。


 ゾンビのように群がる彼らの口に、熱々の鶏団子と、スープを吸ったパスタを放り込む。


 レヴィーネ様曰く、湯気と共に、彼らに取り憑いていた黒いモヤが霧散していくのが見えるとのことでした。


 そして、何より嬉しかったのは、レヴィーネ様のお言葉です。


 あの方は、ハフハフとパスタを啜り、最高の笑顔で仰いました。


『あら、パスタでも案外イケるものね。美味しいわよミリア。……これなら、世界中どこに行っても『ちゃんこ』は作れるわね』


 ああ、報われました!!


 安物のパスタも、クズ野菜も、あの方の笑顔の前では最高級のフルコースです。


 やはり「食」こそが正義。そして、あの方の胃袋を支えることこそが、私の天職なのです!



【本日の収支】


 食材費:銀貨3枚(激安!)


 生徒たちの回復率:120%


 私の幸福度:測定不能オーバーフロー


【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記 -3-


 星暦1025年 某月某日 天気:雪のち晴れ(道場の熱気で視界不良)


【場所:帝都・学園外れの廃倉庫(仮称:V&C商会 帝都ちゃんこ道場)】


【本日の収支報告】


 ・支出:鶏むね肉・ガラ(大量)、生姜(箱買い)、ミソ(実家からの在庫)、根菜類……計金貨1枚


 ・収入:なし(※現時点での金銭的利益はゼロ)


 ・獲得資産:再生した労働力(親衛隊員)×30名、レヴィーネ様の「ご満悦な笑顔」(プライスレス!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