ep.38 教育都市
マンションに戻って来たボギーは、興奮冷めやらぬ表情で言った。
「テッテレー! 宇宙からの帰還!」
リビングでは、場地とビリーがバタバタしていた。辨野はソファーに座り、情報部隊とやり取りをしていたようだった。
「お疲れ、ありがとな。カミサンに聞いたよ」と辨野が言った。
「オオカミさんに助けられたよ」
ボギーはニカッと笑って言った。
場地がバタバタと走り去る途中で、ボギーの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「お前、よくやった」
『ベンさんベンさん、この保護確案件ですが……』と辨野のスマホから聞こえてきた。
「保護に行くの? 俺も行こっか」とボギー。
「お前はもう寝ろ」
「休んでていいよ、ボギオ。僕と場地で行く」
ボギーはカップ麺を持ってダイニングテーブルに座った。
「こっちは何? 何処のマップ?」
ボギーは、ダイニングテーブルでタブレットを見ている双子に言った。双子は標的にされた教育都市のマップを見ていた。
ボギーはタブレットを覗いて、
「一番人数が多いとこだっけ。デカい教育都市っつっても、フィールドは少ないんだね」と言った。
「そりゃ運動系のお前んとこに比べたらな。ここは大学だけじゃなく専門も多いからな」と辨野が言った。
辨野もダイニングテーブルについて、アルから言われた一連の流れを説明した。
「うわ、危なかったね、ここ。卒業してこの教育都市に移籍した同級生、結構いるよ。デザインとか調理の専門に行ったらしい」
「お前は進学は考えなかったのか?」
「もう勉強したくなかったもん。座学があるなら、もう勘弁って感じ。ここに行くの?」
「俺らが行く」とキャンティが言った。
辨野がコーヒーを淹れに立ち上がった。
「俺たちにダメージとか言ってたけど、それはついでかもしれないな。もしかしたら、攻撃の的になるような何かを──やらかしたのかもな」
本州の中心あたりにあるその教育都市は、学力偏差値・運動能力も平均的な子どもが集められ、全国の中でも、一番子どもの在籍が多い教育都市である。
教育都市には、新生児から大学院生までが在籍し、それぞれ決められた宿舎住まいが義務である。
病院で産まれた個体は教育都市に移り、新生児・乳児・幼児・小学生までは、育児担当が多く就業しているそれぞれの施設で育てられる。
小学生から選別試験が何度かあり、それぞれの能力に対応する教育都市に移籍する。中学以降は進学の度に移籍が行われる。
中学・高校の生徒が住まう宿舎では、食事以外の掃除・洗濯は自分でやる事になり、定期的に生活チェックが入る。
高校を卒業し、大学・専門学生・大学院生になると、宿舎のキッチンにある食材や器具を使って、料理も全て自分でやる事になる。
家事をするのはお風呂に入るのと同じで、自分でやるのが当然だと教え込まれていた。
学生の間、生活費は一切かからない。
ポケットマネーも一律で与えられる。学生たちはカードやキャッシュは持たず、耳のICチップで全て支払い、それらを政府が管理している。
そんな優遇されたモラトリアム期間は上限があり、医学部・歯学部・薬学部以外の院生の場合は、大学4年、院で修士課程2年、博士課程3年とストレートで修了出来た場合のみ、そのままの条件で在籍出来る。
卒業・修了出来ずまだ在籍を希望する場合は、政府の指示する企業で働きながらとなる。
教育都市内には様々な施設が設置されており、病院、デパートや商店街、公園、アミューズメント施設など、学生が都市内だけでも困らないよう整われていた。
一番在籍が多いこの教育都市には、イベントなどが開催される国際展示ホール、コンサートホールや天文台などの、大型施設も設置されていた。
「ガキがいるってだけで、フツーの街だな」
レジーとキャンティは、街路樹が並ぶ公園通りを歩いていた。ヘアメイクやデザインなどの“専門学生風の女子”のように、街に溶け込んでいた。
通りには店が並び、大学生や専門学生が昼間から多く出歩いていた。保育士や保育ロボットが、幼児たちを引き連れて散歩している姿も見かけた。
「特に違和感は無さそうだけどな……は?」
レジーは正面を見て固まった。
「……違和感ありありの奴が歩いてんだけど」
レジーとキャンティは、こちらに向かって歩いているスーツ姿の男を見て、ゲンナリしていた。
「彼女たち可愛いね〜、俺とラーメン食いに行かねえ?」
直斗はニヤニヤしながら声を掛けて来たが、双子は目を合わせず無視した。
「ブッ、そんな嫌な顔するなって。君たちナンパに慣れてないのかな?」
「……オッサンに興味ないから」
レジーは直斗を睨んだ。
「ラーメン食おうぜ! 好きな店があんだよ、な? ウハハハ」
通り過ぎる人々が皆、チラッと3人を見て
(ナンパだ)
(ナンパだ)
(ナンパだ)と認識した。
3人で商店街に向かって歩きながら、
「(何でいんだよ)」
レジーが小声で文句を言った。
直斗は素知らぬ顔をしながら
「(普通に仕事だっつーの)出張先で可愛い子たちに会えて、ラッキーだなぁ俺」
「(ホントムカつく)」
商店街に入ると、唐揚げ専門店の店先で、早速立ち食いをしているボギーがいた。ボギーは3人に気づくと、
「あー、いたいた。直斗さん、ナンパしたの? 俺も混ぜて」と言った。
「久しぶりだな。ラーメン食いに行こうぜ」
「行く行く。俺も一緒でいいよね! 彼女たち」
「……バカは嫌いなんだけど」
「そんな事言わずに〜」
ラーメン屋の4人席で、ヘラヘラと笑う男2人と、不機嫌そうな顔で食べるギャル2人に、店主が笑いを堪えていた。
「そういえばさ」と突然ボギーが言った。
「俺、ベンさんてもっとオッサンかと思ってた」
3人で吹き出した。
「(危ねぇだろ! ラーメン食ってる時に言うんじゃねーよ!)」とキャンティが声量を落として怒鳴った。
「あいつは大学の頃からそう言われてた」
「わかる」とボギーが言った。
「双子、お前らスッピンなら中等部にいても違和感ないだろ」と直斗。
「わかる」
「ふざけんな」
「(久しぶりに女の子のカッコ見たけど、フツーに女の子だよね)」とボギーが言うと、
「(俺も最初、騙されたわ)」と直斗。
「(……マジで首落としてやろうか)……餃子!」
「餃子追加!」と怒鳴る目つきの悪いギャルたちに、店主が
「あいよ!」と言った。




