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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第135話 留守は任せた。お土産は「空の島」でよろしくて?

『肯定。私が起動してからの、マスター(ミリア)、レヴィーネ様、アリス様の会話ログ、また私に共有された「ごく私的な会話データ」から分析するに、確度は99%以上です』


 イリスは、モニターに過去の会話ログの波形を表示しながら説明を続けた。


『以前、お三方で交わされた「私的な会話」において、レヴィーネ様は「ゲーム知識」に基づく発言を一切されておりません。また、アリス様が提示されたゲーム特有の用語やイベント名に対し、レヴィーネ様の反応は「未知の情報」に対するものでした。……これらのデータを総合的に分析した結果、レヴィーネ様、すなわち「鷹乃」様の記憶には、そのようなゲーム、および「物語」の世界は該当しないと結論づけられます』


「…………うそ」


 アリスが膝から崩れ落ちそうになるのを、わたしは片手で支えた。


 彼女にとっては、拠り所としていた「攻略知識」の全てが、悪意ある誰かの創作だったと突きつけられたに等しい。


 だが。


「……よかったじゃない、アリス」


 わたしは、震える彼女の肩を強く抱いた。


「え……? レヴィ、ちゃん……?」


「誰かに決められたルートも、強制される好感度も、最初からなかったのよ。……あんたは、ゲームのヒロインなんかじゃなかった」


 わたしはニヤリと笑い、彼女の涙目の顔を覗き込んだ。


「あんたはただの、騒がしくて図太くて、最高に優秀なわたしの『相棒(アリス)』だってこと。……せいせいしたじゃない」


「……っ!」


 アリスの瞳から、ボロボロと涙がこぼれた。


 それは絶望の涙ではない。


 呪縛から解き放たれた、安堵の涙だった。


「……うん。……うん! そうだね! 私、ヒロインじゃなかった! ただの『アリス乳業社長』だ!」


 彼女は袖で涙を拭い、そして顔を上げた。


 その目には、いつものふてぶてしい光が戻っていた。


「上等じゃん! 偽物の神様の次は、本物の神様ってわけ? ……やってやろうじゃん! 私の『人生(リアル)』にちょっかいかけてくる奴は、全員まとめて出荷してやるんだから!」


「ええ。その意気よ」


 わたしは満足げに頷き、再び真っ赤なモニタに向き直った。


「聞いたわね、イリス。……わたしたちは『ゲームの駒』じゃない。この大地に足をつけて生きる、誇り高き『生命』よ。相手が本物の神だろうが、世界の理だろうが関係ないわ」


 バチンッ。


 わたしは指を鳴らした。


「イリス! 作戦を詰めるわよ。……『場所』はわかった。問題はどうやってそこへ行くかだけど」


 わたしはスキャンされた設計図を指差した。


「このビーコンで『お迎え』を呼ぶ作戦、エルウィンは廃墟だと言っていたけれど、本当に来るのかしら?」


「あ、確かに」


 アリスが涙を拭きながら首を傾げた。


「古代文明が滅んで、島も廃墟なんでしょ? 電話かけても誰も出ないんじゃない?」


『回答。……正規の「使者(乗務員)」が来る可能性は極めて低いです』


 イリスが冷静に分析結果を述べる。


『ですが、あの島が今も浮遊している以上、動力炉とそれを守る「基幹システム」は稼働しているはずです。ビーコンからの信号を受信した場合、生存者の救助……あるいは信号源を調査・回収するための「自律行動ユニット(無人機)」が派遣される可能性は高いと推測されます』


「なるほど」


 ミリアが眼鏡を押し上げた。


「つまり、正規のお客様用の迎えが来る可能性は低くても、不審者をチェックしに来る『警備兵(セキュリティ)』なら飛んでくる可能性は高い、ということですね? ……それなら話は早いです。その機体を捕獲し、帰還術式を解析・逆探知すれば、島への『正規ルート』が開きます」


「ええ。空への足がかりはそれで確保できるわ」


 わたしは頷き、そして獰猛な笑みを浮かべた。


「ただし……問題はもう一つあるわね」


 わたしは天井――その遥か上空を睨みつけた。


「この空は『神の領域』であり、ドラゴンの縄張りだということ。……正体不明のビーコンを発信し、さらに空へ上がろうとすれば、間違いなく『番人』が飛んでくるわ」


「う……。そっか、空の大家さんが黙ってないってことか。……でもレヴィちゃん、ウチに対空装備なんてないよ?」


 アリスがもっともなことを言う。


 当然だ。この国は「大一番」で戦争を決める文化。あるのは祭りの花火か、漁で使う銛くらいのものだ。空を飛ぶ脅威など想定すらしていない。


「ええ。ないわね」


 わたしは短く答えた。


 そして、バシッ、と鉄扇を手のひらに打ち付けた。


「だから――『わたし』が出るッッ!!」


「……は?」


 アリスとミリアが同時に固まる。


「な、何言ってんのレヴィちゃん! 相手はドラゴンだよ!? 神話級だよ!? 生身でどうこうできる相手じゃ……!」


「それに、もし街に被害が出たら……!」


「出させないわよ。誰一人としてね」


 わたしは傲然と言い放った。


「誰が街を戦火に晒すと言ったの? 誰が民の家を盾にすると言ったの? ……冗談じゃないわ。わたしの領分(シマ)で暴れるなら、被害が出る前にわたしが叩き潰す。それだけのことよ」


 わたしはドレスの裾を翻し、出口へと向かった。


「来るなら来ればいいわ。……それが神の使いだろうが、空の王者だろうが関係ない。わたしの空路を塞ぐなら、片っ端からへし折って差し上げるわ!」


 その背中に、迷いは微塵もなかった。


 兵器がないなら、自分が兵器になればいい。


 街を守るなら、街の外で敵を殲滅すればいい。


 あまりにもシンプルで、あまりにも傲慢な「最強」の理屈。


「……ふふ。ええ、そうでなくては。……これこそが、私の捧げた主です」


「……あーあ。また始まったよ、物理攻略。……でもまあ、いっか。……こういうとこ、嫌いじゃないしね」


 背後で、二人の呆れたような、けれど絶対的な信頼のこもった声が聞こえた。


「イリス、ミリアはビーコンの解析と『捕獲』の準備を! アリス、あんたはわたしのサポート! ……さあ、行くわよ! 空からの来訪者を、特大の拳骨で『おもてなし』してあげるわ!」


了解(ラジャー)。……対「神話級」迎撃プロトコルを起動。……目標、天蓋の揺り籠』


 恐怖は消えた。


 偽りのシナリオは消え去り、目の前には、ただ倒すべき「現実」と、こじ開けるべき「扉」だけがある。


 こうして、わたしたちは真の意味で「自由」を勝ち取るための戦いへ――空の彼方へと、舵を切ったのだった。


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