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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第137話 職人たちの魂。……必ず生きて帰ってこい、大将!

 それから、数ヶ月後。


 季節は巡り、冬の気配が近づく頃。


 オワリの港から、一隻の巨船が出港しようとしていた。


 回収を終え、さらなる改造を施されるのを待つ『魔導戦艦ヴィータヴェン号』だ。


 甲板には、拉致同然に連行され、開発機材の山に埋もれたガンテツとギエモンの姿。


 そして、潮風に髪をなびかせる、わたしとアリス、ミリアの姿があった。


「いよいよだね、レヴィちゃん」


 アリスが、遠ざかるオワリの街並みを見つめて言った。


「うん。……タネガシマかぁ。前世だとロケットの発射場があった場所だよね。……なんか、運命感じるなぁ」


「ロケット? ……ふふ、あながち間違いじゃないわね」


 わたしは、南の空を見上げた。


「わたしたちも、ここから()を目指すのだから」


『ヌゥォオオオォォォォォン…………!!』


 船が汽笛を鳴らす。


 目指すは南の孤島、タネガシマ。


 そこで、神話の空へと続く扉をこじ開けるのだ。


「全速前進! ……さあ、忙しくなるわよ!」


 こうして、トヨノクニの歴史に残る一大プロジェクト――前人未到の、空への挑戦が幕を開けたのだった。



 ◆◆◆



 種子島への出航準備が進む中、オワリ城の地下深くにある書庫室と、遥か上空の霊峰では、二つの「攻略準備」が進行していた。


 ◆オワリ城・地下大書庫◆


 静寂に包まれた書庫で、ミリア・コーンフィールドは、宙に浮かぶ無数の光のウィンドウと格闘していた。


 彼女の目の前には、古代知性体(人工知能)イリスが世界中の伝承や神話を検索し、表示させた膨大なデータが並んでいる。


「……やはり。ただの『おとぎ話』で片付けるには、符合しすぎています」


 ミリアが眼鏡を押し上げ、呟いた。


 イリスが、無機質な声で解析結果を読み上げる。


『報告。世界各地に残る「ドラゴン」に関する伝承の共通項を抽出。


 ケースA:「鉄の巨人を操り、天を侵そうとした帝国が、一夜にして滅び去った」


 ケースB:「太陽を掴もうと高く飛びすぎた翼人が、ドラゴンの息吹で焼かれた」


 ケースC:「星の海から災厄が降った日、黄金の竜が飛来し、災厄を噛み砕いた」』


「……なるほど。これを『防衛システム』の挙動として翻訳すると……」


 ミリアは素早くメモを取る。


「ケースAは、軍事レベルが閾値を超えた文明に対する『軌道上からの広域殲滅(パージ)』。


 ケースBは、許可なき領空侵犯に対する『自動迎撃(インターセプト)』。


 ケースCは、隕石などの外部脅威に対する『惑星防衛機構(ガーディアン)』としての行動……」


 ミリアはペンを置き、戦慄した。


「……奴らは生物ではありませんね。星を守るために設定された、情け容赦のない『過剰防衛プログラム』です」


『肯定。彼らの判断基準に「感情」や「交渉」は介在しません。……我々が「空へ行く」という行為が、彼らの定める「侵犯」のラインを超えた瞬間、問答無用で排除行動が開始されます』


