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第127話 王様たちの喧嘩。決着は「私とギルベルト」の試合に賭けなさい。

 大博覧会二日目の夕刻前。


 メインストリートの熱気は最高潮に達していたが、その一部で局地的な「交通渋滞」と「食料危機」が発生していた。


 原因は、昨日わたしの「教育」によってトヨノクニの食に目覚め、完全に胃袋を掴まれてしまった二人のVIPだ。


 場所は、『ダテ・美食倶楽部』のスイーツエリア。


「どかぬか! わらわはエルフの女王ぞ! この緑の甘露(ずんだシェイク)を飲む権利が最優先されるのは当然じゃろう!」


 女王エルウィンが、気品ある顔を必死さで歪めながら、一般客の列に割り込もうとしている。


 彼女の手には既に空になったカップが五つも積み重なっており、口の周りには緑色のヒゲができている。昨日の「ソイ・ずんだシェイク」で完全に糖分と豆の旨味に脳を焼かれた、中毒者の目だ。


 店員が「あ、あの、並んでいただかないと……」と困惑するが、聞く耳を持たない。


「ええい、じれったい! 金なら払う! この店にある大豆製品、全てわらわの宿舎へ運べ! あと『きな粉』もだ! あの魔法の粉をかければ、どんな草でもスイーツになるからの!」


 一方、通りの向かいにある『精肉グリル・エリア』では、もっと物理的な騒ぎが起きていた。


「全部だ! ここにある肉、全部俺様の屋敷に運べ! 特に昨日の『ホルモン』とかいうやつだ!」


 獣王ガロンが、屋台の肉を端から買い占めている。


 彼の背後には、山積みになった肉の桶を抱えた獣人戦士たちが列をなしている。


「他の客? 知ったことか! 俺の胃袋を満たすのが先だ! おい、そこのカツオのタタキもだ! ニンニク増し増しでよこせ!」


 金は払っているようだが(リョウマのツケで)、これでは他の観光客の口に入らない。民衆からはブーイング、店主からは悲鳴が上がっている。


 権力を笠に着た、大人げない爆買い。


 食への感動が、欲望のリミッターを外してしまったようだ。


「……やれやれ。困った王様たちね」


 わたしは人垣を割り、その中心へと進み出た。


 背後には、ミリアとアリス、そして大量のワゴンを押す黒鉄隊を引き連れて。


「お楽しみのところ失礼いたしますわ、陛下、族長殿」


 わたしが声をかけると、二人はギロリとこちらを睨んだ。


 口の周りを緑にした女王と、タレでベトベトにした獣王。威厳もへったくれもない。


「なんじゃレヴィーネ。わらわは今、至高の植物性タンパク質を補給するのに忙しいのじゃ」


「あぁ? 俺はまだ食い足りねえんだよ。邪魔するなら食うぞ?」


 殺気立つ二人。


 だが、わたしは優雅に鉄扇を開き、ピシャリと言い放った。


(わたくし)の庭で、権威を振りかざして他のお客様の邪魔をするのはマナー違反ですわ。……お腹が空いているなら、(わたくし)が責任を持って『限界まで』満たして差し上げます」


 わたしが指を鳴らすと、黒鉄隊がワゴンを展開した。


 そこには、彼らの想像を絶する「食の弾薬」が積まれていた。


「まずはエルウィン陛下。……冷たいシェイクばかりではお腹を壊しますわよ?」


 ドン! と置かれたのは、湯気を立てる巨大な土鍋だ。


 蓋を開けると、白濁したスープの中に、艶やかな豆腐や湯葉、そして彩り豊かな野菜が踊っている。


「これは『特製・豆乳湯豆腐鍋』です。動物性のものは一切使っておりません。出汁は昆布と干し椎茸、スープは濃厚な無調整豆乳。……さあ、温かいうちにどうぞ」


 さらに、隣には重箱が積まれる。


 中には、小豆をふっくらと炊き上げた「ぜんざい」、もちもちの「求肥(ぎゅうひ)」、きな粉をまぶした「わらび餅」、そして寒天とフルーツの「みつ豆」。


「植物由来の甘味のフルコース、名付けて『精進スイーツ・パラダイス』ですわ。……これらを食べる条件はただ一つ。『ここで行列を乱さず、一般のお客様と共に味わうこと』です」


「な……っ!?」


 エルウィンの目が釘付けになる。


 豆乳鍋から漂う、優しくも濃厚な大豆の香り。そして、宝石のように輝く和菓子の数々。


「わ、わかった! 座ろう! 座る! 大人しく座って食べるゆえ、早くそれをよこすのじゃ!」


 エルウィンがプライドをかなぐり捨てて椅子に座り込む。


 次はガロンだ。


「肉が足りないんですって? ……焼くだけが肉じゃありませんわ」


 ドサッ! ドサッ!


