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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~
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第134話 私はヒロインじゃない! 自由な「相棒」として、空へ!

 ダテ茶屋での衝撃的な「神話講義」を終えた私たちは、オワリ城へと帰還した。


 城門の前で、「わしゃもう設計図は見とうない……」と頭を抱えるガンテツと、「酒だ、酒を持ってこい」と現実逃避するギエモンを見送り、それぞれの工房へと帰したあと。


 わたしとミリア、そしてアリスの三人は、人払いを済ませた城の最深部――特秘の研究室(サーバールーム)へと籠もった。


 数百のモニタが青白く発光し、冷却ファンの音が低く唸る、この城で最も異質な空間だ。


「……イリス。今のエルウィンの話、記録したわね?」


 わたしはメインモニタの前に立ち、腕を組んで尋ねた。


『肯定。会話ログの記録、ならびにデータベースとの照合を完了しました』


 ホログラムのイリスが、無機質に答える。


 わたしは、先ほどエルウィンから受け取った「設計図(ビーコンの鍵)」をスキャン台に置いた。


「まずは『場所』の特定よ。……衛星アルゴスの眼を使って、上空の『天蓋の揺り籠』を探して」


了解(ラジャー)。……検索開始』


 モニタに無数の文字列が走り、世界地図が高速でスクロールする。


 数秒後。


 ピピッ、という電子音と共に、一枚の鮮明な画像が表示された。


『特定しました。現在座標、トヨノクニ上空、高度一万二千メートル。成層圏界面付近を、偏西風に乗って周回中の巨大人工構造物を確認』


「……あった」


 ミリアが息を呑む。


 画面に映し出されていたのは、雲海の上に浮かぶ、巨大な「円盤状の島」だった。


 だが、かつての栄華は見る影もない。表面のドームは半壊し、美しいと謳われた都市区画は瓦礫の山と化している。まさに、空の廃墟だ。


「……よし。場所はわかったわ」


 わたしは頷き、次なる、そして最も重要な質問を投げかけた。


「じゃあ、次。……その空域にいるはずの『番人』について照会して」


『対象:空を統べるドラゴン、および創世神について検索中……』


 イリスの電子の瞳が明滅する。


 だが、次の瞬間。


 ブゥンッ……!!


 不快な低音が響き、周囲のモニタが一斉に赤く染まった。


 警告音ではない。もっと冷たく、拒絶を示す音だ。


『――警告。検索不能。……アクセスが拒否されました』


「拒否……?」


 わたしは眉をひそめた。


「データがない、んじゃなくて?」


『否定。該当する存在の「概念データ」は存在します。しかし、その詳細なステータス、現在位置、行動予測アルゴリズムへのアクセスを試みた瞬間、システム最上位からのロックが掛かりました』


 イリスは、赤く染まったモニタに、たった一行の冷酷な文字列を表示した。


【 Error : No Administration Rights (管理権限がありません) 】


「管理権限がない……?」


 ミリアが震える声で呟く。


「イリスは、この世界の過去の叡智を網羅した古代知性体スーパーコンピューターですよ? そのイリスに対して、『お前ごときには見る権利すらない』と……?」


『推測。古代文明時代において、これら「ドラゴン」および「神」と定義される存在は、システム管理者アドミニストレータ、あるいはそれ以上の「不可侵領域」として設定されていた可能性が高いです。……我々(科学)は、彼ら(神話)を観測することすら許されていません』


 室内の気温が、一気に下がったような気がした。


 イリスも、アルゴスも、通用しない。我々の手札にある「最強」のカードを使っても、正体すら掴めない相手。


 さらにイリスは、無機質な声で補足を続けた。


『……補足情報。ハイエルフの伝承データと照合した結果、「創世神」に関する記述の整合性は99%以上です。……つまり、科学的な観測データは皆無ですが、エルウィン様の語った「お伽噺」こそが、この世界に残された最も正確な情報ソースとなります』