「……厄介ですね。ですが、敵の正体(アルゴリズム)が見えれば、対策も立てられます」


 ミリアはニヤリと笑った。


 相手がシステムなら、その「判定基準」を逆手に取ればいい。


 破壊者ではなく、秩序ある訪問者だと認識させるための「証明書」が必要だ。


「レヴィーネ様にお伝えしなくては。……物理的な『挨拶』の準備だけでは足りないかもしれません、と」



 ◆霊峰フガク・山頂◆


 一方その頃。


 トヨノクニ最高峰、霊峰フガクの頂上は、猛烈な吹雪に包まれていた。


 気温はマイナス30度を下回り、酸素は地上の半分以下。


 生物の生存を許さない死の世界で、アリスはガタガタと震えながら杖を握りしめていた。


「うぅ……精霊魔法のイメージができないよぉ……! 寒すぎて頭が回らない……!」


 アリスの悲痛な叫びが、暴風にかき消される。


 その隣で、薄着のまま涼しい顔をしているのは、エルフの女王エルウィンだ。


「甘えるでない。……精霊を友とし、自然と一体化するエルフならぬヒューマンが、精霊魔法を使おうなどと……本来なら100年の修練が必要な道ぞ?」


 エルウィンは呆れたように肩をすくめた。


 アリスが彼女に弟子入りを志願したのは数日前。「レヴィちゃんを守るための宇宙服(結界)を作りたい」という無茶な願いを叶えるためだ。


「で、でもぉ……私、龍脈の神様たちとはお話しできるのになぁ……」


 アリスが涙目で呟く。


 その言葉に、エルウィンの眉がピクリと動いた。


「……なんじゃと?」


「え? だから、各地の神社の神様とか……お供え物すると、喜んで声が聞こえるし……」


「……ほう」


 エルウィンは興味深そうに目を細めた。


 この世界の神話体系において、龍脈に繋がる「土地神」とは、長い年月を経て人々の信仰を集め、神格を得た高位の「精霊」そのものである。


「なるほどな。……お主、無自覚に精霊の王クラスとコネを作っておったのか」


 エルウィンは口元を緩め、そしてアリスの背中を杖で小突いた。


「ならば、素養はあるかもしれんの。……ここへ連れてきた意味もあろうというものじゃ」


「えっ? どういうこと?」


「ほれ、集中せよ。……今の状況で、お主に足りないものはなんじゃ?」


 エルウィンが問う。


 アリスは必死に意識を保ちながら考えた。


 寒い。息が苦しい。肌が痛い。


 足りないもの。


 温もり。酸素。優しい空気。……生存するために必要な、あらゆる要素。


「……熱が、空気が……欲しい……」


「願うだけでは届かんぞ。……呼び寄せるのじゃ。お主が縁を結んできた、あやつらを」


 アリスは目を閉じた。


 意識を内側へ、そして足元の大地へと沈めていく。


 思い浮かべるのは、神の姿ではない。


 これまでの旅の記憶だ。


 荒れ果てた神社で、おにぎりを供えた日。


 デコトラのステージで、サイリウムの光を浴びて歌った夜。


 アリス乳業の牛乳を飲んで、笑顔になった子供たちの顔。


『ありがとう、聖女様』


『美味かったぞ、巫女よ』


 無数の声が、光の粒となってアリスの脳裏に浮かぶ。


 西国から始まり、フガクでの儀式、そして全国津々浦々への行商とライブツアー。


 彼女が「推し活」として広めてきたネットワークは、いつしかトヨノクニ全土の龍脈を繋ぐ、巨大な魔力回路(パス)となっていたのだ。


「……お願い。……少しずつ、御力をお貸しください……」


 アリスが祈る。


 自分のためではない。


 無茶ばかりする親友(レヴィーネ)のため。


 そして、まだ手が届かぬ空の下で、飢えと絶望に晒されているかもしれない子供たちのために。


 その「願い」が回路に接続された、その瞬間。


 ドクンッ!!


 アリスの身体を、奔流が駆け抜けた。


 風の神が、空気を運ぶ。


 火の神が、熱を与える。


 水の神が、潤いを保つ。


 全国の土地神(精霊)たちが、アリスという端末を通じて、その力をフガクの頂上へ一斉に送り込んできたのだ。


「あ……あったかい……」


 カァァァッ!!


 アリスを中心に、黄金色の結界が展開された。


 吹雪が遮断されるのではない。結界の内部だけが、春の陽だまりのように書き換えられていく。


 循環する空気。適度な湿度。心地よい温度。


 それは、「拒絶」ではなく「調和」によって生み出された、完全な生存圏。


「……できた。……『光の繭(ルミナス・コクーン)』……!」


 アリスが目を開ける。その瞳は、神々しい光を帯びていた。


 それを見ていたエルウィンが、呆れたように、しかし感嘆の吐息を漏らした。


「……人の身で、こうまで神格を得た精霊達と親しむか。……いや、これもトヨノクニという特異点であるからかや……?」


 信仰という名の「推し活」が、種族の壁を超えて精霊を動かした。


 この国だからこそ起きた奇跡。


「合格じゃ、アリス。……それならば、空の果てでも、お主の『()』は届くじゃろう」



 ◆◆◆



 そして、出航の日。


 オワリの港に、準備を終えたミリアとアリスが戻ってきた。


「レヴィーネ様! 敵の正体、割れました! 奴らは『星の免疫システム』です!」


「レヴィちゃん! 私、宇宙服(結界)編めたよ! これで宇宙でもお茶が飲めるよ!」


 頼もしい(そして少しズレた)報告を持って駆け寄る二人を、わたしは「漆黒の玉座」に座って出迎えた。


「……ふふ。上出来ね」


 わたしは鉄扇を開き、南の空を指し示した。


「敵の正体もわかった。守りも固まった。……なら、あとは『礼儀正しく』玄関を叩くだけね」


 わたしは獰猛に笑った。


「行くわよ、種子島へ! ……空の大家さんに、入居の挨拶(物理)をしにね!」


 最強の布陣が整った。


 ヴィータヴェン号が汽笛を鳴らし、海を割って進み出す。


 目指すは最南端の島。そして、その遙か上空へ。


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