ep.35 通告
突然の見知らぬ男からのコンタクト。
皆でPCの前に集まって静観していたが、モニターに男が映し出されると、
「この人がアルカ?」
ボギーがすぐさまビリーに問いかけた。
『あれ? 僕、名乗ったっけ。今の名前はアルフレッド。アルでいいよ』とモニターの男は言った。
ビリーは冷静な表情で、
「……この間は暗かったけど、声があの時の彼だ」と言った。
『初めまして。僕は世界政府で唯一の人間です。自己紹介終わり。結論から言うと、君たちが降伏しなかったら、日本全土を攻撃する。あんまり野良が野放しだと、他の国にも示しがつかないしね』
アルと名乗る男は、口元に笑みを浮かべて語り始めた。
『やり方なんかいくらでもある。隕石の衝突や大規模な災害、という体で何でも出来る。日本だけを、消滅させる』
「そりゃあ無いな」
辨野はモニターに向かって言った。
『何故そう思う?』
「世界政府はあくまで“人間のため“に動いてるからな。国を消滅させる事は無い」
ボギーは驚き、
「え? 人間のためって、俺らは人間としてカウントされてないの?」と言った。
その返答はアルから来た。
『功利主義だからだよ。最大多数の最大幸福を目的としてるからね。1人を犠牲にしてでも、5人を救うべきだとする考え方。AIは全て“人間”のためにやっている。実際その通りだ。
だけど──僕はAIじゃない』
「君がどう提案しようが、AIは君を好き勝手させたりはしないだろう」と辨野が言った。
『随分世界政府を信用してるように聞こえるけど。でもまあ、それも正解。だが、僕は権限が無くてもボタンを押す事は出来る。
──AIユニットだらけの組織に、人間の僕を入れた意図は、
“人間は感情で予想外な事をしでかす“
からだそうだ。ハンドルの“遊び”のようなものだろう。人間は理性を司る部分より、感情や本能を司る部分が瞬時に働く、と言われたよ。動物扱いされてるのかな。
──だから僕が独断でボタンを押すことも見越して、作動しないようにしているだろう。でも僕はそれも見越して
衛星から軌道投射兵器が作動するよう変更した。
──信じなくてもいいよ。ボタンを押すだけだ』
「世界政府を信じてただの脅しと取ると、痛い目見るぞって事か」
『君たち野良がIDを持って、堂々と“国民”となれば、命だけは助けてあげようという事だ。IDが欲しい人間もいるだろう?』
「うーん、それはもっと無いな」
辨野の言葉にも皆は表情を変えず、黙って聞いていた。
「恩赦を与えるからこっちに来いっていうくらいなら、とっくにそうしてる」
『バレたか』
「世界政府はその選択はしない」
『ハハハ、そう、無い。だから君らに未来は無い。君たち野良が消されるか、野良も含め日本の国民全てが消されるか。もう一つ、国民全てが消されて、君たち7人だけが生き残るか──
君たちは多分、三次元で最強なんだろうね。だからこちらは方向を変えなければならないのに、AIは国を一つ消す事には賛成しないんだ。
──“国家には損害を与えず、野良を降伏させる”なんてナンセンスだ。勿論、君たちが言う“両方あっていい”なんていうそんなぬるい事は、もっと納得いかない』
辨野とアルのやり取りを注視しながらも、ボギーはケルベロスたちに語りかけていた。
──じーちゃんたち、あのさ──俺って宇宙に飛ばせる?
《飛ばせなくはないが、止める気か?》
──酸素無くて大丈夫かな、俺。
《酸素は三次元のものだから関係ないが、力で止めるのは骨が折れるぞぉ》
《お前の体を俺たちの次元で覆っていても、三次元のものを止めるなら、お前の力も必要だからな》
──わかった
『AIは人間のために動いてる。この時代、国防なんて必要ないのは、世界政府が取り仕切っているからだろう。国家間の争いが無くなったんだ──せこい犯罪は無くならないけど、検挙率は高い。失業率や出生率、全て好転してきたのは世界政府のおかげだよ。
やっとだよ、やっと、こんな世界になったんだ。
邪魔をしないで欲しい。
──僕が色々話をしてる間に、君らの諜報担当が今も頑張っているんだろうけど。
軌道上には数万基の管理衛星が常駐してる。どの衛星が有事用の戦闘モードへ移行したのか、そこまではわかるかもしれないけど、わかっても止められないだろう。
高密度金属製の投射体を、レールガンで発射する。
必要な場所へ投下出来る、誘導兵器だ。
──うん、タイムリミット。日本を消去する。他国にいい見せしめになるね……』
モニターのアルの背後に、アラームが鳴り始めた。
『もう投射体は日本に向かった。皆さん、お疲れさ──』
アルがそう言い終わる前に、ボギーが窓から青空に向かって飛び出し、一瞬で姿を消した。




