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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~
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第152話 戦争? いいえ「公共事業」です。空・陸・海からの同時侵攻!

 天蓋都市の発着ポート。

 深層区画でのショッピング《略奪》を終え、ホクホク顔で戻ってきたわたしたちは、眼下に広がる青い星を見下ろしていた。

 頭上には宇宙の闇。足元には雲海。

 改めて、とんでもない場所にいたのだと実感する。


「さて。……問題はどうやって帰るか、ですわね」


 わたしは腕を組んだ。

 行きはドラゴン(機械龍)・タクシーを無理やり使ったが、帰りの足がない。飛び降りるには高すぎるし、ヴィータヴェン号は海の上だ。


『マスター。それでしたら提案があります』


 アリスのスマホから、デメテルが得意げにホログラムを投影した。


『この天蓋都市の高度を下げ、オワリ城の直上、あるいは隣接する海面へ着水・停泊させることも可能ですが、いかがいたしましょう? これなら乗り換えの手間もなく、家ごと引っ越す感覚で帰れますよ』


 なるほど、豪快なプランだ。

 だが、すかさずイリスが冷徹なツッコミを入れた。


『否定。却下です。姉さんの質量で急速降下した場合、気圧変化による異常気象が発生します。さらに、そのまま海面へ着水すれば、極大の津波被害が発生する確率が99%です』


 イリスは真顔ホログラムだがで、とどめの一言を放った。


『姉さんは、自分の図体の大きさを、もう少し配慮すべきです。……重すぎるのです』


『なっ……! ず、図体ですって!? 重すぎ……!?』


 デメテルのホログラムが真っ赤になった。

 彼女は両手で自分の頬を押さえ、涙目で反論する。


『それが久しぶりに会った姉に向かって言う言葉ですか!! 私は……私は太っているわけではありません! たくさんの子供《種子》たちを抱えるための、包容力……そう、母性の象徴なんです!!』


「……ぶっ」


 わたしは思わず吹き出した。

 都市サイズの話を、体型の話にすり替えるとは。

 アリスも「安産型なんだ……」と微妙な顔で頷いている。この姉妹、意外と似たもの同士かもしれない。


『……こ、コホン。失礼しました』


 デメテルは気まずそうに咳払いをし、改めて別のホログラムを表示した。


『では、こちらの折衷案でいかがでしょう。……本都市の高度を、気象影響が出ないギリギリのライン……高度3000メートル付近まで降下させます』


「ふむ。3000メートルなら、霊峰フガク(富士山)より少し低いくらいね」


『はい。ただし、気圧変動を起こさないよう、数時間かけてゆっくりと降下させます。……そこを「定常停泊高度」とし、地上へは本都市に備え付けの「往復可能な小型シャトル」で移動するプランです』


 デメテルが指を鳴らすと、ポートの床が開き、流線型の美しい機体がせり上がってきた。

 古代語で『希望の翼』と名付けられた、銀色の翼だ。

 全長は20メートルほど。表面は継ぎ目がなく、真珠のような光沢を放っている。


「採用よ。……ああ、それとデメテル。出発する前に、一つ仕事を片付けておきましょう」


 わたしはシャトルを見上げ、ふと、頭上のドームを見上げた。

 そこには、かつての爆発か衝突で生じたであろう、巨大な亀裂が走っている。


「あの大穴(亀裂)。……私の別荘(キャッスル)としては、いささかみすぼらしいわね。隙間風が入るじゃない」


 わたしが扇子で亀裂を指し示すと、デメテルは申し訳無さそうに眉を下げた。


『申し訳ありません……。自己修復材(ナノマシン)の在庫が枯渇しておりまして……。現在の備蓄では、種子保管庫の維持で手一杯なのです』


「在庫がないなら、提供してあげるわ」


 わたしはニヤリと笑い、足元の影から「暗闇の間」を展開させた。


「イリス、演算補助を。デメテル、私の魔力を中継させるわ。……やるなら徹底的に、新品同様に直しなさい!」


 ドサドサドサッ……!!


