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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第138話 通信塔起動! 空を貫く光の槍が、扉を叩く!。

 トヨノクニ南端、タネガシマ。


 かつては鉄砲伝来の地として、あるいは海賊たちの巣窟として知られたその島に、漆黒の巨船『ヴィータヴェン号』が接岸した。


 上陸するや否や、わたしは島の南岸――「空」への視界が最も開けた岬に陣取った。


 そこには、かつてここを拠点としていた海賊の残党たちが、錆びた剣や槍を構えて待ち構えていた。


「おいこらァ! どこのどいつか知らねぇが、ここを誰の島だと思って……」


 海賊の頭らしき男が怒鳴る。


 だが、わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかな視線を投げかけただけだった。


「……うるさいわね。工事の邪魔よ」


「あぁ!?」


「聞こえなくて? 今日からここは、私の庭になりますの。……立ち退き料代わりの手切れ金は払ってあげますから、さっさと出てお行きなさい」


 わたしは懐から革袋を取り出し、無造作に放り投げた。


 中には、彼らが一生遊んで暮らせるほどの金貨が入っている。


 だが、海賊たちのプライドがそれを許さなかったらしい。


「ふ、ふざけるな! 俺たちを金で買おうってのか! 野郎ども、やっちまえ!!」


 襲いかかる海賊たち。


 わたしはため息をつき、近くにあった岩――大人の背丈ほどある巨岩に手をかけた。


「……久しぶりの現場仕事ですもの。準備運動にはちょうどいいかしら」


 ズズズッ……バキィッ!!!


 わたしは巨岩を「引っこ抜いた」。


 地面から根こそぎ剥がし取られた数トンの岩塊を、片手で軽々と持ち上げる。


「な……ッ!?」


 海賊たちが凍り付く。


 わたしはニッコリと微笑み、


整地(物理)!!」


 ドォォォォォォォォォォンッ!!!


 岩を、海賊たちの目の前の地面に叩きつけた。


 地響きと共に土砂が舞い上がり、衝撃波で海賊たちが木の葉のように吹き飛ぶ。


 岬の地形が変わった。


「ひ、ひぃぃぃッ!?」


「ば、化け物だぁぁぁ!!」


 腰を抜かす男たちに、わたしは岩の上に座って足を組み、静かに告げた。


「……聞き分けのない人たちね。いいこと? これはあなた達のためを思って言っているのよ」


 わたしの声から、笑色が消える。


「ここから先、この場所は『戦場』になりますわ。……相手は人間でも、魔獣でも、国ですらない。とんでもない相手とやり合うことになるかもしれない」


 空を見上げる。


 蒼穹の彼方、不可視の領域にいる「番人」。


「わたしだって、勝てるかどうかわからない。……国の一つや二つ、簡単に地図から消し飛ばすような相手が来るかもしれないの。巻き込まれたら、その程度の強さじゃ灰も残らないわよ?」


 わたしの真剣な眼差しに、海賊の頭が息を呑んだ。


 ただの脅しではない。絶対強者が抱く、本物の危機感を感じ取ったのだろう。


「……あ、あんた、本気で言ってやがるのか……?」


「ええ。だから金を持って消えなさい。……命があるうちにね」


 海賊たちは顔を見合わせ、そして脱兎のごとく逃げ出した。金貨の袋をしっかりと抱えて。


 誰もいなくなった岬で、わたしは鉄扇を開いた。


「さあ、邪魔者は消えました。……始めますわよ!」


 そこからは、早かった。


 ガンテツとギエモンがヴィータヴェン号から資材を運び出し、ミリアが図面を展開する。


 そしてわたしが、杭を打ち(素手で)、鉄骨を曲げ(素手で)、基礎を固める(足踏みで)。


 数日後。


 何もない荒れ地だった岬には、空を突くような巨大な「通信塔」が完成していた。


 オワリ城の放送設備をベースに、イリスの演算ユニットを直結し、魔力増幅炉を組み込んだ、対・天空用ビーコン発信機だ。


「……ふぅ。いい汗かきましたわ」


 わたしはタオルで汗を拭い、完成した塔を見上げた。


 準備は整った。


 あとは、スイッチを押すだけだ。


 だが、その前に――やらなければならないことがある。


 わたしは、通信機でリョウマを呼び出した。


「リョウマ。……迎えに来て頂戴」



 ◆◆◆



 翌日。


 リョウマの船がタネガシマに到着した。


 わたしは、作業を終えて泥だらけになったガンテツとギエモンを呼び出した。


「ご苦労様。……あなた達の仕事はここまでよ。リョウマの船で、オワリへ帰りなさい」


「なっ!?」


 ガンテツが目を剥いた。


「お嬢、何言ってやがる! これからが本番だろうが! ビーコンが動くかどうかも、お迎えが来るかどうかも、わしらがついてねぇと……」


「いいえ。ここから先は、技術者の領分じゃないわ」


 わたしは首を横に振った。


「この塔は、ただの『呼び鈴』よ。……ピンポンを押して、出てくるのが親切なタクシーならいいけれど、いきなり極大ブレスを吐く猛獣かもしれない」


「だ、だからこそ、わしらが……!」


「ダメよ」


 ガンテツが食い下がるが、わたしはピシャリと遮った。


「あなた達は『国の宝』よ。トヨノクニの未来を作る手なの。……わたしの勝手な冒険に巻き込んで、失うわけにはいかないわ」


「大将……」


「海賊にも言ったけれど、本当に危険かもしれないの。……ガンテツ、ギエモン。オワリで待っていなさい。何事もなく空まで行けちゃったら、とびきりのお土産を持って帰ってくるから」


