ep.27 1vX(ワン・ブィ・エックス)
チャコは独り、林に囲まれた白い建物の目の前にいた。
最新鋭の設備を備えている、よくある清潔な病院のように見えた。建物にも『国立精神医療センターANX』と表記されていた。
だが人もAIロボットも全く見当たらず、病院や研究所として機能しているようには見えなかった。
「医療刑務所? 隔離病院? にしては警備が薄い……」
入り口まで歩くと、防犯カメラがチャコの姿を追うように動いた。
チャコはカメラに向かって、
「カモがネギしょってわざわざ出向いたんだから、さっさと入れて」と言い、ガラス戸を回し蹴りでぶち破った。
館内は瞬く間に、非常ベルが鳴り響いた。
「あれ? ベンさん寝てないの?」
いつも一番に起きるボギーは、朝から情報部隊とコンタクトを取っている辨野に言った。
「いや、寝たよ。基本お前より睡眠時間は短いんだよ」
辨野はバーチャルデスクトップをダウンさせ、スマホの会話に切り替えた。
『わたくし社員番号010のハルです。みなさんおはようございます。試作品が医療センターに置かれている謎はわかりませんが、いずれ各コミュニティ付近に移動すると予測されます。ちなみにダイズさんは元気になりましたよ。今、ヒデさんが長い名前のフラッペを買いに走っております。ヘーゼルナッツエキストラバニラホイップキャラメルソースチョコソー──』
「ところで『レアムーン』って何」
辨野が被せるように質問した。
『レアムーンとは、月面で採掘されたレアアースの事のようです。レアアースとは、47元素ある希少なレアメタルの中の、特定の17種類の元素の事を指します。もちろん地球上にもございますよ』
「モノは同じなのに、名前が違う理由が何かあるんだな」
『レアアースは高性能なテクノロジー機器には欠かせないものですから、今まで闘ってきた重機やユニットにも使われているはずです』
「まあ、対峙してみないとわからんって事だな」
『そうですね。──あら、ベンさんベンさん、保護確案件が入ってまいりました。しかも2件。場所はだいぶ離れていますが、どちらも乳児を抱えたカップルです。ですが、これはとても怪しい』
「怪しい?」
『このカップルに怪しさはありません。ただ、このカップルに渡航の手筈をしたとみられる人間は、すでに服役中です。このタイミングで来るということは、ベンさんたちを分散させる目的であると、私たちは判断いたします。そして仕組んだのは警察、というか世界政府かと思われます』
「──オケ。マップ送って」
『あら、ベンさんベンさん、チャコさんが──』
「今度は何だ」
『チャコさん、単身で乗り込んでいます』
「やっぱりそう来たか……じゃあ、場地とビリーはそっちの保護、俺とボギ蔵は……チャコの援護に行きたかったがしょうがない、こっちの保護。双子はチャコの援護」
それを聞いたレジーは、またギラギラとした不敵な笑みを浮かべた。
「やった! プロトタイプだか何だか知らねーけど、ブッ壊す!」
場地は靴を履きながら、
「終わったらチャコさんとこ行きます」と言った。
「俺らもさっさと保護して行こう、ベンさん!」
ボギーはトマトを齧りながら、急いで身支度をした。
レジーはスマホに向かって、
「んで、格ゲーババアはどこにいんの? ヤスー、ナビれ」と言った。
『ハイハイ、マップを送りますよ。ヤスじゃなくてハルですけどね』
「ねー、なんで双子はこっちじゃ駄目なの?」
ボギーは車の中で、不思議に思った事を辨野に聞いた。
「あいつらが被害者に親身になったり、丁寧に保護とか出……」
「出来ないね! オケ、レッツゴー! てか『格ゲーババア』って何?」
「子どもの頃見たチャコの戦闘が、格闘ゲームそっくりだったんだとさ。キック力は半端ないからな……」
双子が医療センターに到着した時には、警備員や医師、看護師の姿をしているAIユニットが、エントランスや廊下に無数に横たわっていた。
その戦闘の形跡をたどりながら、走って奥に進んだ。
「格ゲーババア! 勝負しようぜ! 多く倒した奴が勝ち…………は?」
奥の部屋では、約30体の敵と闘っているチャコの姿が見えた。
だがレジーたちが驚いたのは、過去に50体と闘っても無傷だったチャコが、額や腕から血を流していたからだった。
それともう一つ、敵の異様な姿に驚きを隠せなかった。
「なんだこれ……」
「パワードスーツ着た……ゾンビじゃん……」