 影の中から吐き出されたのは、ここに来た時にわたしが破壊し、収納しておいた数百体もの警備ロボットの残骸だ。


『あっ……! そ、それは私が配備した警備ドローンたち!? いつの間に回収を!?』


「資源の有効活用よ。あれも全部『液体金属』なんでしょう? 再利用なさい」


『は、はいっ! ありがとうございますマスター! 若干複雑な気持ちがないわけでもないですが、これだけの量があれば、外壁の修復どころか都市機能の完全復旧が可能です!』


 わたしが玉座を通じて魔力を送ると、山積みの残骸が一斉に液状化し、銀色の奔流となって空へ舞い上がった。

 それはまるで、逆再生を見ているかのようだった。

 何万トンもの液体金属が亀裂に吸い込まれ、みるみるうちにドームを塞いでいく。


 キィィィン……!


 亀裂が完全に塞がると同時に、都市全体に柔らかな光が灯った。

 再起動した環境維持システムが、新鮮な空気を循環させ始める。

 廃墟だった街並みが、息を吹き返したかのように輝き出したのだ。


「わぁ……! 綺麗……!」

「すごい……。街が生きています……!」


 アリスとミリアが歓声を上げる。

 これでよし。どうせ持ち帰るなら、ボロ屋より新築のほうがいいに決まっている。


「さて。これで心置きなく帰れますわね」


◆◆◆


 こうして、わたしたちを乗せた天蓋都市は、静かに降下を開始した。


 ズズズゥゥゥン……。


 腹に響く重低音と共に、巨大な質量が動き出す。

 窓の外では、太陽が水平線の彼方へと沈み、世界が夜の帳に包まれていくところだった。


「きれい……」


 アリスが窓に張り付いて呟く。

 眼下には真っ暗な雲海。頭上には、空気がないゆえに地上よりも鋭く輝く満天の星空。

 わたしたちは、星の海を泳ぐ巨大な船の中で、ゆっくりと流れる時間を過ごした。

 戦いの疲れを癒やすように、アリスとミリアは寄り添って仮眠を取り、わたしは玉座に座って、眼下の闇に点在する地上の街明かりを眺めていた。


 やがて。

 東の空が白み始めた。


「……夜明け、ね」


 水平線が黄金色に染まり、そこから深い藍色、そして透き通るような水色へと、空のグラデーションが変わっていく。

 雲海が朝日に照らされ、燃えるようなオレンジ色に輝き出す。

 神話の世界のような絶景。

 その中を、修復を終えて完全な球体となった天蓋都市が、音もなく降下していく。


『マスター。まもなく、目標高度3000に到達。……オワリ城上空です』


 デメテルの報告と共に、雲を抜けた。

 眼下に、慣れ親しんだトヨノクニの大地と、朝霧に包まれたオワリの城下町が広がっていた。


◆◆◆


 その頃、地上では。

 トヨノクニの早朝は、「健康」から始まる。

 国民の体力向上を掲げたミリアの発案により、毎朝の『国民健康体操』が推奨されているのだ。


 オワリ城の広場でも、近衛武士や役人、そして早起きした非番の者たちが整列していた。

 その最前列には、なんとノブナガとイエヤスの姿もある。


「うむ! 朝の運動は気持ちが良いのう! 血の巡りが良くなるわ!」

「はい。……規則正しい生活こそが、富国強兵の第一歩ですからね」


 朝日を浴びながら、屈強な男たちが一斉に腕を回し、屈伸をするシュールかつ平和な光景。

 そして、城のテラスでは、エルフの女王エルウィンが、優雅に朝のハーブティーを楽しんでいた。


「ふぅ……。今日も良き天気じゃ。平和じゃのう」


 彼女はカップを傾け、香りを楽しもうと目を閉じた。

 その時だ。


 スッ……と。

 降り注いでいた朝日が遮られ、世界が巨大な影に覆われた。


「……ん? 雲か? 雨の予報など出ておらなんだが……」