「……皮肉な話ね。最先端のAIが『わかりません』とお手上げし、古い森のエルフの昔話だけが真実を語っている、か」


 わたしは口元を歪めた。


 納得はいかないが、エルウィンの警告が「事実」であることは証明された。


「……ねえイリス。さっき『システム管理者』と言ったけれど、それはラノリアの『運営』やトヨノクニの『脚本家』とは何が違うの?」


 わたしは、赤く明滅するモニタを睨みつけたまま、疑問を口にした。


「奴らもまた、自分たちを神のように振る舞い、管理者を気取っていた。……結局は、わたしのパイプ椅子で粉砕された『紛い物』だったけれど」


 イリスは首を横に振った。


『否定。……レヴィーネ様、認識を修正してください。彼らは、貴女が過去に交戦した「運営」とは、存在のレイヤー(階層)が異なります』


「レイヤー?」


『はい。貴女がこれまで排除してきた連中は、あくまでこの世界というフィールドにログインし、シナリオやパラメータをいじって遊んでいた「悪質なプレイヤー」、あるいはシステムを不正利用する「チーター」に過ぎません』


 イリスが空中に図形を描く。


 巨大な球体(世界)があり、その表面にへばりつく小さなノイズ(運営・脚本家)。


 わたしがこれまで破ってきたのは、その「ノイズ」だ。


『ですが、今回検知した「創世神」および「ドラゴン」は……その球体(ハードウェア)そのものを設計し、物理法則や魔力の(ことわり)というプログラムコードを書いた「開発者(デベロッパー)」です』


「……開発者(デベロッパー)……」


 ミリアが息を呑む。


 だが、まだ納得しきれないわたしのために、イリスは具体的な例示を始めた。


『解析。……現状、最も理解しやすい例示として、アリス様の事例を引用します』


 イリスが、青ざめているアリスの方へ視線を向けた。


『アリス様。貴女はかつて、ラノリアの教皇を名乗る「運営(管理者)」という存在によって、ある「知識」を刷り込まれていましたね?』


「え……? う、うん。私が前世でプレイしていた乙女ゲーム……『薔薇の聖女と永遠の誓い』の世界に転生したんだって……」


『肯定。ですが、その認識こそが、彼らによる「干渉」の結果です』


 イリスが空中に、ラノリア王国の地図を投影する。


『かつて交戦した「運営(管理者)」は、アリス様の前世の記憶を読み取り、それを都合よく改竄し、「この世界はゲームである」という認識を植え付けました。そうすることで、貴女を「聖女」という名の駒として動かすために』


 地図上のラノリアが赤く点滅する。だが、その赤い光は国境を越えることはなかった。


『ですが、彼らの影響力は、ラノリア王国という極々小さな国内に留まっていました。周辺国に対しては、洗脳した「工作員」を送る程度しかできていません。……つまり、彼らは世界全体を書き換える力など持っておらず、狭い箱庭の中で「神の真似事」をしていたに過ぎないのです』


 次いで、トヨノクニの地図が表示される。


『また、トヨノクニを襲った「脚本家(スペクテイター)」に関しても同様です。奴は様々な国家を渡り歩き、悲劇のシナリオを強制してきましたが……その影響範囲は、常に「一国」の範囲に留まっています。実際、最後はこの小さな島国の中で、皆様によって討伐されました』


 次いで、巨大な惑星のホログラムが表示される。


 海がうねり、雲が流れ、マグマが脈動する、生きた星の姿。


『対して、今回検知した「空を統べるドラゴン」および「創世神」は……大陸全土どころか、この世界という天体のあらゆる自然現象・生命活動を管理する権限(アクセス権)を持つものと考えられます』


 ハッカーが書き換えた「偽の記憶」や「局地的なシナリオ」とは違う。


 海流を作り、季節を巡らせ、魂を循環させる、星そのもののシステム。


 その説明を聞いて、アリスが呆然と呟いた。


「ちょっと、待って……。それって、つまり……」


 彼女の声が震えている。


「この世界は……私が知ってる乙女ゲーム『薔薇の聖女』の世界じゃ……ないの……?」


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