 わたしは二人の職人の目を真っ直ぐに見つめ、諭すように言った。


「……わかった。そこまで言うなら、大将の勘を信じるぜ」


「死ぬなよ、レヴィーネ様。……あんたがいなくなったら、誰がわしらの作ったモンを豪快に使ってくれるんじゃ」


 二人を見送り、船が見えなくなるまで手を振った。


 そして。


 わたしは振り返り、後ろに控えていた二人――ミリアとアリスに向き直った。


「……さあ、次はあなた達よ」


 その言葉に、二人の表情が強張った。



 ◆◆◆



「……あなた達も、島を離れなさい」


 タネガシマに吹き荒れる海風の中で、わたしの声は冷たく響いた。


「ビーコンを出したら、あとは野となれ山となれよ。……アリスの『光の繭』の術式は、魔石に登録してもらったわ。ミリアの計算式も、イリスにインストール済みよ」


 わたしは二人から視線を逸らし、空を見上げた。


「あとは、(わたくし)一人でなんとかするわ」


「……何とかするって、どうやってですか?」


 ミリアが、静かだが怒りを孕んだ声で問い返す。


「国を一つ焼いて潰すような『システム』が相手になるかもしれないのでしょう? レヴィーネ様といえど、無事で済む保証なんて……」


「ないわよ。だから逃げろと言っているの」


 わたしはぴしゃりと言い放ち、二人を睨んだ。


「あなた達、怖くないの? 死ぬかもしれないのよ?」


 イリスの試算では、ドラゴンの迎撃能力は未知数。最悪の場合、島ごと消滅させられる可能性だってある。


 けれど。


「怖くなんて、ありません!」


 ミリアが一歩、前に出た。


 いつも冷静沈着な彼女が、眼鏡の奥の瞳を潤ませ、声を張り上げた。


「そんなのが相手になったとしても……レヴィーネ様の(そば)こそが、この世界で最高の安全圏です!!」


「ミリア……」


「私はV&C商会の社長です。社長が、会長(オーナー)の危機に逃げ出すなんてありえません! それに……もしレヴィーネ様がいなくなったら、誰がこの国の経済を回すんですか! 誰が無茶な発注をして、私を困らせてくれるんですか!」


 彼女は胸に手を当て、毅然と言った。


「私は離れません。……地獄の底でも、空の果てでも、お供します」


 その揺るぎない忠誠心に、わたしは言葉を詰まらせた。


 と、その横から。


 ペチッ、と軽い音がして、杖の先がわたしの脇腹を突っついた。


「……で、アリス。あんたも……」


「痛いのは嫌だよ?」


 アリスがあっけらかんと言った。


「寒いのも嫌だし、怖いのも嫌。……できればこたつで蜜柑食べてたい」


「なら……」


「でーも! 置いていかれるのは、もっと嫌だよ!!」


 アリスは頬を膨らませ、わたしの顔を覗き込んだ。


「あのね、レヴィちゃん。もしレヴィちゃん一人で行ってみなよ。……絶対、ろくなことにならないから」


「失礼ね。わたし一人でも……」


「無理無理。絶対、空の遺跡についた瞬間に『あら、邪魔な壁ですわね』って破壊して、貴重な古代遺産をガラクタにしちゃうでしょ?」


「う……」


「それに、もしすごい絶景があっても、一人じゃ写真も撮れないじゃん。……『わぁ、綺麗!』って言い合える相手がいなかったら、どんな景色もただの背景だよ?」


 アリスはにへへと笑い、わたしの腕に抱きついた。


「私はレヴィちゃんの相棒(バディ)だよ? 共犯者だよ? ……レヴィちゃんが暴走しないようにブレーキ踏んで、レヴィちゃんが寂しくないように騒ぐのが、私の役目でしょ」


「アリス……」


「それにね。……私の新しい魔法『光の繭(ルミナス・コクーン)』は、レヴィちゃんを守るために編んだんだよ? 本人がいないで、どうやって使うのさ」


 彼女は空を見上げた。


「世界中の子供たちに笑顔と温もりを届けるのが、アイドル聖女の覚悟だよ。……そのためなら、空の大家さんくらい、物理込みの笑顔で説得してみせるよ!」


 二人の瞳を見る。


 そこには、恐怖よりも強い、信頼と覚悟が宿っていた。


……ああ、本当に。


 わたしは、とんでもない部下と相棒を持ってしまったものだ。


「……はぁ。わかったわよ」


 わたしは降参するように両手を上げた。


 そして、ニヤリと不敵に笑う。


「後悔しても知らないわよ? ……地獄だろうが、宇宙(そら)だろうが、付き合ってもらうわ」


「「はいっ!!」」


 二人の返事が重なる。


 わたしは通信塔の基部に設置された、巨大なレバーに手をかけた。


「さあ、覚悟を決めなさい! ……お迎えのタクシーを呼ぶわよ!」


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