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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第136話 タネガシマにて、空へのノック! 来たれ、未知なる来訪者!

 方針は決まった。


 次は具体的な「手段」と「場所」の選定だ。


 わたしはサーバールームのホワイトボード(兼・投影スクリーン)の前に立ち、矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「まずは『ビーコン』そのものについてよ。イリス、設計図の解析状況は?」


『報告。基本構造の解析は完了しました。……原理としては、特定の「魔力波長」に、膨大な情報量の「言語データ」を圧縮して乗せ、指向性を持たせて射出するものです』


「言語データの圧縮?」


『はい。人間が詠唱すれば数十分かかる長大な「起動呪文(パスコード)」を、魔導的な変調によって一瞬の「パルス信号」に圧縮しています。……レヴィーネ様の記憶――地球で言うところの、ダイヤルアップ接続時のモデム音や、QRコードに近い概念です』


「なるほど。ピーヒョロロってわけね」


 わたしは納得した。


 要するに、空に向かって超高速の早口言葉(データ)を叫ぶ拡声器を作ればいいわけだ。


「装置自体は、城の放送設備を改造すれば作れそうですね。……問題は出力ですが」


 ミリアが計算機を叩きながら補足する。


「成層圏まで届かせるとなると、城の全魔力を回しても足りません。……それに、場所の問題もあります」


「ええ。ここ(オワリ)でやるわけにはいかないわ」


 わたしは首を振った。


 ビーコンを起動すれば、空から「お迎え(ドローン)」が来るかもしれない。もしくは「警備兵(セキュリティ)」か。さらに、それを感知した「空の大家(ドラゴン)」が殴り込んでくる可能性が高い。


 人口密集地であるオワリ城下町で、そんな怪獣大決戦をやるわけにはいかない。


「迎撃拠点が必要ね。……住民が少なくて、開けた空があって、多少暴れても地形が変わるくらいで済む場所」


 わたしは地図を広げ、ある一点を指差した。


 トヨノクニの南端に位置する、細長い島。


「……ここね。『タネガシマ』」


「えっ? そこって、最近まで海賊の拠点だった無人島じゃ……」


「ええ。だから都合がいいの」


 わたしはニヤリと笑った。


 海賊がいようが、荒れ地だろうが関係ない。


「今すぐ領主に連絡を入れるわ。……なにがなんでも、島ごと買い取る」


「か、買い取るぅ!?」


 アリスが素っ頓狂な声を上げる。


「ちょ、レヴィちゃん!? 島だよ!? 相手が売ってくれるかどうかも……」


「売らせるのよ。相手が希望する額の三倍積めば、首を縦に振らない人間はいないわ。……さあ、場所は決まり。次は『根回し』よ!」



 ◆◆◆



 翌日。オワリ城、大広間。


 緊急招集をかけたトヨノクニの首脳陣――ノブナガと、この国の実務を一手に担う四人の男たち、通称「胃痛四天王」がずらりと顔を揃えていた。


 執権のアシカガ・ムネノリ。


 筆頭家老のアケチ・ミツヒデ。


 普請奉行のハシバ・ヒデヨシ。


 勘定奉行のマツダイラ・イエヤス。


 わたしは彼らを見下ろし、高らかに宣言した。


「――というわけで。しばらくの間、拠点を南の『タネガシマ』に移すわ」


 ざわっ、と広間がどよめく。


「お、おい待てレヴィーネ! タネガシマだと? あそこは何もない荒れ地だぞ?」


 ノブナガが眉をひそめる。


「それに、ガンテツとギエモンを連れて行くじゃと? 奴らが抜けたら、城の改築やインフラ整備はどうなるんじゃ。……まさかお主、またどこぞへ旅に出るつもりか?」


 ノブナガの言葉に、不安そうな色が混じる。


 彼らにとって、わたしは既に「国の心臓」に近い。またふらりと消えてしまうのではないかと危惧しているのだろう。


「安心なさい、ノブナガ」


 わたしは微笑み、きっぱりと言った。


「旅に出るわけじゃないわ。……ちょっと、空を開拓しようと思ってね」


「そ、空ぁ……?」


 四天王たちが顔を見合わせる。


「ええ。忙しくなりそうなのよ。……でも、誤解しないで。世界一美味しいお米が食べられるトヨノクニが、今のわたくしのホームよ。必ず帰ってくるわ」


 その言葉に、ノブナガは少しだけ安堵したように息を吐き、そして苦笑した。


「……ふん。まあよい。空だか宇宙だか知らんが、お主のやることに口を出しても無駄じゃからの。……で? 留守の間の差配はどうする?」


「決めてあるわ」


 わたしは扇子で、普請奉行の男を指し示した。


「ヒデヨシ! 『黒鉄組』の指揮権は、あんたの直下で動けるようにしておいたわ」


「は、はぁ!? わ、わしにですかぁ!?」


 現場作業でよく陽に焼けたヒデヨシが素っ頓狂な声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってちょうよレヴィーネ様! 黒鉄組の連中たぁ、荒くれ者ばっかで、わしの言うことなんか聞きゃせんがね!」


