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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第16部】グランドフィナーレ・物理帝国編 ~神様、残業代(寿命)はいりません。この世界は最高に退屈しませんもの!~
189/314

第189話 受け継がれる意志。世界は今日も、美味しくて騒がしい。

 そして。


 時は流れる。


 人の命は有限であり、物語には必ず「終わり」が訪れる。


 けれど。


 想いは、形を変えて残り続ける。


 鋼鉄のレールのように。


 大樹の年輪のように。


 そして、語り継がれる伝説のように。



 ◆◆◆



【第二部:数百年後 ~永遠の伝説~】


 皇都アクシス。


 かつて「大断裂帯」と呼ばれた場所の上に築かれたこの都は、数百年という時を経て、摩天楼が立ち並ぶ未来都市へと変貌を遂げていた。


 空には、反重力魔導機関を搭載したエアカーが行き交い、地上には何層にも重なった立体高速鉄道が走っている。


 街角の大型ビジョンには、遠く離れたトヨノクニや西方連邦のニュースがリアルタイムで流れている。


 科学と魔法が完全に融合した、ハイブリッド文明の到達点。


 行き交う輸送船やビルの壁面には、一つのロゴマークが誇らしげに掲げられている。


『V&Cホールディングス』。


 かつて一人の貧乏男爵令嬢が、「大好きな人を世界一幸せな悪役令嬢にする」ために興した商会は、今や世界経済の根幹を支える巨大企業となっていた。


 その都市の中心にある「中央広場」に、一つの巨大な銅像が立っていた。


 ドレスを纏い、不敵な笑みを浮かべ、肩に「パイプ椅子(漆黒の玉座)」を担いだ女性の像。


 台座には、こう刻まれている。


『建国の母にして、物理の女神 ――初代女帝レヴィーネ・ヴィータヴェン』


 その像の足元で、子供たちが一人の少女を取り囲んでいた。


「ねえねえ、お姉ちゃん! レヴィーネ様の話、もっと聞かせて!」


「どうして椅子を持ってるの? なんで剣じゃないの?」


「本当にドラゴンを素手で殴ったの? 歴史の授業だと『伝説』だって習ったけど……」


 子供たちにせがまれているのは、透き通るような翠色の髪と、宝石のような瞳を持つ少女だ。


 彼女の姿は、10代半ばにしか見えない。


 けれど、その纏う空気は、この都市の誰よりも古く、そして深い。


 彼女は――アリスは、懐かしそうに銅像を見上げた。


「ふふ。……剣じゃ、すぐに折れちゃうからだよ。あの人はね、誰よりも力が強くて、誰よりもご飯を食べるのが好きで……そして、誰よりも『壊す』のが上手な人だったんだよ」


「壊すの? 悪い人なの?」


「ううん。……悪いものを、壊すの。意地悪な壁とか、寂しい距離とか、退屈な常識とかね。ぜーんぶ、その椅子と拳で『どきなさい!』ってへし折っちゃうの」


 アリスは子供たちの目線に合わせてしゃがみこみ、悪戯っぽく笑って指を折ってみせた。


「聞いて驚かないでね? あの人がへし折ってきた『理不尽』の数々を」


 子供たちがゴクリと唾を飲む。


 アリスは、遠い記憶の彼方にある、愛しい日々のアルバムをめくるように語り始めた。


「最初はね、ある女の子を縛り付けていた『運命(シナリオ)』を、金網デスマッチでぶっ壊して助け出したの。……おかげでその女の子は、今もとっても幸せなんだよ」


 それは、アリス自身のこと。かつてゲームのシステムに囚われていた自分を、レヴィーネが物理で救い出したあの日。


「次は、人を数字だけで判断する『鑑定プレート』っていう意地悪な鏡を、粉々に砕いちゃった」


 ケビンとの決闘。数値至上主義という欺瞞を、鍛え上げた筋肉で凌駕した瞬間。


「それから、借金で人を縛る悪いカジノの金庫をこじ開けて、悪い薬で縛られていた国も叩き直しちゃった。それから巨大なイカ(クラーケン)は丸焼きにして食べちゃったし、悲劇を押し付ける『脚本家』もプロレス技で退場させちゃったの」


「ええっ!? クラーケンを食べちゃったの!?」


「うん、美味しかったよー。……それだけじゃないよ? 空を飛ぶ『伝説のドラゴン』は椅子で叩いてタクシー代わりにしちゃったし、世界を分けていた『大断裂帯』には、空飛ぶ都市を落っことして橋にしちゃったの」


