ep.25 神有月に非ず
ベンは大量の冷や汗をかきながら、イズモの本堂に座っていた。
隣にコミュニティの男が座ってくれていたとはいえ、目の前にはイズモの主祭神の大国主、イセの女神・天照大神、日本武尊とその眷属、霊獣・大口真神がずらりと並び、周りを八百万の神々が取り囲んでいた。
冷や汗が止まらないベンなど意に介さず、第一声を放ったのはイセの女神だった。
《こんなにのらりくらりしてる昼行燈みたいな奴が霊獣と相性が良いなんて、実に愉快》
そこで厳しい目をしたヤマトタケルがこう言った
《私は正直チャコの事も完全には認めていない。人を危険に晒すなど、我々の本意に非ず》
そこで隅で様子を見ていたチャコが、ベンの隣に座った。
「人の手で守れるとこまでは、守りたいじゃない」
チャコはベンに向かってにっこりと微笑み、ベンはまた冷や汗がどっと出た。
《ほれ、こんな風にチャコは言うことを聞く奴じゃないわい》
《ひとまず考えさせてあげようではないか。なぁチャコよ》
「もちろん。ゆっくり考えて。オオグチノマガミ様も」
イズモで10月以外での異例の会議は、この後もまだ続いた。
「それで今度は友達を連れて来たのか?」
ベンは幼馴染2人を連れて、コミュニティの施設内にある食堂にいた。テーブルについたベンたちを囲んで、人だかりが出来ていた。
前回、本堂に同行した男が驚いて、何故友達を巻き込んだと言った。
「こいつらにはどうせバレるだろうし。話したら見に行くって聞かなくて。すみません」
「野良になるって決めたのか。ありがとな。イセの女神はお前を昼行燈みたいな奴とか言ってたが、恐ろしく強い霊気を持ってるって後で言ってたぞ」
「ナオ、ヒルアンドンって何だ? ……うどんの仲間か?」
賢斗がこっそり直斗に言った。
「行燈って明かりの事。昼に明かりを付けてる役に立たない奴、みたいな意味」
それを聞いた賢斗は、
「ベンは役に立たないんじゃない! やる気が無いだけだ」とキリッとして言った。
「ありがとな……でももう黙って……」
その時、食堂にチャコが入って来た。
「ベンくんありがとう。仲間が出来て嬉しい」
賢斗は目を丸くして、ベンに
「誰?」と言った。
「この人が……例のチャコちゃん。龍使いの」
「マジか……ホントに龍使いなんていたんだ」
直斗は呆気に取られた顔で言った。
「ベンくんのお友達も、よろしく」
微笑んだチャコを見た賢斗は、いきなり大声で、
「僕も野良になります!」とチャコの手を両手で握った。
「はァ?」
ベンと直斗は大声で叫んだ。
ゲーム制作会社兼、情報部隊の作業部屋では、ヤスたちAIロボットが異変を解析していた。
ダイズのタワーマンションの方のモニタリングルームも同様で、ヤスたちは二手に別れて解析を急いでいた。
「僕も起きる……。気になってしょうがない」
ダイズはベッドから起き上がり、自分のPCチェアに座った。
「いやいや、お熱は下がったんですか? 咳は?」
「もう平気!」
ダイズはヘッドセットを付けてモニターに向かった。
[──月面での採掘量が今までとは格段に違いますね]
[世界政府は堂々とやっちゃっていますが、発表はしないようです]
[何が目的かはまだわかりません]
[──プロトタイプ完成、だそうです。何か作っていますねぇ]
[プロトタイプと素体を日本に送り込むそうです]
[素体とは何のことでしょう。もうちょっと調べないとわかりませんね]
[月の鉱物の何かを特に目的としているようです]
[それならレアメタルが有力ですね。レアアースでしょうか。あとはヘリウム3、ルナウォーターアイス、LCP、それから──]
[おや? 聞いた事ありませんね、この鉱物。レアアースじゃないようです]
[発表もされていませんね]
[レアムーンと呼んでいるようです]
ダイズ抜きなら、こやつらはわざわざ文字に起こさなくても会話は出来ます。通信で周知出来ます。AIユニットたちも。




