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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第140話 眼光だけで島が沈む!? 規格外の「査定」開始。

 タネガシマの上空を塞ぐ、全長600メートルはあろうかという巨体。


 その赤い複眼が、豆粒のようなわたしたちを捕捉した瞬間だった。


『――警告。排除対象を捕捉』


 カッ! と目が光った。


 直後、凄まじい「重力」が島全体を襲った。


 ズズンッ……!!


 物理的な攻撃ではない。ただの「視線(スキャン)」だ。


 だが、その眼圧だけで、わたしたちが立っていた岬の地面が数メートル陥没し、周囲の海面が爆ぜた。


「きゃあああ!? なにこれ、体が潰れちゃうよぉぉ!!」


 アリスが悲鳴を上げながら、慌てて杖を掲げる。


 金色の魔力が瞬時に広がり、彼女と、その隣にいたミリアを包み込む。


「アリス、ミリアとあなただけに結界を集中させて耐えなさい。わたしは大丈夫だから!」


 わたしの言葉に、アリスは驚愕の表情を浮かべた。


「ええっ!? でもレヴィちゃん、生身でこれを受けたら――」


「言ったでしょう? 心配いりませんわ」


 わたしは結界の範囲から悠然と一歩踏み出し、機械龍の視線のド真ん中に立った。


 全身の筋肉を硬化させ、骨格を魔力で補強し、重力波を「物理的に」受け流す。


 足元の岩盤がミシミシと砕けていくが、わたしの背筋は一本の鋼鉄のように真っ直ぐに伸びたまま、涼しい顔で上空を見上げた。


 改めて見れば、現れたのは生物ではなかった。


 その偉容は、生命の姿から大きく逸脱している。


 流体金属のような滑らかな装甲。背中から噴出する幾何学的な光の翼。


 それは、神話に語られる『機械龍』――あるいは『機神』と呼ぶべき、圧倒的な威圧感の塊だった。


「……あら、随分と手荒な『視線』ですこと。挨拶もなしにジロジロ見るなんて、躾がなっていなくてよ?」


『……? 圧力耐性、閾値を突破。……思考プロセス変更。問おう』


 機械龍がわずかに降下し、その巨大な顔を岬の先端に立つわたしたちへ近づけてきた。


 物理的な排除から、対話による「審判」へと切り替えたのだ。


『問う。何故、空を望む? 空を制すれば、地上のあらゆる場所へ攻撃が可能となる。汝もまた、高みからの「支配」を望むか?』


「支配? ……ハッ、くだらない!」


 わたしは鉄扇で重圧を払い退け、鼻で笑った。


 そんな陳腐な野望と一緒にされるのは心外だ。


 これの前に、わたしは自分の中にあった疑問と解釈を、この機械のような存在にぶつけることにした。


「そもそも、空にある『天蓋の揺り籠』とやらは、地上が住めなくなった場合のための避難施設なのでしょう? だからこそ、『一切の対地武装をしない』ことを条件に、浮上を許された。かつての文明が犯した過ち。その制約こそが、この静止軌道の(ことわり)だわ」


 わたしの指摘に、機械龍は無機質な音声を返した。


『肯定。……天上の観測衛星(アルゴス)が許容されているのも同じ理由。我は開発者(創造神)によって作られた、空を守る番人にして監視者。天蓋や衛星より地上への攻撃がなされた場合、それを無力化し、破壊するのが役割だ』


 機械龍の言葉に、わたしは頷いた。


 やはり、そうだ。こいつはただの怪物ではない。この世界の「安全装置(システム)」なのだ。


「あなたが警戒しているのは、高高度爆撃や大陸間弾道ミサイルといった、種を絶滅させかねない『破滅的な技術』の進歩。……開発者(創造神)とやらは、好奇心や開拓者精神そのものを否定しているわけではないはずよ。鳥人族の飛翔や魔法による飛行を制限していないのがその証拠だわ」


『……然り。汝らが望む先に、根絶やしレベルの大陸間戦争が起こるのであれば、本末転倒。ならばと制約として我を置いた。……故に問う。汝が空を望む理由は何か。その力で、何を成す?』


 機械龍の複眼が、わたしを射抜く。


 ここからが本番だ。魂の質を問う「試問(リドル)」。


「事情は色々とございますけれど、簡潔にまとめれば……『食事』のためですわ」


『……食事? 栄養摂取のことか?』


 機械龍がわずかに首を傾げたように見えた。


 わたしは鉄扇をパチンと鳴らし、眼下に広がる地上の「既得権益」を指差した。


「ええ。つい先日のことですわ。地上の浅ましい商人たちが、(わたくし)の船を止めようと、理不尽な規約で道を塞いできましたの。海も、陸も、小賢しい理屈や手垢にまみれて狭すぎるのです。だから、空を望むのよ」