「す、すげえ……! めちゃくちゃだ!」


 子供たちが目を輝かせる。


 現代では教科書の中の出来事、あるいはファンタジーとされる偉業の数々。


 けれど、アリスの語り口は、まるで昨日の夕飯の話をするかのように鮮明だ。


「極めつけはね……」


 アリスは声を潜め、秘密を明かすように言った。


「最後には、この世界を作った『神様』まで、リングの上でぶん投げちゃったんだよ」


「ええええええええええっ!?」


 子供たちが一斉にのけぞる。


「うそだぁ! 神様だよ!? バチが当たるよ!」


「うそじゃないよ。……だって、神様も『痛いけど楽しかった』って笑って、ご馳走を食べて帰っていったんだもん」


 アリスはクスリと笑った。


 あの日、あの時。


 最強の悪役令嬢が、創造主をジャーマンスープレックスで投げ飛ばし、世界に「健やかさ」をもたらした瞬間。


「これが、初代皇帝レヴィーネ様の伝説……ううん、『史実』だね」


 アリスは胸を張って断言した。


「だって、私はずっと隣で見てきたから。……彼女が笑って、怒って、食べて、世界を変えていくのを、一番近くで見てきたんだから!」


 その言葉には、千年の時を経ても色褪せない、圧倒的な「真実の重み」があった。


 子供たちは、ポカンとした後、爆発したように歓声を上げた。


「すっげえええええ!!」


「レヴィーネ様、最強じゃん!!」


「神様投げるとか、意味わかんないけどカッコいい!!」


 興奮して銅像の周りを走り回る子供たち。


 その無邪気な姿を見ながら、アリスは目を細めた。


 数百年。


 途方もない時間が過ぎた。


 レヴィーネも、アレクセイも、ミリアも、ギルベルトも。


 ソレンも、ノブナガも、マラグも。


 愛おしい仲間たちは皆、寿命を全うし、星へと還っていった。


 寂しくないと言えば、嘘になる。


 一人残された「境界の存在」である彼女は、何度も見送る辛さを味わった。


 けれど。


「お姉ちゃんは、寂しくないの? ずっと一人なんでしょ?」


 一人の男の子が、心配そうに尋ねる。


 アリスは、ニカっと笑って首を横に振った。


「ううん! 全然!」


 彼女は、広場の向こう、皇城の方角を指差した。


 そこには、今の皇帝――レヴィーネから数えて十数代目の子孫が住んでいる。


「だって、あの人の『呪い』は、まだ解けてないんだもん」


『アリスお姉ちゃんを一人にするな! 全力で構い倒せ!』


 レヴィーネが遺した、ヴィータヴェン家の絶対の家訓。


 その言葉通り、歴代の皇帝たちは、事あるごとにアリスの元へやってくる。


 悩み相談、恋愛相談、あるいはただの宴会の誘い。


 昨日も、若き皇太子が「アリス様! 新作のスイーツを持ってきました! 曽祖母様のレシピを再現したんです!」と飛び込んできたばかりだ。


 彼らの顔には、彼らの仕草には、あの日々の面影が確かに息づいている。


 アレクセイの知性が、ソレンの無鉄砲さが、ミリアの計算高さが、そしてレヴィーネの強さが。


「それにね。……この街を見てごらん」


 アリスは両手を広げた。


 走り抜ける列車。


 レストランで食事を楽しむ人々。


 違う国の人同士が、当たり前のように笑い合っている姿。


「みんな、ご飯を食べて笑ってるでしょ? ……あれ全部、あの人たちが遺した『宝物』なんだよ」


 道が繋がり、食が繋がり、心が繋がった世界。


 ふと、アリスの視線が広場のベンチに向けられた。


 そこには、時代遅れのヨレヨレのスーツを着た、猫背の男が座っている。


 彼は手に持った「ずんだシェイク」を美味しそうに啜りながら、膝の上の「駅弁」を広げていた。


(……ふふ、神様もまだ、残業の合間にサボりに来てるんだ)


