第145話 収穫祭(バトル)。大根もトマトも、全部鍋に放り込め!
植物栽培区画から現れたのは、異形の怪物たちだった。
ズシン、ズシン、と地響きを立てて行進してくるのは、大人の背丈ほどもある巨大な大根だ。
白い根っこが筋肉隆々の太い足のように進化し、地面を踏みしめるたびにムキムキと繊維が躍動している。頭部の葉っぱをライオンのたてがみのように振り乱しながら突進してくる。
その横には、棘の生えたツルを触手のように振り回す、真っ赤な人食いトマト。その表皮はパンパンに張り詰め、今にも破裂しそうだ。
さらに、巨大なカボチャが戦車のように突進し、空飛ぶニンニクがガスを撒き散らす。
そして、ドリル状に高速回転するトウモロコシの槍を持った、緑の巨人たち。
『古代バイオテクノロジーの結晶……「環境適応型・自律防衛植物」です』
デメテルの勝ち誇った声が響く。
『汚染された地上でも自力で生き抜き、外敵を排除するために攻撃性を強化された、最強の野菜たちです。……さあ、彼らの養分になりなさい! 行け、トマト兵器「アシッド・ルージュ」!』
デメテルの号令と共に、人食いトマトが身体を膨張させ、真っ赤な液体を噴射した。
ジュワァァァァッ!!
酸のシャワーがアリスの結界を直撃し、白煙を上げる。
一部が結界をすり抜け、アリスの足元に飛んだ。
「ひゃあああ!? さ、酸だぁぁ!?」
アリスが飛び退く。酸が落ちた床が、見るも無残に溶けている。
「あぶなっ! 危ないよ! この服、白いんだよ!? トマトのシミって落ちにくいんだからね!? クリーニング大変なんだよ!」
アリスが巫女服の裾を押さえて抗議する。
染み抜きの大変さを訴えるあたり、妙に所帯じみた悲鳴だ。
さらに、トウモロコシのドリルが床を抉る音が響く。
「なんてことを……!」
ミリアが眼鏡を光らせ、怒りに震えながら叫んだ。
「ここまで品種改良するなんて……! 野菜は食べるものです! 強酸を吐いたりドリルを生やしたりするなんて、食べ物に対する冒涜ですよ! 生産者の顔が見てみたいです!」
農家の娘としてのプライドと、科学者としての倫理観が同時に踏みにじられたミリアの怒りは凄まじい。
だが、デメテルも負けていない。
『失礼な! 冒涜ではありません、進化です! それに、我が子達はちゃんと食べられます!』
「食べられるんですか!?」
『当然です! 「アシッド・ルージュ」の酸も、加熱すればまろやかな酸味と甘みに変わるのです! ドリルトウモロコシも、高速回転による遠心力で糖度が増しているのです! 機能性と味を両立させた、完璧なデザインです!』
「な、なるほど……! 言われてみれば合理的かも……」
「納得している場合じゃありませんわよ」
わたしは呆れたように二人を制し、前に出た。
「でも、デメテルの言うことにも一理ありますわ」
「えっ、レヴィーネ様まで!?」
「だって、ご覧なさい」
わたしは、襲い来る大根の太い足をじっくりと観察した。
白く、瑞々しく、パンと張ったその魚体(野菜体)。
地面を蹴るたびに震えるその身は、水分と旨味が詰まっている証拠だ。
(……あの大根、煮込んだら絶対に美味しいわ)
人食いトマトの酸も、ドリルトウモロコシの回転も、全ては「美味しくなるための下ごしらえ」に思えてくる。
「……ふふ。ふふふふふ……」
わたしの口元から、自然と笑みがこぼれた。
そして、ジュルリ、と音がした。
『……? なぜ笑うのです? 恐怖で狂いましたか?』
デメテルが訝しげに問う。
わたしは鉄扇を仕舞い、代わりに「漆黒の玉座」を取り出した。
ズヌゥッ……。
ただし、今回はいつもの戦闘モードではない。
わたしは玉座を振りかぶりながら、叫んだ。
「狂ってなどいませんわ! ……歓喜しているのです!」
ドガァァァンッ!!
わたしは先頭の大根モンスターの脳天(葉っぱの付け根)に、玉座を振り下ろした。
大根が「ギャァァ!?」と断末魔を上げて倒れる。
そのまま、わたしは倒れた大根の皮を、椅子のパイプ部分で器用にこそぎ落とし始めた。
「見て! この瑞々しさ! このきめ細やかな繊維! ……攻撃するために進化したということは、それだけ『身が締まっている』ということですわ! 大地のエネルギーが詰まっています!」
『は……?』
「『暗闇の間』展開! これも収納! あっあれも収納!」
わたしは影魔法を展開すると、影の茨をありとあらゆるものに巻き付けては足下の影に放り込んでいく。
襲い来るトマトの触手を掴んで引きちぎり(収穫)、ドリルトウモロコシの回転に合わせて椅子を叩きつけ、実をバラバラにして(脱穀)、一粒残さず回収する。
気分はセレブによる大人買いだ。
「活きがいいですわね! さあ、もっと来なさい! 全部まとめて『おかず』にして差し上げます!」
『な……何をしているのですか!? 私の子供たちを……食材扱いするなんて!』
デメテルが狼狽する。
彼女にとって、これらは最強の防衛システムだったはずだ。それが、ただの「新鮮な野菜」として処理されている現実に、演算が追いつかないようだ。
「食材扱い? 失礼ね。……『ご馳走』扱いよ!」
わたしは巨大なカボチャの突進を片手で受け止め、そのままジャーマン・スープレックスで地面に叩きつけた。
パカッ、とカボチャが割れ、黄金色の中身が露出する。
「素晴らしい……。地上では見たこともない、濃厚な色と香り。……デメテル、貴女は天才よ! こんなに美味しそうな野菜を育てていたなんて!」
『て、天才……? 褒められている……? いや、否定! 私は貴女たちを排除するために……!』
「排除? 無理よ」
わたしは収穫した野菜を全て影に納め、椅子形状に展開した玉座に座り、不敵に笑った。
「食欲という本能を、恐怖ごときで止められると思って? ……さあ、道を開けなさい。次は『お肉』と『管理者権限』の番よ!」
圧倒的な「捕食者」としてのオーラ。
デメテルのホログラムが、恐怖に揺らいだ。
彼女は理解したのだ。
この女は、防衛システムでどうにかできる相手ではない。「食物連鎖の頂点」に立つ怪物なのだと。
わたしたちは呆然とするデメテルを尻目に、都市の中枢――管理タワーの最上階へと足を踏み入れた。




