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第122話 博覧会開幕! 喧嘩上等、ルール無用の「大一番」!

 再び、中央広場。


 大歓声の中、わたしは拡声魔導具(マイク)を受け取った。


 キィン、と高い音が響くと、数万人の群衆が一斉に静まり返り、こちらを見上げる。その視線には、畏怖と、尊敬と、そして何よりも期待が込められていた。


「紳士淑女の皆様! そして筋肉を愛する全ての同志たちよ! ようこそ、黄金と情熱の国、トヨノクニへ!」


 わたしの第一声に、地鳴りのような歓声が上がった。


「この博覧会には、この国の全てが詰まっています。技術、文化、食、そして何より――不屈の魂(と物理的な腕力)が! どうぞ存分に楽しみ、食らい、そして持ち帰ってください! ただし!!」


 わたしは言葉を切り、ニヤリと笑った。背後のノブナガも、アリスやミリアも、同じように笑みを浮かべる。


「ただ飲み食いするだけで終わると思ったら大間違いですわよ? この祭典のメインイベントは、展示ではありません」


 わたしが指を鳴らすと、背後の巨大スクリーン(幻影魔法による投影)に、禍々しくも力強い筆文字が映し出された。


――『天下一・大一番(オオイチバン)』。


「戦争? 政治的駆け引き? そんなまどろっこしいものはもう流行りません。国と国、商会と商会、あるいは個人の威信をかけた揉め事があるなら、全てこのリングの上で決着をつけなさい! ルールは簡単。武器なし、魔法なし、己の肉体ひとつで立っていた方が勝者! シンプルでしょう?」


 ドッッッ!!!!


 会場の空気が爆発した。それは歓声というより、雄叫びだった。世界中から集まった血気盛んな猛者たちが、待ってましたとばかりに拳を突き上げている。


「さあ、祭りの始まりですわ! 食べて、飲んで、殴り合いなさい! 平和とは、美味い飯と適度な暴力によって維持されるものなのですから!!」


 わたしの宣言と共に、空へ向けて祝砲――スターマイン花火と、轟音を立てる号砲――が一斉に打ち上げられた。


 光と爆音の中、トヨノクニの、そして世界の新しい時代の幕が、強引にこじ開けられたのだった。



 ◆◆◆



 トヨノクニ大博覧会、開幕初日の夜。


 熱狂の渦に包まれた開会式を終え、場所はイセ湾を一望できる高台に新設された『迎賓館』へと移っていた。


 ヒデヨシ率いる普請部隊と、わたしの黒鉄組が、三日三晩の不眠不休(デスマーチ)で建て上げたという、純和風の壮麗な屋敷である。


 心地よい秋の夜風が、潮の香りと共に吹き抜けていく。


 ここで行われるのは、世界中から招かれた賓客たちをもてなす「歓迎レセプション」。


 けれど、わたしにとってそれは、単なる外交儀礼の場ではない。


「……ふむ。まずは西の大国、ガルディア帝国か」


 隣に立つオダ・ノブナガが、金色の扇子で入り口を示す。


 そこから現れた姿を見た瞬間、わたしの胸の奥に、熱く、懐かしいものが込み上げてきた。


「やあ、レヴィーネ嬢! 招待ありがとう! それにしても……度肝を抜かれたよ」


 金髪碧眼の美青年、第二皇子アレクセイが、呆れたように、けれど本当に嬉しそうに笑いながら歩み寄ってくる。


 かつて帝国の貴族院で、わたしの「追放劇」という名の茶番を共に演じた共犯者。


 あの頃と変わらない、知的で食えない笑顔。


「広場の『黄金の像』だよ。聖母のような顔でパイルドライバーとはね。あれは我々に対する『逆らえばこうなる』という警告かな?」


「あら、殿下。お久しぶりですわね」


 わたしは優雅にカーテシーを返しながら、目元が緩むのを止められなかった。


「警告だなんて人聞きが悪いですわ。あれはあくまで『平和と健康の象徴』。……まあ、わたしの平和を乱す者には、慈愛を持って物理的な『指導』をする準備がある、という意味では間違いではありませんけれど」


