ep.36 大気は青、オーロラは緑
「あっ、あのバカ……」
一瞬で空に飛び出したボギーに、皆で頭を抱えた。
『もしかして彼、止めに行った?』
アルは少し驚いた表情になったが、口元だけは変わらず笑みを浮かべていた。だがさっきまでより楽しんでいるのが、伺い知れた。
「騙されやがって」
レジーは開け放たれた窓から、険しい顔で青空を見た。
辨野たちの様子を、アルは楽しそうに見ていた。
『AIが人間を動物扱いする要因は、これなんだろうね、ハハ。君たちの予想通り、日本を丸ごと消滅させるっていうのは、ただの脅し』
辨野の皆もPCに向き直り、無言で聞いていた。
『本当は、ある一箇所を狙って発射しただけ』
「は?」
その瞬間、辨野の後ろから、一つの白い影が一瞬で空に向かって消えた。
アルは目線を横に、何かを確認しながら言った。
『騙されたのは君たちの方。でも彼、もう止めたみたいだよ────どんな手を使っているのか、ほんと驚かされてばっかり』
ボギーが飛ぶ寸前にケルベロスに指示したのは、
「日本の東、太平洋上空、高度は800キロ!」
《800なんてわからんわ!》
「だいたい!」
青い海が曲面となって広がる、宇宙から見た地球は、曲面を青い大気が縁取り、大気の上には淡い緑のオーロラが揺らめいていた。
海に浮かぶ日本列島の細長い島影。
地球の曲面に沿って、薄く真横に広がっていた。
星々の間から、一本の影が地球に向かって動いた。
その宇宙空間に一瞬姿を現したボギーは、接近している投射体を見つけ、また姿を消した。
次の瞬間、ボギーは長さ3〜4メートルの円柱形の、金属の塊に向かっていた。
真空の静寂の中、投射体の前に塞がったボギーは、衝撃音の無い衝撃を全身で受けた。
重過ぎる手応えに、ボギーは歯を食いしばった。
「うおっ! んぐぐぐ────」
自分の背後には、地球の青い大気。
「地球の重力を出た軌道まで押し出す!」
《どこまでだって?》
「もう地球には戻れないところまで! 地球から少し離れたくらいじゃ、投射体が持ってる方向と速度に加えて、重力で地球側へ戻っちゃうから!」
背後の地球が、少しずつ小さくなっていった。
「あとじーちゃんたち! 粉砕しないでね!」
《そりゃサクッとは出来んが、何故だ?》
「破片になったら、地球の重力で持ってかれても全部止めらんないの! とにかくカケラにすんの禁止! んああああぉりゃあああ────ん?」
再びドンッ、と衝撃音の無い衝撃がボギーの体に走ったが、今度は追い風のように、背後からの力が加わってきた。
「んぐぐぐ、少し楽になったけどアレ?」
背後からの加勢で、投射体を押し出すスピードがどんどん速くなっていった。
ボギーは背中に、獣の気配を感じた。
「もしかして、ベンさんとこのオオカミさん?」
《そうだ。さっさと済ませるぞ、小僧》




