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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第141話 タクシーを壊した罪は重い! 機械龍の鼻先を「玉座」で殴打!

「誤差……ですって? 人の『足』を奪っておいて、よくそんな台詞が吐けますわね?」


『……事実だ。汝らの武勇も意志も、この惑星規模の監視機構においては数値化すら不要な、微細な揺らぎに過ぎない。……待機空間へ帰還する』


 機械龍はそれだけ告げると、再び巨体を翻した。


 ブチッ。


 わたしの中で、理性の糸が完全に弾けた。


「……誰が『行ってよし』と言いましたの? 新しく呼び直すまでもありませんわ。――ここに大きな『足』があるじゃありませんの?」


 わたしは、自身の足元――影が伸びる岩肌へと視線を落とした。


 淑女の笑みを捨て、悪役(ヒール)の顔で。


 わたしは右手を、自身の影の中へとゆっくりと沈めていく。


 ズブブ……と、底なし沼のような感触。


 その奥底、「暗闇の間」の最深部に鎮座する、絶対的な質量と冷たさを鷲掴みにする。


「責任、取っていただきますわよ!!」


 わたしの怒声に、上昇しかけていた機械龍がピタリと止まった。


 そして、わたしは影から「相棒」を――一気に引き抜いた。


 ズヌゥッ……!


 重苦しい、何かが空間を擦るような音と共に引きずり出されたのは、光さえも吸い込む深淵の黒。


 ガチャリ、と重厚な駆動音を立てて展開したそれは、ドワーフのロストテクノロジー『黒鋼(クロムアダマン)』で構成された鈍器――『漆黒の玉座(オリジン)』だ。


 ドォォン!!


 わたしが岬の岩盤に「玉座」を据えると、地面がその質量に耐えかねて派手な音を立てて沈み込んだ。


漆黒の玉座(オリジン)』を携えたわたしは、上空の巨大な頭部を睨みつける。


 ゴゥゥゥン……。


 巨大な質量が、再びゆっくりと降下してきた。


 雲を払い、600メートルの巨躯を蛇のように曲げ、その巨大な頭部を、わたしの目の前――触れんばかりの至近距離まで近づけてきたのだ。


『…………』


 赤い複眼が、わたしと、わたしの横に鎮座する黒い鉄塊を、じろじろと捕捉しスキャンする。


 値踏み。品定め。


 数秒の沈黙の後、機械龍は排気口からプシューッという音を漏らした。


『……解析。材質、高密度質量体――黒鋼(クロムアダマン)か。……だが、無意味だ。その物体を含めたとしても、貴様の存在になど何の影響力もない。所詮は「誤差」だ』


 丁寧に確認し、その武器が希少金属の塊であることすら見抜いた上で、それでもなお「ゴミ」だと断じたのだ。


 完全なる侮蔑。絶対強者の余裕。


「……へぇ。これを含めても誤差、ですか。……そうですか」


 全身の筋肉が軋みを上げ、魔力が沸騰する。


 わたしは笑った。獰猛に、凶悪に。


 二度の生を駆け抜け、この世界で積み上げてきた全てを今、この一瞬に集束させる。


「だったら――その『誤差』の痛みを、骨の髄まで教えてあげますわッッッ!!!!」


 ドォォンッ!!!


 わたしは地面を力強く蹴り、跳躍した。


 身体強化の爆発力を足場に、空を蹴り、嘲笑う機械龍の鼻先へと肉薄する。


『――明確な敵意を確認。……無駄なコストだ』


 機械龍の周囲に、対・塵埃用の自動防御障壁(パッシブ・シールド)が展開される。


 蚊が止まった程度の認識。


 だが、わたしの相棒は、その瞬間に未知の輝きを放った。


 ゴォォォォォ……!!