「ははは! 相変わらずだね! その『ブレなさ』を確認できて安心したよ」


 アレクセイは満足げに頷くと、スッと一歩横に退いた。


「君への『お土産』も連れてきたよ」


 音もなく。


 彼の影の中から、一人の女性が姿を現した。


 目深に被ったフード。その下から覗く鋭い眼光。


 帝国の暗部『宮家の影』を統括する最強の暗殺者にして、わたしのもう一人の師匠。


「……久しぶりね、レヴィーネ」


「オルガ先生……!」


 わたしは思わず姿勢を正した。


 北の雪山で、凍えるような寒さの中、体術と暗殺術を叩き込まれた日々が蘇る。厳しく、恐ろしく、けれど誰よりもわたしの「覚悟」を認めてくれた人。


 彼女はわたしの全身を、まるで我が子を見るように、あるいは研ぎ上げた刃物を愛でるように眺め、フッと口元を緩めた。


「ますますいい筋肉(からだ)になったわね。……北の砦で震えていた小娘が、一国を背負う『魔王』になるとは。教え甲斐があったというものよ」


「先生のシゴキのおかげですわ。……またこうして、お会いできて光栄です」


 言葉が震えそうになるのを、ぐっと飲み込む。


 感傷に浸るにはまだ早い。廊下の床が軋むような、重厚でラフな足音が響いてきたのだから。


「よお、嬢ちゃん! ……相変わらず派手なことやってるじゃないか」


 現れたのは、葉巻をくわえた無精髭の中年男――ゲイルだ。


 かつてゴールド・ベガスの地下闘技場で拳を交え、背中を預けて戦った「戦友」。


 上等なスーツを着崩しているが、その下にあるのは、老いてなお盛んな鋼の肉体と、不敵な闘志。


「久しぶりね、ゲイルのおじさま。……スーツなんて着て、随分とダンディになったじゃない」


「よせやい。俺はあくまで引率の『付き添い』さ。……ほら、挨拶しな」


 ゲイルが促すと、背後に控えていた屈強な男たちが一斉に「オスッ! ご無沙汰してます姐さん!」と頭を下げた。


 かつての地下闘技場の荒くれ者たちが、今は『ちゃんこ道場・ベガス支部』の看板を背負い、どこか誇らしげな顔をしている。


「あいつらもすっかり『まとも』になりやがって。……嬢ちゃんのおかげで、ベガスも随分と住みやすくなったぜ」


 ゲイルは照れくさそうに鼻をこすり、ニカッと笑った。


 その笑顔に、わたしは救われた気持ちになった。


 あの無法の街で蒔いた種が、こうして芽吹いている。


「アミーゴ!! レヴィーネ姐さーん!!」


「レオ! あなたも来てくれたのね!」


 庭の方から飛び込んできたのは、若きルチャドール、レオだ。


 彼は『鷲のマスク』を被り、ビシッとマッスルポーズを決める。


 その後ろからは、僧衣を纏った隻腕の巨漢、サン・ルーチャのマテオ神父が、穏やかな笑みを浮かべて現れた。


「神父様まで……! 遠路はるばる、よくぞお越しくださいました!」


「ははッ、君に会ってこいという孤児院の子供たちの声に負けてね。……この国はいい風が吹いている。君が作った風だね」


 マテオ神父の言葉が、温かく胸に染みる。


 さらに、会場がざわめく中、一際大きな歓声が上がった。


 聖教国ラノリアからの使節団だ。


「姐さん! ……姐さんッ!!」


 先頭を切って駆け寄ってきたのは、ギルベルト国王だった。


 かつては線が細く、自分の生き方に迷っていた第三王子。


 それが今や、王衣の下に鋼の筋肉を鎧い、迷いのない瞳で国を導く「闘う王」として、堂々とわたしの前に立っている。


「ギル……。立派になったわね」


 わたしが声をかけると、彼は感極まったように何度も頷いた。


「見ましたよ、あの広場の像! そして民衆の熱気! ……あれこそが、私が目指していた『健全な信仰』の姿です! 神に縋るのではなく、(姐さん)を目標にして己を鍛える! 素晴らしい!」


「……ギル、あなた王になったからって変な教義を作ってないでしょうね?」


「ははは! 何を仰いますか!」


 爽やかに笑って誤魔化す彼を見て、わたしは苦笑した。


 少し方向性は怪しいけれど、彼もまた、わたしが残した「筋肉(イズム)」を継承し、花開かせてくれた一人だ。


 帝国、ゴールド・ベガス、サン・ルーチャ、ラノリア。


 かつてわたしが巡り、暴れ、そして笑い合った仲間たちが、今ここに一堂に会している。


 敵も味方もない。


 あるのは、同じ時代を、それぞれの場所で懸命に生き、戦ってきた者同士の「絆」だけ。


「……まったく。最高の『悪友』たちが揃ったものね」


 わたしは扇子で口元を隠し、潤みそうになる瞳をごまかした。


 十八歳の誕生日。


 これ以上のプレゼントなんて、どこにもないわ。


「さあ、旅の疲れを癒やしてくださいまし。……今宵のメニューは、当国の総力を結集した『フルコース』ですわ」


 わたしの合図と共に、給仕の黒鉄隊たちが次々と料理を運んでくる。


 繊細なフレンチや懐石ではない。


 直径一メートルの大皿に盛られた『黒鉄ちゃんこ(全部入り)』。厚切り牛タンの山。牡蠣のガンガン焼き。


 そして、樽ごとの『トヨ酒』と『プロテイン』。


「食え! 飲め! そして語らおうぞ!」


 ノブナガが盃を掲げる。


 宴が始まった。


 誰もが笑顔で、大声で笑い、杯を交わす。


 外交? 政治? そんな堅苦しいことは後回しだ。


 今夜はただ、生きて再会できた喜びを、美味い飯と酒で分かち合うだけでいい。


――そう思っていたのだけれど。


 ヌゥォオオオォォォォォン………。


 海の方角から、腹の底に響くような重低音が轟いた。


 魔導戦艦ヴィータヴェン号の駆動音だ。


 海上警備に出ていたリョウマが戻ってきたのだ。


「遅くなってすまんぜよ! ……ちくと、『珍しい客』を拾ってな」


 リョウマの背後から現れた、二つの異様な影。


 一人は、ライオンの鬣を持つ巨漢の獣人。


 もう一人は、冷ややかな瞳のエルフの美女。


「俺は肉を食いに来た! この国には世界一美味い肉があるそうじゃねえか!」


「……野蛮な匂いがするのぅ。わらわは野菜を所望するぞえ」


 獣王ガロンと、森の女王エルウィン。


 懐かしい再会の場に乱入してきた、新たな「火種」。


「……あら。随分と賑やかなお客様だこと」


 わたしはワイングラスを揺らしながら、ニヤリと笑った。


 予定調和で終わるなんて、わたしの人生らしくない。


 どうやら、この最高のパーティーは、まだまだ盛り上がりそうだ。


「歓迎いたしますわ。……トヨノクニの夜は、退屈させませんわよ?」


 新たな波乱の予感と共に、宴の夜は更けていく。


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