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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第16部】グランドフィナーレ・物理帝国編 ~神様、残業代(寿命)はいりません。この世界は最高に退屈しませんもの!~
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第173話 式典にワイバーン乱入!? 新婚旅行前の「共同作業(狩り)」!

 熱狂冷めやらぬまま、民衆が待つバルコニーへ向かおうとしたその時だった。


 会場の空気が、不穏なアラート音によって切り裂かれた。


『――警告。緊急事態発生』


 懐の通信機からイリスの声が響き、同時に会場のスピーカーからデメテルの補足アナウンスが流れる。


『重大な式の途中に申し訳ありません。東の方角にワイバーンの群れを検知しました。皇都アクシスの方向に向かってきています』


 大回廊の敷設を終え、大断裂帯に蓋をしたとはいえ、世界から魔素が完全に消えたわけではない。いまだその残り香に引かれ、魔獣が現れることは珍しくなかった。


 民衆の歓声が一瞬どよめきに変わるが、そこに悲壮感はない。「今度は何が起きるんだ?」という、更なる興奮への期待すら混じっている。


『周辺のキャラバンには重大な被害が出る可能性があります』


「やれやれ……。国というものは、都市を作っておしまいというわけではないのが厄介だね」


 隣でアレクセイが、呆れたように、しかしどこか楽しげに肩をすくめた。


「今日という日くらい、『めでたしめでたし』で終わらせてくれてもいいと思うんだがね」


「ふふっ、(わたくし)達らしくていいじゃありませんか?」


 わたしはドレスの裾を翻し、ニヤリと笑った。退屈な式典の締めくくりには、極上のスパイスだ。


「イリス、デメテル、ワイバーンの情報の詳細を。――(わたくし)が直接出ますわ」


 その言葉に、会場にいた武闘派たちが即座に反応した。


「ガハハ! 待てレヴィーネ! 花嫁が動く必要はない! ワシがひと揉みで叩き落としてきてやる!」


 祖父マラグが豪快に立ち上がり、拳を鳴らす。


「いいえ、私が! 筋肉神官団を待機させています! 姐さんの晴れ舞台を汚す害虫は、私が駆除します!」


 ギルベルトもまた、上着を脱ぎ捨てて筋肉を誇示する。


 だが、わたしは鉄扇をパチンと鳴らし、彼らを制した。


「お待ちになって。お祖父様も、ギルも、下がっていてくださいな」


「な、何故だ!? 遠慮はいらんぞ!」


「遠慮ではありませんわ。皆様は今日、『国賓』としてお招きしたのです。ゲストに頼るわけにはいきません」


 わたしはバルコニーの向こう、なおも熱狂し続ける数万の民衆と、その中に混じる諸外国の商人たちの気配を感じながら、断言した。


「それに……今日というこの日に、国立競技場に集まっている国民達や諸外国の商人達に、わたくしたち(初代女帝と王配)という存在を改めて知らしめる必要がありますの」


 わたしはアレクセイと視線を交わす。彼もまた、覚悟を決めた瞳で頷いた。


「この国は、誰の庇護も必要としない。……わたくしとアレクセイ、この二人が揃えば、どんな災厄も『物理』でねじ伏せられるのだと、証明しなくてはなりませんわ」


 そう。これはただの迎撃ではない。建国最大の「デモンストレーション」なのだ。


 世界最強の武力と、それを支える魔導。その両輪が揃っていることを世界に見せつける、絶好の機会チャンス


「……ふむ。花を持たせる、というわけか。良いだろう、見ていてやる!」


 マラグが満足げに座り直す。


 わたしはイリスとデメテルに指示を飛ばした。


「イリス、デメテル! ばっちり生中継を頼むわよ! ……アレク、共同作業ですわよ!」


「ああ! ケーキ入刀の代わりには、少し大きすぎる相手だがね」


 わたしたちは転移魔法の光に包まれ、一瞬にして上空へと跳躍した。


 眼下には、皇都を狙って滑空するワイバーンの群れ。その数、およそ二十。


 強風がドレスを煽るが、わたしは足元に展開された魔力の足場をヒールで踏み砕き、さらに加速した。


「ごきげんよう、招かれざるお客様! お祝い代わりの『一撃』、受け取っていただきますわよ!」


 わたしは影から、愛用する「漆黒の玉座(オリジン)」を引き抜いた。


 ズヌゥ……ッ!


