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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~
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第156話 進撃の土木軍団! 敵兵が次々と「作業員」に転職していく。

 西方連邦首都、中央議事堂。


 かつて大陸随一の繁栄を謳われたこの白亜の殿堂は今、怒号と悲鳴、そして絶望的な報告の嵐に包まれていた。


 円形の巨大なホールに設置されたスクリーンには、無慈悲なまでの速度で塗り替えられていく戦況地図(タイムライン)が表示されている。


 それはもはや「戦況」ではない。「侵略」ですらない。


 巨大な土木事業による「国土の塗り替え工事」の進捗報告だった。


【星暦1028年 西方事変・進軍記録】


 ●11月5日 西海岸・港湾都市バルバロス陥落


 状況:レヴィーネ・ヴィータヴェンによる単独での司令部粉砕。守備隊は武装解除後、即座に黒鉄組へ吸収。


 現状:港湾機能が回復。トヨノクニ船籍の輸送船団が入港し、大規模なバザールを開催中。市民の支持率、98%。


 ●11月8日 西部要衝・城塞都市ガンダルヴァ陥落


 状況:空からのレヴィーネ・ヴィータヴェン単独降下により城門破壊。直後に地上部隊『黒鉄組』が突入。


 現状:城壁および古代兵器群を粉砕・リサイクルし、バルバロスからの直通ハイウェイが開通。都市は巨大な「道の駅」へと改装中。


 ●11月12日 商業都市ミレン・ルージュ陥落


 状況:戦闘なし。レヴィーネ・ヴィータヴェンによる「全在庫・言い値買い取り」宣言により、商業ギルドが城門を開放。無血開城。


 現状:トヨノクニへの特産品輸出拠点として稼働開始。


 ●11月15日 東部防衛線・第3機甲師団、通信途絶


 状況:『鋳潰し三号(スクラップ・スリー)』および『土木弐型(インフラ・ツー)』部隊と接触。


 現状:師団長より「道路工事が忙しいため、帰還できません。給料が良いので転職します」との打電あり。


――そして、本日11月18日。


 敵の先鋒である「道路」は、既に首都から肉眼で確認できる距離まで迫っていた。


 地平線の彼方から、土煙と共に聞こえてくる重機の駆動音。それは、この国の終焉を告げるカウントダウンのようだった。


「……速すぎる。あり得ない……!」


 連邦議長ガストン・ベルモンドは、脂汗にまみれた顔を高級な絹のハンカチで拭いながら、演壇にしがみついていた。


 彼の胃は、ここ数日のストレスで穴が開きそうだった。


 当初の青写真は完璧だったはずだ。


神の雷(ICBM)』をチラつかせて脅し、経済封鎖でトヨノクニを干上がらせる。弱ったところを、古代兵器で武装した大艦隊で海上封鎖し、降伏を迫る。


 商人の国らしい、合理的かつ冷徹な計算に基づく勝利の方程式。


 だが、その計算式は、たった一人の「規格外(バグ)」によって書き換えられた。


 レヴィーネ・ヴィータヴェン。


 彼女は、こちらの想定を遥かに超える速度と質量で、空から降ってきた。


 最初のドミノである港湾都市が、物理と経済の両面で「乗っ取られた」時点で、こちらの補給線も作戦も全て瓦解したのだ。


「議長! どうするつもりだ! 敵はもう首都圏ハイウェイの建設を始めているぞ!」


「我が社の資産価値は大暴落だ! どうしてくれるんだ!」


「講和だ! 今すぐ降伏して、商権だけでも守るべきだ!」


 議員たちの罵声が飛ぶ。


 彼らは商人であり、資本家だ。


 勝てる見込みのない戦争よりも、少しでも損害を減らす「手打ち」を望むのは当然の理屈だった。


 だが、ガストンには分かっていた。


 今さら降伏したところで、自分たち首脳陣の首が繋がる保証はない。あの女は、甘くない。


 ならば。


「……静粛に! 静粛に頼む!」


 ガストンが木槌を叩き、怒号を遮った。


 彼は血走った目で、議場の最前列に座る二人の男――副議長と軍最高司令官を見据えた。


 彼らの首には、ガストンと同じ「鍵」がぶら下がっている。


 地下サイロに眠る大陸間弾道弾『神の雷』の発射キーだ。


 この最終兵器は、一人の狂気による暴走を防ぐため、システム管理者(古代人)によって厳重なロックがかけられている。


 発射には、異なる権限を持つ三名の「同時認証」が不可欠なのだ。


「……『神の雷』を使う」


 ガストンの掠れた声が、マイクを通して響いた。


 一瞬の静寂。


 そして、爆発的な拒絶反応が返ってきた。


「なっ!? 正気か!?」


「撃てばトヨノクニは消滅する! だが、その報復はどうなる!?」


「あの女が黙っていると思うか!? この首都が更地になるぞ!」


 軍最高司令官が立ち上がり、机を叩いた。


「議長! 軍事的にも得策ではない! トヨノクニを焼いたところで、既に懐に入り込んでいる『黄金の悪魔』は止まらん! むしろ、帰る場所を失った彼女が、この国を道連れに暴走するだけだ!」


 副議長も青ざめた顔で首を振る。


「経済的損失も計り知れない! 一ベルの得にもならん心中など、商人のやることではないわ!」


 正論だ。


 誰もが分かっている。


 喉元にナイフを突きつけられている状態で、相手の家に放火しても、ナイフが引かれることはない。むしろ深く突き刺さるだけだ。


 だが、ガストンは叫んだ。


「ではどうする! 座して死ねと言うのか! ……道連れだ! 我らが滅ぶなら、あの傲慢な女の故郷も地獄へ引きずり込んでやる!」


 それは政治家の判断ではない。追い詰められた獣の、惨めな癇癪だった。


 紛糾する議会。


「撃てば終わる(物理的に自分たちも)」という恐怖と、「撃たなければ飲み込まれる」という現実の板挟み。


 合議制の悪い癖が出た。誰も責任を取りたくない。誰も「自殺スイッチ」を押したくない。けれど、有効な対案も出せない。


 その時。


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥン――――!!!!!


 不気味な低周波の音が、首都の空気を震わせた。


 サイレンではない。


 巨大な質量が、空気を押し潰しながら降下してくる音だ。


 議事堂の天窓が、急激に暗くなる。


 議員たちが一斉に空を見上げ、悲鳴を上げた。


「く、来るぞぉぉぉ! 空から『査定』が来るぞぉぉ!!」


 雲を割り、首都の上空を覆い尽くす巨大な影。


 古代要塞都市『天蓋の揺り籠』。


 いつ降ってくるか分からない。どこに落ちてくるか分からない。


 そのプレッシャーだけで、首都の防衛機能は麻痺していた。


 ズズズズズ……ッ!!


 天蓋都市の影が、議事堂を完全に飲み込む。


 日蝕のような闇が、ホールを支配する。


「ひ、ひぃぃぃ! 逃げろ! ここに落ちるぞ!」


「議長! 早く降伏文書を! 白旗を上げろ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う議員たち。


 それを見たガストンの中で、何かが切れた。


「ええい、遅い! もう知らん! 撃ってやる! 道連れだ!」


 彼は錯乱し、演壇の下にある隠しコンソールを開けた。


 そこには、三つの鍵穴が並んでいる。


 彼は自分の鍵を差し込み、そして狂気の形相で、逃げようとする副議長と司令官に拳銃を向けた。


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