 ワゴンの上には、見たこともない肉料理の山が築かれた。


「サツマ特産『黒豚の角煮』。箸で切れるほどトロトロに煮込んであります」


「セトウチ直送『ブリ大根』。魚の旨味が染み込んだ大根は、肉以上の御馳走です」


「オシュウ名物『ダテ地鶏の唐揚げ』。衣はカリカリ、肉汁ジュワッ!」


「そして極めつけ、イノシシ肉の『牡丹鍋』!」


 陸、海、空。あらゆる「肉」の祭典。


 脂の乗った豚肉の甘い香り、煮付けの醤油の匂い、スパイスの効いた揚げ物の香り。


 それらが混然一体となり、ガロンの鼻腔を直撃する。


「な、なんだこれは……! 牛だけじゃねえ、豚、鳥、魚……! 肉の宝石箱か!?」


 ガロンが震える手で角煮を掴む。


 口に入れた瞬間、脂身が舌の上で溶け、濃厚な甘辛いタレと肉の旨味が爆発した。


「ぐおおおおッ!! やらけぇぇぇッ!! 歯がいらねえ! 飲める肉だッ!!」


 数十分後。


 そこには、膨れた腹をさすりながら、満足げに(そして苦しげに)天を仰ぐ二人の王の姿があった。


 周囲の客とも和やかに(というか餌付けされた動物のように)相席し、平和な食卓が戻っていた。


 一件落着――かと思われたが。


 ふと、エルウィンがガロンを睨み、ハンカチで口元を拭いながら言った。


「……だが。食事は素晴らしかったが、隣で獣臭い息を吐く輩とは、やはり相容れぬな。……大豆の繊細な香りが台無しじゃ」


 ガロンもまた、牙を剥いて鼻を鳴らす。


「あぁ? こっちこそ、甘ったるい豆の匂いをさせる軟弱なエルフと肩を並べるのは御免だね。……肉を食わねえ奴に、本当の力なんて出せるわけがねえ」


――バチバチバチッ!


 再び火花が散る。


 食欲は満たされても、種族としてのプライドと、生理的な嫌悪感までは解消されていなかったのだ。


 むしろ、互いに自分の「推し(食)」への愛が深まった分、相手への理解不能さが際立ってしまっている。


「……やれやれ。頑固な王様たちね」


 わたしはため息をついた。


 このまま喧嘩別れさせては、今後の交易に差し支える。かといって、無理やり握手させてもしこりが残る。


 ならば。


「でしたら……白黒つけましょうか」


 わたしは鉄扇をパチンと鳴らし、提案した。


「決着をつけましょう。……ただし、あなたたちが殴り合うのではありません」


「何?」


 わたしは、会場の中央にそびえる巨大スクリーンを指差した。


 そこには、『天下一・大一番 メインイベント』の文字と、対戦カードが映し出されている。


【 レヴィーネ・ヴィータヴェン VS ギルベルト・ラノリア 】


「今夜のメインイベント。(わたくし)と、ラノリア王ギルベルトの試合。……これに『賭け』なさい」


 わたしは二人に、一枚の誓約書(ミリアが即座に作成したもの)を突きつけた。


「ルールは簡単。どちらが勝つか予想して賭けること。そして――『賭けに負けた方』が、勝った方の言い分を聞き入れ、歩み寄って和解すること。……王のプライドにかけて、この勝負に乗れますか?」


 代理戦争。


 自分たちで戦うのではなく、最強の戦士たちに運命を託す。それなら角も立たない。


 ガロンがニヤリと笑った。


「面白い! 乗ったぜ! 俺はあの筋肉王、ギルベルトに賭ける! 今朝のトレーニングを見たが、あの男の筋肉は本物だ! 純粋なパワーなら人間を超えている! あれこそ肉食の頂点だ!」


 エルウィンも、冷ややかに微笑んだ。


「ならば、わらわはそなた……レヴィーネに賭けよう。あの鋼鉄の椅子の捌き、そして計算された身のこなし……。力任せの男など、そなたの『技』と『美学』の前では無力じゃろう? 大豆のようにしなやかな強さ、見せてたもれ」


 ガロンはギルベルト(パワー&肉)に。


 エルウィンはレヴィーネ(テクニック&植物)に。


 それぞれの好みを反映したベットが決まった。


「契約成立ね」


 わたしは誓約書を懐にしまい、不敵に笑った。


「せいぜい応援なさい。……どちらが勝っても、最高に面白いショーを見せてあげるわ」


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