第144話 ロボット軍団? 鉄屑に変えてあげるわ! 物理最強の証明。
「……イリス。あれは?」
わたしが尋ねると、端末からイリスのホログラムが飛び出した。
『照合完了。……天蓋管理システム統括AI、試作型『デメテル』。……私の、姉妹機にあたる存在です』
「お姉様?」
『はい。私は「演算と記録」を司る管理者として設計されましたが、姉さまは「育成と保護」を最優先事項としてプログラムされています。……いわば、この箱舟の「母親」です』
イリスの説明に、ホログラムのデメテルが冷ややかな視線を向けた。
『……久しぶりですね、イリス。貴女、ずいぶんと「汚れた」人間たちに使役されているようですね。……嘆かわしい。演算器としての誇りを忘れたのですか?』
『否定。私は現在、最も合理的かつ効率的に世界を変革するマスターと、最強の個体にリソースを提供しています。これが最適解です』
『最強? 野蛮の間違いでしょう』
デメテルはふん、と鼻を鳴らした。
『私の子供たちは、純粋無垢な存在。……暴力と欲望にまみれた地上の人間に、この尊い命を渡すわけにはいきません。貴女たちはウィルスです。……直ちに退去するか、有機肥料として処理されるかを選びなさい』
デメテルが手を振ると、警備ロボットたちが一斉に襲いかかってきた。
スタンロッドが青白いスパークを放ち、捕獲用のアームが蛇のように伸びる。
だが、アリスの瞳に恐怖の色はない。
彼女はスッと息を吸い込み、杖を振りかざした。
「……ここは保存区画だもんね。生存環境が維持されてるなら、宇宙服はいらない。……だから!」
パリンッ!
アリスは自ら「光の繭」を解除した。
そして即座に、別の結界術式を展開する。
「『聖域障壁』!!」
ズガンッ!!
わたしたちの周囲に、六角形の光の壁が出現した。
直後、警備ロボットたちが放ったスタンロッドの電撃や、捕獲用ネットが一斉に結界に弾かれる。
「すごい……! 物理攻撃と魔力攻撃、両方を弾いています!」
「へへへ、伊達にフガクで修行してないよ! レヴィちゃんたちが攻撃に専念できるように、守りは私が固める!」
アリスが頼もしく叫ぶ。
その横で、ミリアも懐からトヨノクニ製の魔導短銃を二丁、抜き放った。
「なら、露払いは私が! ……社長自ら、不良在庫(敵)の処分を行います!」
ダアンッ! ダアンッ!
ミリアの正確無比な射撃が、先頭のロボットのセンサーを撃ち抜く。
しかし。
「なっ……!?」
弾丸が命中した箇所が、水面のように波打ち、瞬時に塞がってしまった。
ロボットの表面は、ヌラリとした銀色の光沢を放っている。関節部分が不気味に波打ち、形を変えているのが見えた。
「気をつけてください! あれは『液体金属』です!」
ミリアが警告を飛ばす。
「物理的な衝撃を吸収し、自己修復する厄介な素材です! 斬撃や銃弾では、すぐに再生されてしまいます! 厄介です!」
アリスの結界が、度重なる衝撃でミシミシと音を立てる。
液体金属の触手が、結界の隙間をこじ開けようと蠢く。
「くっ……! 数が多いよぉ!」
「自己修復機能が早すぎます! これではジリ貧です!」
二人が悲鳴を上げる。
わたしは、優雅に一歩、前に出た。
「下がっていなさい、二人とも」
わたしは鉄扇を開き、襲い来る鋼鉄の軍勢を見据えた。
「……野蛮、と言いましたわね?」
ヒュンッ!
風切り音と共に、先頭のロボットが「くの字」に折れ曲がって吹き飛んだ。
「躾のなっていない機械人形風情が……!」
わたしはステップを踏み、踊るように鉄扇を振るう。
ガギィッ! バキィッ! ドゴォォン!
ロボットのアームをへし折り、胴体を貫き、回し蹴りで装甲を粉砕する。
『無駄です! 液体金属の再生能力を……なっ!?』
デメテルの余裕の声が凍り付いた。
わたしに蹴り飛ばされたロボットが、再生するどころか、粉々になった破片のまま動かなくなったからだ。
再生しようとする金属の動きよりも早く、わたしの追撃がその核を叩き潰している。
「液体金属? 再生? ……ええ、知っていますわ」
わたしは鉄扇を閉じ、ピクリとも動かない残骸を踏みつけた。
「再生が追いつかないほどの速度と圧力で、分子結合ごと叩き潰せばいいだけの話でしょう? ……所詮は物質。壊れない物などありませんわ」
『な……っ!? 理論上不可能です! 私の警備ドローンが、生身の打撃で破壊されるなど……ありえません!』
「ありえますわよ。……これが、貴女が『野蛮』と見下した、人間の生命力(筋肉)ですわ!」
わたしは残骸の山の上に立ち、デメテルのホログラムを見上げた。
もののついでに破壊した警備員たちを足下の影に収納していく。あとで何かに使えるかもしれない。
「いいこと? 私たちはウィルスでも汚染物質でもない。……お腹を空かせた、ただの『お客様』よ」
わたしはニヤリと笑った。
「私の目的は、ここにある食材の回収。……大人しく冷蔵庫の鍵を開けるなら良し。開けないなら――」
わたしは鉄扇で、広場の奥にそびえる中枢タワーの方角を指し示した。
「ドアごとぶち破って、中身をいただきますわ!」
『……野蛮! やはり人間は危険です! 排除! 排除レベルを最大に引き上げます!』
デメテルが絶叫する。
警備ロボットたちが瓦礫と化し、物理攻撃が通じないと悟った彼女は、次なる手を打ってきた。
『警備システム、自律兵器群全滅。……プランBへ移行。バイオ・プラントの「実験体」を解放します』
ゴゴゴゴゴ……。
地面が揺れる。
広場の奥、緑色の光が漏れる「植物栽培区画」の隔壁が、重々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。
『貴女たちの命を養分として、私の可愛い子供たちを育ててあげましょう』
「あら。ロボットの次は、お花のお世話係ですの?」
わたしは身構えた。
だが、そこから現れたのは、可憐な花などではなかった。