 結婚式だからといって、純白にするつもりはない。このドス黒い鈍器こそが、わたしのアイデンティティ。


「アレク、逃がさないでくださいまし!」


「了解! 『氷結結界(アイス・プリズン)』!」


 アレクセイが詠唱と共に手をかざすと、ワイバーンの群れの周囲の大気が一瞬で凍結し、見えない檻となって彼らの動きを阻害した。


 逃げ場を失い、混乱する魔獣たち。その脳天に向けて、わたしは重力を味方につけたフルスイングを叩き込む。


「――消えなさいッッ!!」


 ドゴォォォォォンッ!!!


 鈍い音がした直後、生肉と鋼鉄が衝突する暴力的な衝撃音が響き渡った。


 先頭を飛んでいたリーダー個体が、わたしの椅子の一撃を受けて、隕石のように垂直落下していく。


 続けて、アレクセイの放った「焔創剣」が、残りの群れを正確に焼き払い、あるいは「氷壊槍」が翼を貫いた。


「ナイスアシストですわ、あなた!」


「君のインパクトも強烈だったよ。……さあ、仕上げだ!」


 わたしたちの連携攻撃は、わずか数十秒で空の脅威を排除した。


 黒煙を上げて荒野に落下していくワイバーンの山。それを見下ろしながら、わたしは満足げに椅子を肩に担いだ。


 スクリーン越しに見ていたであろう民衆の歓声が、ここまで届くような気がした。


 そして、数時間後。


 国立競技場は、先程までの厳粛な式典会場から、巨大な「野外レストラン」へと変貌していた。


 香ばしい肉の焼ける匂いと、食欲をそそるスパイスの香りが充満している。


「さあさあ、連邦皇国国民諸君! 祝いの膳です! 空からの恵み、心ゆくまで味わってくださいまし!」


 わたしが高らかに宣言すると、屋台から次々と料理が振る舞われた。


 メインディッシュは、もちろん先ほど撃墜されたばかりの新鮮なワイバーン肉だ。


 資源の無駄遣いは許さない。襲ってきた(ミート)は、美味しくいただくのがこの国の流儀だ。


「へいお待ち! 『ワイバーンのピリ辛スタミナちゃんこ鍋』だ!」


「こっちは『ワイバーンモモ肉のケバブ』だぞ! 焼きたてだ!」


「『ワイバーンカレー』に『タンドリーワイバーン』もあるぞ!」


 アクシス国民と訪問客たちは、魔獣の肉というゲテモノへの恐怖など微塵もなく、「美味い!」「力が湧いてくる!」と貪り食っている。これも長年の啓蒙活動(物理)の成果だろう。


 一方、肉を忌避するエルフ族のテーブルには、東の大回廊を通じてトヨノクニから緊急輸送された、色鮮やかな料理が並んでいた。


「おお……! これは『ずんだ餅』に『ずんだシェイク』! それに『豆乳ちゃんこ』に『ベジタリアンカレー』まであるぞ!」


 森の女王エルウィンが、目を輝かせて震えている。その威厳ある表情は崩壊し、ただのスイーツ好きの乙女になり果てていた。


「これじゃ……! わらわが求めていたのは、この緑の宝珠じゃ!」


 エルウィンをはじめとするエルフ族たちが、ずんだの甘みと豆乳のコクに骨抜きにされ、大満足の笑みを浮かべている。


 その光景を見渡しながら、わたしは特製ちゃんこ(ワイバーン入り)をよそった椀を手に、アレクセイと乾杯した。


「……平和ですわね」


「ああ。君らしい、騒がしくて美味しい平和だ」


 わたしたちは顔を見合わせ、笑い合った。


 こうして、ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国の歴史は、爆発と筋肉、そして世界中の人々を笑顔にする「美食」と共に、華々しく幕を開けたのだった。


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