 わたしの底なしの魔力が、パイプ椅子の黒いフレームへと吸い込まれていく。


 限界という概念を力尽くで書き換えるような、かつてない高密度の身体強化。


 鋼を凌駕する筋繊維が、黒鋼の椅子を「質量そのもの」へと変貌させる。


「うおおおおおおおおおッッ!!!」


 渾身のスイング。


 ガギィィィッ……!!


 激突した椅子が、機械龍のパッシブバリアに阻まれる。


 だが、止まらない。


 ギシギシ……ミシミシッ……!!


 力場と鉄塊が激突し、火花を散らしながら、空間そのものを削り取るような異音を上げる。


 数秒、いや数分にも感じられる拮抗。


 わたしの全身の血管が、魔力の奔流で焼き切れそうになる。


「貫けぇぇぇッ!!!!」


 わたしの絶叫が爆発した。


 バキィィィィンッ!!!


 絶対防御であるはずの障壁が、ついに耐えきれず、鏡のように砕け散った。


 勢いそのままに、パイプ椅子の先端が、機械龍の白銀の装甲へと深々とめり込む。


 ドゴォオオオオオオオオオオオンッッ!!!!


 600メートルの巨躯が、一人の少女の打撃によって、わずかに、けれど確実に「のけぞった」。


 衝撃波が雲海を割り、遥か彼方の水平線まで海面を切り裂いていく。


「ああっ! かなりの確率でやるとは思っていましたけど!」


「許可もらったのに! レヴィちゃんのおばかー! 戦闘民族! 悪役(ヒール)令嬢!」


 下方から聞こえる二人の悲鳴交じりのツッコミを背に受けながら、わたしは着地した。


「……はぁ、……はぁ、……ッ」


 足元が揺らぐ。


 魔力も気力も、全てを使い果たした一撃。


 膝が笑い、視界がチカチカと明滅する。今にもフラつきそうになる身体を、わたしは悪役(ヒール)の矜持だけで繋ぎ止めた。


 震えそうになる足に、残った全気力で「立て」と命じる。


 一歩も退かず、一点の曇りもない傲慢な笑みを湛えたまま、わたしはのけぞった機神を見上げた。


「……言ったはずよ。わたしが、最大の戦力だと。……測定外? 誤差? 笑わせないでくださる?」


 わたしは椅子を担ぎ直し、凹んだ機械龍の鼻先をコツコツと叩いた。


「さあ、責任を取っていただきますわよ」


 不敵に睨みつけるわたしの渾身の一撃。これまでの敵なら例外なく消滅していたはずの一撃だ。


 だが、機械龍は――傷つきはしたものの、依然として圧倒的な威容を保ったまま、静かにこちらを見下ろしていた。


 一撃を入れさせることはできても、倒すことなど遥か彼方。


 それが、開発者が用意した「監視者」という存在の、絶望的なまでの強大さだった。


『……照会。脅威判定……個の武勇。……「誤差」の範疇を逸脱。測定不能なイレギュラーとして新規認定』


 機械龍の瞳が、激しく明滅する。


 それは機械的な処理落ちではなく、AIが初めて「未知」に遭遇した際の、強烈な演算の嵐。


『……興味深い。開拓者レヴィーネ・ヴィータヴェン。汝の行動は、論理的予測を全て破壊した。……要求を受諾する。被害を最小限に抑えるための最適解を選択』


 プシュウゥゥゥ……。


 機械龍の背中の装甲が重厚な音を立ててスライドし、巨大な格納庫へのハッチが開いた。


「……ふん。物わかりがよろしくて大変結構ですわね?」


 わたしは満足げに頷き、下方にある結界の中で待つアリスたちに手を振った。


 立っているのがやっとだが、声だけは堂々と響かせる。


「行きましょう、アリス、ミリア! ……新しい『タクシー』の到着よ!」


 こうして。


 空の番人を物理的に「屈服」させ、あまつさえ移動手段(『足』)にしたわたしたちは、ついに天蓋の揺り籠へと向かうことになったのだった。


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