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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~
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第157話 完全制圧。今日からここは、わたしたちの「支店」ですわ。

「戻れ! 戻って鍵を差し込め! さもなくば今ここで射殺する!」


 銃口を向けられた二人が、震えながら戻ってくる。


 ガストンの狂気に押され、彼らは震える手で鍵を差し込んだ。


「いいか! 私の合図で回すんだ! ……3、2、1、回せッ!」


 ガストンが叫び、鍵を回した。


 カチャリ。


 彼の鍵は回った。


 だが。


「……あ?」


 システムは沈黙したままだ。認証ランプが赤く点滅している。


 ガストンは目を見開き、両隣を見た。


 副議長の手は鍵を握ったまま動かず、司令官に至っては、鍵から手を離してうなだれていた。


「な、なぜだ!? なぜ回さん!?」


「……できん」


 司令官が、絞り出すような声で言った。


「トヨノクニを焼けば、私の故郷にいる家族も、報復で殺されるかもしれない……。そんなこと、できるわけがないだろう!」


「損得の問題じゃない……! 死にたくない……私はまだ、死にたくないんだ!」


 副議長が泣き崩れる。


 ガストンは呆然とした。


 彼らは、最後の最後で「連邦の意地」よりも「個人の生」を選んだのだ。


 いや、自分だってそうだ。死にたくないから、道連れにしようとしただけだ。


 だが、それすらも叶わない。


「……あ、ああ……」


 ガストンはその場にへたり込んだ。


 目の前には、無情にも沈黙を続ける発射コンソール。


 彼は理解した。


 自分はもう、勝つことはおろか、負けを認めて死ぬことすら許されないのだと。


 完全なる手詰まり。絶対的な無力。


 議長としての権威も、国の命運も、すべて指の間から零れ落ちていく。


「……終わった……」


 彼が絶望に目を閉じた、その時。


――ごきげんよう(物理)ッ!!


 ズガァァァァァァァァンッッ!!!!!


 議事堂の堅牢なドーム天井が、爆砕した。


 まるで神の鉄槌が下されたかのような、圧倒的な破壊音。


 降り注ぐガラスの雨。舞い上がる粉塵。


 衝撃波が三人を吹き飛ばし、コンソールから引き剥がす。


「ぐわぁぁぁッ!?」


 ガストンが床を転がる。


 何が起きた?


『天蓋』が落ちてきたのか?


 それとも、あの『黄金の悪魔』が本当に空から……!?


 土煙が晴れると、その中心――破壊された議場のど真ん中に、隕石のように着弾した「何か」があった。


 それは、黒く輝く『玉座』。


 そして、その上に悠然と腰掛け、脚を組んだ黄金の髪の令嬢。


「……あ、あ……」


 ガストンは腰を抜かし、パクパクと口を開閉させた。


 レヴィーネ・ヴィータヴェン。


 彼女は、扇子で口元を隠し、まるで舞踏会にでも現れたかのような優雅さで、地獄絵図と化した議場を見渡した。


「……騒がしいですわね。学級崩壊でもしていて?」


 その声は、鈴を転がすように美しく、そして絶対零度のように冷たかった。


「き、貴様……! どうやってここへ……! 近衛師団は! 魔導砲台はどうしたというのだ!!」


「ああ、外で右往左往していた皆様のこと?」


 彼女は興味なさそうに、親指で背後(天井の大穴)を指した。


「わたくしが降りるのに邪魔でしたから、黒鉄組を先行させて少しどいていただきましたわ。……今頃、回収されて再就職の面接をしている最中じゃなくて?」


 ガストンの戦意は、既に折れていた。


 だが、もはや反射的に、彼の視線はコンソールへと向いた。


 撃てなかったミサイル。役立たずの鉄屑。


 それでも、それは彼が縋れる最後の藁だった。


「あら。まだそんな物騒な花火に執着していますの?」


 カツン、というヒールの音。


 次の瞬間、ガストンの目の前にあった発射コンソールが――消えた。


 正確には、レヴィーネが振るった『玉座』の一撃によって、配線ごとひしゃげ、壁にめり込んでいた。


 バチバチと火花が散り、三つの鍵ごと、制御基板が粉砕される。


「あっ……ああっ……!」


 ガストンの中から、悲鳴すら出なかった。


 ただ、乾いた笑いが漏れるだけだ。


 撃てなかったのではない。最初から、撃つ意味などなかったのだ。


 この圧倒的な暴力の前では、核兵器の発射スイッチさえも、ただの壊れやすい玩具に過ぎなかった。


「交渉材料? いいえ、それは『倒産への近道』ですわ」


 レヴィーネは、ガストンの目の前にしゃがみ込み、ニッコリと微笑んだ。


 その笑顔は、女神のように美しく、そして死神のように恐ろしかった。


「そのボタンを押せば、あなた方は『空の番人』に消去されていましたわ。……命拾いしましたわね?」


「……空の……番人……?」


 ガストンは呆然と呟いた。


 自分たちが頼みの綱にしていた「神の力」が、実は自分たちを消し去るための処刑装置だったとは。


 無知とは、これほどまでに滑稽なものか。


「感謝は結構。……さあ、議長さん。これからの話をしましょうか」


 彼女は懐から、分厚い書類の束を取り出し、ガストンの顔にペチペチと軽く叩きつけた。


 表紙には『事業譲渡契約書』と書かれている。


「軍の解体、インフラ整備権の譲渡、そして関税の撤廃。……サインなさい。今なら、美味しいトヨノクニ米一年分をお付けしますわよ?」


 議事堂の外からは、黒鉄組の重機の音と、市民たちの歓声(バザールの熱気)が聞こえてくる。


 首都は既に、陥落していた。


 軍事的にではなく、経済的に、そして胃袋的に。


「……負け、だ……」


 ガストンは震える手でペンを取った。


 彼の手には、もう世界を滅ぼす鍵はない。あるのは、新しい支配者への恭順を示すペンだけだ。


 こうして、西方連邦による「対トヨノクニ戦争」は、開戦からわずか数週間で、全面的な「吸収合併」という形で幕を閉じたのである。


 世界を終わらせるはずだった『神の雷』は、一度も火を噴くことなく、歴史の闇へと葬り去られた。


 ただ、悪役令嬢の伝説に、新たな1ページを刻んで。



 ◆◆◆



 レヴィーネ・ヴィータヴェンによる、西方連邦の電撃的な「吸収合併」。


 その報せは、風よりも速く、東方諸国の枢要へと届いていた。


 世界が、軋みを上げて動き出そうとしていた。


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