 世界を見守る管理者は、満足げに駅弁の唐揚げを頬張り、アリスと目が合うと、悪戯っぽくウインクをした。


「美味しい世界」は、神様にとっても居心地が良いらしい。


「だから、私は寂しくないよ。……この世界そのものが、あの子たちからの『手紙』みたいなものだもん」


 アリスの言葉に、子供たちは目を輝かせた。


 その中の一人、泥だらけのスカートを履いた、勝ち気そうな女の子が前に出た。


 彼女は、銅像のレヴィーネの左手を指差した。


「ねえ、お姉ちゃん。……どうしてこの指輪だけ、ちょっと古くてボコボコしてるの?」


 レヴィーネの銅像の左手薬指。


 そこには、絢爛なドレスには似つかわしくない、無骨な金属の輪が嵌められている。


 それは銅像の一部ではなく、本物の指輪だった。


 かつて東の樹海で、一人の男が掘り出し、削り出し、愛する女に捧げた、世界で一番頑丈な約束の証。


 アリスは目を細めた。


「それはね……世界で一番強くて優しい男の人が、命がけで見つけた『宝物』だからだよ。……どんな宝石よりも、あの人にとっては価値があるものなの」


 その指輪だけは、数百年経っても錆びることなく、鈍い輝きを放っている。


 二人の愛が、今もここで輝き続けているように。


 少女は、それを聞いて何かを決意したように、銅像と同じポーズで仁王立ちした。


「私、決めた! ……私もなる!」


「え? 何になるの?」


「レヴィーネ様みたいな、カッコいい『悪役』になるの!」


 少女は拳を握りしめた。


「それで、意地悪なヤツをぶっ飛ばして、みんなにお腹いっぱいご馳走してあげるの! ……どうかな? なれるかな!?」


 その瞳にある光。


 無鉄砲で、純粋で、そしてどこまでも熱い光。


 アリスは、一瞬だけ息を呑んだ。


 そして、懐かしさに胸がいっぱいになりながら、最高の笑顔で答えた。


「――うん、なれるよ!」


 アリスは少女の頭を撫でた。


「だって……君の中にも、同じ『熱』があるもの」


 血は薄まっても。時は流れても。


 魂の形は、こうして受け継がれていく。


「頑張ってね、未来の悪役令嬢さん。……応援してるよ!」


「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」


 子供たちが笑いながら駆け出していく。


 その背中は、未来への希望に満ちていた。


 アリスは一人、銅像の前に残った。


 風が吹く。


 大陸を西から東へ、東から西へと駆け抜ける、自由な風。


 アリスは空を見上げた。


 雲ひとつない青空。突き抜けるような、無限の青。


 アリスの脳裏に、かつてレヴィーネが語った言葉が蘇る。


『前の人生では、私の世界は四角い天井だけでしたの』


 病室のベッド。動かない体。限られた景色。


 けれど今、アリスの視界を遮るものは何もない。


「……ねえ、レヴィちゃん」


 アリスは空に向かって呟いた。


「今の空は広いよ。……もう貴女を遮る天井なんて、世界のどこにもないんだよ」


 風が、アリスの翠色の髪を優しく揺らす。


 その風の中に、懐かしく、力強い声が聞こえた気がした。


『当たり前ですわ。……誰が作ったと思っているんですの?』


 パチン。


 鉄扇を開くような、小気味よい音が響く。


 アリスは空に向かって、ピースサインを掲げた。


「またね、私の最高の相棒(バディ)。……これからも、ずっと見守っているからね」


 永遠の少女は、踵を返して歩き出した。


 その足取りは軽い。


 彼女もまた、まだ見ぬ明日へと続く、旅の途中なのだから。


 悪役令嬢の伝説は、終わらない。


 彼女が愛した「物理」と「食」と「自由」がある限り、この世界はいつだって、最高に退屈しない場所であり続けるのだ。


 風に乗って、最後の言葉が世界中に響き渡るような気がした。


――退屈しない、いい世界でしょう?


 伝説は終わらない。


 ゴングが鳴る限り、悪役令嬢たちの戦い(人生)は続いていくのだ。


 いつだって。


 悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器です。


 そしてその輝きは、世界を照らす希望の光そのものなのです。




 悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です(完)


『悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です』

これにて、本編のグランドフィナーレとなります。

第1話からここまで、レヴィーネたちの長きにわたる覇道にお付き合いいただき

本当に、本当にありがとうございました!


もしよろしければ、完結の祝儀代わりに、

ページ一番下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップして、評価を入れていただけますと、

書き手としてこれ以上の喜びはありません。


皆様の温かい応援と、リアクションのおかげで最後まで走り切ることができました。

心より感謝申し上げます。


……ですが、物語はもう少しだけ続きます!

次話からは、本編では語りきれなかった「外伝」がスタートします。

引き続きよろしくお願いいたします!

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