 思い出しても腹が立つ。あのロックウェルとかいう狸の顔が脳裏をよぎり、わたしはギリリと鉄扇を握りしめた。


「空なら、誰にも邪魔をされずに、世界中の美味を最速で求めることができる……なにか間違っていて? 既得権益も、国境も、関税もない。馬鹿どもが手の届かない高さにある、最速で、最短で、真っ直ぐな『(わたくし)だけの道』。それを切り拓きたい。ただそれだけですわ!」


『……解析。地上の経済摩擦および腐敗した社会システムからの「離脱(エスケープ)」。……極めて利己的だが、「地上の支配」とは対極にある』


 機械龍の瞳の明滅速度が変わる。第一段階はクリアしたようだ。


 だが、すぐに次の問いが飛んでくる。


『問う。……汝が力を持てば、争いは生まれる。戦となれば、空からの武力を行使するか?』


「まさか。そんな無粋な真似、いたしませんわ」


 わたしは自分の拳を握りしめ、不敵に笑った。


「そんなもの、私一人でなんとかしますわ。……わたしが最大の戦力であり、最小の戦力ですもの。わざわざ空から爆撃などせずとも、直接乗り込んでへし折った方が、よほど早くて確実ですわよ?」


 一人で完結する武力。それはシステム側からすれば、最も管理しやすい「誤差」の範疇に見えたのかもしれない。


『……個への武力集約。戦略兵器の否定。……では問う。その力、未来永劫に渡り管理できるか? 汝の子孫が空を悪用せぬ保証は?』


 機械龍は、わたしの未来を透かそうとするかのように視線を強める。


「今のところ結婚は考えていませんわ!」


 わたしは即答した。


 色恋沙汰より、今は美味しいご飯と冒険の方が大事だ。


『……生殖本能の欠如、あるいは保留。理解不能だが、リスク評価は低下した。……問う。随伴個体らよ。汝らもまた、この「特異者(イレギュラー)」と共に、世界の理から外れる覚悟があるか?』


 機械龍の問いに、ミリアがアリスの結界の中から身を乗り出し、眼鏡の奥の瞳で機械龍を睨み返した。


「レヴィーネ様の覚悟が、私の覚悟です! この方が切り拓く未来こそが、私の投資すべき全てですから!」


 ミリアの言葉に続き、アリスも杖を掲げて叫んだ。


「私もだよ! 世界中の子どもたちに笑顔と温もりを届けるのが、私の覚悟だよ! そのためなら、どんな理不尽だって踏み越えていくよ!」


 二人の言葉を聞き、わたしは満足げに頷いた。


 迷いのない、共犯者たちの声。


「聞いたかしら? それに……『消滅させる』ですって? やれるものならやってみなさい。その思い上がり、叩き潰してあげますわ」


『……その傲慢さに、後悔はないか?』


「傲慢でなくて、悪役(ヒール)はつとまりませんわ!!」


 わたしの啖呵が、タネガシマの空に響き渡った。


 数秒の沈黙。


 やがて、機械龍の赤い複眼が、鮮やかな青色へと変化した。


『――認証(アクセス)完了(グランテッド)


 機械龍の周囲に展開されていた重力場が霧散した。


 システム音声が、事務的に告げる。


『合格。認定カテゴリ:「開拓者(パイオニア)」。……空域封鎖、解除。対象に対し、高度制限の撤廃、および座標ポイント「天蓋の揺り籠」への接近を許可する』


「……は?」


 あまりのあっけなさに、わたしは拍子抜けした。


 機械龍は「許可」を告げると、興味を失ったように高度を上げ、再び雲の中へ帰ろうとしている。


 まるで、検問でパスポートを確認した警備兵が、「通ってよし」と手を振るような素っ気なさだ。


「……ちょっと、待ちなさい」


 わたしは慌てて声を張り上げた。


 このまま行かせるわけにはいかない。


「待ちなさいと言っていますの! ……『許可』は分かりましたけれど、(わたくし)の『足』を奪っておいて、どの面下げて帰るつもりですの!?」


 そう。コイツは登場と同時に、せっかくビーコンで呼び出した「お迎え」を塵一つ残さず消滅させているのだ。


『照会。……当該機は、未確認対象への警告射撃により消去した。当機の管轄は「空域防衛」のみであり、「輸送」および「損害賠償」は管轄外だ。自力で向かうか、再度ビーコンで呼び直すがいい。……開発者は開拓者の歓迎を受けるが、個人の移動コストなど、我が監視システムにおいては「誤差」に過ぎん』


 あまりにも官僚的な答え。


 わたしはピキリとこめかみを引きつらせた。


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