 エルウィンは怪訝な顔で目を開け、空を見上げ――そして、800年生きてきて初めて、盛大に茶を吹き出した。


「ぶふぉぉぉぉぉッ!!?」


 侍女たちが慌ててタオルを持ってくるが、エルウィンはそれどころではなかった。

 震える指で、空を指差す。


「ば、馬鹿な……。ありえん、ありえんぞ……! アレが動くじゃと……!?」


 広場で体操をしていたノブナガたちも、動きを止めた。

 全員が、あんぐりと口を開けて空を見上げている。


「い、イチ、ニ、サ……ン……?」


 号令係の声が裏返り、消えた。

 空にあったのは、雲ではなかった。

 雲海を割り、朝霧を払って、ゆっくりと、しかし圧倒的な質量を持って降下してくる巨大な影。

 かつて神話の時代に空へ上がり、二度と降りてこないはずの『天蓋の揺り籠』が、まるで巨大な蓋のようにトヨノクニの上空へと降りてきたのだ。

 しかも、その外壁は朝日に照らされて神々しく輝き、完全な球体を描いている。


 あまりの光景に、悲鳴すら上がらない。

 ただただ、圧倒的な「非日常」の降臨に、人々は腰を抜かし、あるいは拝み始めた。


 やがて、その巨体はオワリ城の遥か上空、高度3000メートルでピタリと停止した。

 まるで、第二の月が地上に舞い降りたかのような威容。


「あやつ……行っただけでは飽き足らず、空ごと引きずり降ろしおったか……!?」


 エルウィンが呆然と呟く中、都市の底面から一点の光が放たれた。

 小型シャトルだ。

 それは朝日に輝く翼を広げ、音もなく滑空し、優雅な弧を描いてオワリ城の広場へとアプローチする。


 プシュゥゥゥ……。


 土煙一つ上げず、羽毛が落ちるような静けさで着陸。

 体操の列が割れ、ハッチが開く。

 中から、見慣れた――いや、見慣れすぎて胃が痛くなる三人組が、朝日を背負って降りてきた。


「おはようご、ノブナガ。……体操の時間にお邪魔して悪かったかしら?」


 わたしは優雅に鉄扇を開き、固まっている天下人たちにニッコリと笑いかけた。


「ちょっとお土産を持って帰ろうと思ったのだけど、鞄に入りきらなかったから……」


 わたしは親指で、空に浮かぶ巨大都市を指差した。


「島ごと持って帰ってきちゃいましたわ!」


「「「規格外すぎるわッッ!!!」」」


 ノブナガ、イエヤス、そして武士団員たちの絶叫が、爽やかな朝のオワリに響き渡る。

 そんな中、駆けつけたエルウィンがおぼつかない足取りでシャトルに近づいた。

 彼女は震える手で、その白銀の装甲に触れる。


「……信じられん。これは『希望の翼』……古代大戦の末期に作られた、王族専用機か?」


 彼女の琥珀色の瞳が、複雑な光を帯びて機体を見つめる。


「わらわが子供の頃、遺跡で見た残骸は、どれも赤錆にまみれ、朽ち果てておった。……だというのに」


 彼女は装甲に頬を寄せんばかりに近づいた。


「傷一つない。錆一つない。まるで、昨日作られたばかりのような輝き……。時が止まっていたとでも言うのか? それとも……」


 彼女はハッと顔を上げ、わたしを見た。


「お主、まさか……あの中に眠っていた『時』そのものを動かしたのか?」


「ええ。止まっていた時計のネジを、ちょっと巻いてきましたの」


 わたしの答えに、エルウィンは呆れたように、けれどどこか嬉しそうに笑った。


「……くくっ。ネジを巻く、か。……お主にかかれば、神話もただの古時計か。……まったく、長生きはしてみるものじゃな」


 彼女は愛おしそうに、もう一度シャトルを撫でた。

 その横顔には、かつて失われた文明への郷愁と、それが蘇ったことへの震えるような感動が浮かんでいた。

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