「そこをまとめるのが『人たらし』のあんたの仕事でしょう? ……いいこと? 国内のインフラはまだまだ万全とは言えないわ。あんたの機動力で、現場を指揮しなさい」


 わたしはドスを利かせて付け加えた。


「どこにいても――具体的にはタネガシマの荒野でも! 美味しいご飯が食べられるように流通を確保するのよ!」


「ひ、ひぃぃぃ! しょ、食の流通! わ、わかったがね! 死ぬ気で道作るでよぉ、レヴィーネ様の胃袋には指一本触れさせんがや!」


「よろしい。……次はイエヤス!」


「……は、はい」


 タヌキ顔の小太りな男、勘定奉行のイエヤスが、脂汗を拭いながら前に出た。


 彼は常に国の財政と、レヴィーネやノブナガの浪費との板挟みにあっている苦労人だ。


「あんたのそのドケチ……もとい、堅実な金勘定には期待しているわ。……V&C商会と、わたくしの個人資産の30%を『トヨノクニ・ホールディングス』の開発費として出資するわ」


「さ、30%……!?」


 イエヤスの顔色が蒼白になる。


 国家予算数年分に相当する金額が、一気に動こうとしているのだ。


「レ、レヴィーネ様……正気でございますか? それほどの額、もし運用を誤れば、トヨノクニの経済バランスそのものが崩壊しかねませんぞ……」


「だから、あんたに預けるのよ。ムネノリ、ミツヒデとよくよく相談して運用なさい。……1ベルたりとも無駄にしたら、どうなるかわかっているわね?」


「……うう、胃が……。承知いたしました。……このイエヤス、命と胃壁を削ってでも、必ずや適正に運用してみせましょう」


 そろばんを抱えてガクガク震えるイエヤス。


 次いで、わたしは筆頭家老のアケチ・ミツヒデに視線を向けた。


「ミツヒデ」


「はっ」


 涼やかな顔立ちの男が、静かに頭を下げる。


 彼は言葉こそ少ないが、ノブナガに最も古くから仕える忠臣だ。


「あんたはノブナガ直下の腹心なのだから、(わたくし)から特に言うことはないけれど……ノブナガのこと、くれぐれも頼んだわよ」


「……御意。我が命に代えましても」


 短く、しかし重い返答。


 そしてわたしは、傍らに控える執権――アシカガ・ムネノリを見た。


 彼は無言で、しかし誰よりも深く状況を理解した目でこちらを見ていた。


「……ムネノリ。頼んだわよ?」


「……は」


 ムネノリは静かに頭を垂れた。


 ノブナガという覇王と、レヴィーネという規格外。その二つの台風の目にあって、実務の全てを取り仕切ってきた男。


「ヒデヨシとイエヤスが暴走せぬよう、手綱はあなたにお任せします。……ノブナガの背中と、この国の行政。あなたの手腕だけが頼りよ」


「……過分なお言葉です」


 ムネノリが顔を上げた。その表情には、覚悟と、隠しきれない疲労の色が混じっている。


「ノブナガ殿の野望も、貴女様の夢も、それを支える土台があってこそ。……留守はお任せを。この国の安寧、私の胃が尽きるまで支えさせていただきます」


 四天王たちの悲痛な覚悟を確認し、わたしは満足げに頷いた。


 そして最後に、海運を統括する男に視線を向けた。


「リョウマ!」


「おっと。やっと出番ぜよ?」


 ニヤリと笑ったのは、海運会社「黒船屋」の社長、サカモト・リョウマだ。


 彼は懐手をしたまま、飄々と前に出た。


「ヴィータヴェン号は、しばらくタネガシマで『ドック入り(大改造)』になるわ。……姉妹艦だけで、交易に支障はない?」


「うーん……。正直、キツイぜよ」


 リョウマが頭をかく。


「あの船一隻で、普通の商船団十個分の積載量があるきに。あれが抜けると、物流が滞るかもしれんちゃ」


「そう。物流量の減少が見込まれるのね」


 わたしは即断した。


「なら、帝国に連絡を入れるわ。……最新の高速商船を、五隻ほど融通してもらいましょ」


「は?」


「代金はわたしのポケットマネーで払うわ。明日には引き渡し契約を結んでくるから、あんたはクルーの確保をお願いね」


「……ぶふっ! 相変わらず豪快じゃのう!」


 リョウマが膝を叩いて笑った。


「帝国の最新鋭艦を五隻もポケットマネーで!? ……たまげたぜよ。わかった、船の手配は任せとき! トヨノクニの夜明けは近いぜよ!」


 これですべての配置は整った。


 わたしは翻した裾で風を切り、宣言した。


「総員、解散! ……ガンテツ、ギエモン! あんたたちは荷物をまとめなさい! 明日からタネガシマで地獄の開発合宿よ!」


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